「ええいままよ! 第一級接触禁忌種厳重管理区域って何ですか!? 危険生物って、一体何を隔離してるんですかここはっ!? 窓の外は真っ白で何もない地面が続いてる……けど、誰かの執拗な視線を感じるような気持ち悪さがあるし……。と、とにかく全部が意味不明なんですけどっ!!」
よし言った。若干負けた気もするが言ってやったぞ。
息巻いて、疑問を隈なく
「……何だ。窓の外、見たのか?」
「あれ……。言ってませんでした、っけ……? 一応その話は重要事項じゃないと思って、
「——ってのに、馬鹿な奴」
前半は、小さな声で上手く聞き取れなかった。しかし、後半の「馬鹿な奴」という台詞には、ただの
「その白い景色こそ、
ソファから立ち上がり、窓際のベッドまで足を運ぶ男。シャッと一挙にカーテンを開け、何も映さない窓にそっと手を当てる。そして、真っ白いエリアの存在について説き始めた。その後ろ姿に、何か可哀想なものでも見るような佇まいに、妙な違和感を感じたのは言うまでもない。
「にしても、よく向こう側の視線を
無意識下で監視官の視線を察知していたとは露知らず。それに感付いたと伝えたことが何か不味かったのかと思いつつも、彼の言葉に耳を傾ける。
男は小さく言葉を続ける。「ま、それは俺にも見えてるんだけどね」と。
The watcher is also watched——そんな言葉を体現するような彼の異様で
そして、彼はまだ家主と名乗り出ていないものの、【小説の所有者】である。【扇状の造りをした室内】が、彼の住んでいる私室なのだとしたら。そう考えたところで、推測は確信に変わる。
「あ、の、もしかして——」
「漸く答えに辿り着いたか。ご明察の通り。ここで隔離されてるのは、
「何で……、そんな……」
唐突に訪れた衝撃。何故そんなにもやけに簡単に事実を明け透けにした? 物憂げな瞳が何を語るのか、僕には知る由もない。
しかし、
確かに、つい先刻蛇のように
「で、でも!! 僕が侵入した割に警報とか鳴らないってことは、本当はそんな厳重な設備じゃないってことですよね!? だって一般人の僕ですら、監視官に見付からずに
不吉な空気が漂う場面を取り繕うかの如く、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「
男はゆったりとした動作でレッグホルスターから拳銃を引き抜き、未だカウチソファに座る僕へ
実際は違う。途端に豹変した、彼の冷徹な瞳と嘲笑う口元。地獄への門が開かれたことを暗示するかのように、
「俺、お前に要求したよな。ことのあらましを説明して欲しいって。んで、順序逆に再度説明して欲しいって」
「し、ましたね。でも、一応僕の話が本当ってことで仮説を立てて、記憶喪失ってことで納得したじゃないですか」
「一度片の付いた案件を何度も
——ガッと右頬に衝撃が走る。拳銃を持つ左手で頬を強く殴られ、カウチソファに深く沈む。勢い良く倒れ込んだ肉体を受け止めようとする反動で、ソファ内部のスプリングが小さく軋んだ。
「な、に……?」
口の中に広がる鈍痛、蔓延する血の匂い。単に、これらに戸惑う訳でもない。単純に何が起きたのか、全く分からなかった。僕は、ソファの上に俯せになった視界の中で、己の手の甲に付着した赤い水滴をじっと眺めていた。
点々と数を増やす斑点は、切れた口腔から滴る血液そのものだ。「一度殴られただけでここまで出血するのか」と、半ば予想外の事態に驚愕する。腫脹しているであろう右頬をするりと撫でると、思いの外高熱を帯びる頬に不安感を覚えた。口内の頬肉にそろそろと舌を沿わせると、バックリと裂けた損傷部に辿り着く。傷付いた頬肉に舌が接触するだけで、ビリビリとした痛みが駆け抜けた。
数秒してやっと頬の感触が戻り、なるほど
「——暴力とかな」