ダンジョン最下層最深部の扉の奥は、空間がねじれて異世界に繋がっていた。そこは日本の地下鉄駅のようだった。
駅のホームらしき空間を調べてみたが、どうやら空間が転移しているのはこの駅のホームの一部だけらしいことが判明。
この空間の大きさは、電車五両分の長さと、幅は線路二つ分。それほど大きくはない。
入口の扉付近はきれいな金属製の壁だったのだが、先の方は、ぶつ切りにされた岩石の壁になっている。いかもに空間転移で突然ここに出現したという感じだ。
「特に変わったものはないようですが、レベッカさまはどう思います?」
「そうですね、見たところ空間転移に巻き込まれた人もいないようですし」
「人が巻き込まれていなかったのは幸いです。空間転移といえど、もしかしたら転移召喚勇者になっていたかもしれないと思うと、また監視対象が増えてしまいます」
「でも私たち聖女の仲間が増えていたかもしれませんわよ? アリシアさま」
「うふふ、そうですわね」
「うふふふ」
監視対象とか言っちゃってるけど、やはりボクら転移勇者は、王国では戦術兵器なのだろうか。剣聖勇者のクボちゃんはあまり気にしている様子はなかったが。
この第十階層深層部には特に魔法技術に関する情報はなさそうだと判断し、ボクたち五人は扉の外に戻ることにした。また、先行していた探検隊との合流も果たせていないので探さねばならない。
この階層は全体的に他の階層とは異質で、通路の壁も、天井も床も全体がツルツルの金属製だ。ただ科学文明を匂わせるこの通路は、先程の空間転移してきた駅のホームとはまた異質に見える。
これがいわゆる古代魔法技術王国の遺物なのだろうか。
あまりにも迷宮っぽくなかったので、なんの違和感もなく通路をそのまま進んで最深部まで足早にすすんでしまったが、改めてよく確認しながら通路を戻っていると見落としていた通路の分岐を二つ発見した。
進行方向が逆で、気がついたのかもしれない。外から奥への方向に進んでいたらちょっと気が付きにくい造りになっている。
そこでダンジョン探索のセオリーに則り、今度はキチンとマッピングをすることにした。この一つ目の分岐通路を探索後、もう一つの分岐も調べないと。
その一つを進むと少し開けたロビーのような空間に出た。天井も少し高くてボクの背丈の二倍くらいはある。
空間の奥の方に焚き火を見つけた。先行していた探索隊のようだ。
「やあやあ来ましたね。シノヤマちゃんご一行さま」
明るいAランクパーティのリーダー。長い金髪の髪をかきあげてキメ顔とか相変わらず鬱陶しい。
確認をする――
まず、冒険者パーティの面々。
金髪ロン毛のAランクパーティ、剣の使い手の男性リーダー、攻撃系魔法使いの男性。回復系魔法使いの女性、みな若い。計三名。
そして王立アカデミーの考古学博士の白髪白ひげのじいさん、その学生の少年少女二人の計三名。
さらに王国協会の僧侶魔術師の中年男女二人。
ボクたちは、ボク、魔法使い系転移勇者のシノヤマ、剣聖転移勇者のクボちゃん、聖女のアリシアさんとレベッカさん。そして少年執事風の使い魔ベルンハルトの五人。
地上のベースキャンプには二人残しているので、合計十五名、欠員なし!
「――って、まって! 黒髪の女性は?」
ボクは声をはりあげた。今回急いでダンジョンに来た理由。黒髪の女性は?
「あー、それがですね、あまり会話もしてなかったというのもあるが、おしっこかと思ってね。少し目を離したところ、いつの間にかはぐれてしまったんだ」
「は?」
ボクはびっくりして口がポカーンと開いてしまった。
「もう何やってんですか。なりそこない勇者の保護は王国の最優先ですのよ。冒険者パーティといえどその事は十分理解されているはず」
レベッカさんが静かに怒っていた。物言いは丁寧だけど怖い怖い。
「いや、まさか勝手にどこかに消えちゃうなんて思わないじゃないですか」
「もう、リーダー失格」
「すぐに探しにいきましょう。記憶が一部欠落しているのだし、なんらかの事故を起こしてしまうかもしれない」
ここまでにその黒髪の女性とは会っていないので、もう一方の分かれ道の方を探してみようという事になった。
そこは狭く、上に伸びている階段だった。
結構登ってきた。
レベッカさんが律儀に数えながら登ったのだけれど、百段登るごとに階段通路は九十度右に曲がり、また百段登ると九十度といった具合にずっと右に曲がりつつ登る階段だった。
時々休憩を挟みながらどんどん登っていった。あまりに長い階段なので、探索でお互いのパーティがこれまで分かったことを登りながら話をした。
この最深部だけが異質で全体的に金属で壁や床が作られている。
また床と壁の間の部分には一定間隔で排水溝のような溝がある。
壁と天井の間も等間隔にガラスのようなものがはめ込まれたものが等間隔にある。
よく観察をしていなくて気が付かなかったがどうやら照明設備のようだった。
―― つづく