やがて私達はその場所に辿り着いた。そこには確かに太いしめ縄が張ってあり、何だかとても仰々しい立て看板が立ててある。
「なになに? この先、禁足地。神々の住まう場所なり。足を踏み入れるべからずだって!」
美樹はそう言って嬉しそうに言いながら看板の下に置いてあったお供え物を置く場所にそっとお酒を置いている。それを見て私も鞄から酒瓶を取り出す。
「私も持ってきたの。ここの神様、お酒好きなんだよね?」
「小春、ちゃんと調べて来たの?」
「うん。やっぱりそういうのはちゃんとしといた方が良いのかなって思って」
そういう事はよく分からないけれど、目に見えなくても神様の存在は私も信じている。
そう言って少しだけ奮発したお酒をそこに置くと、美樹が嬉しそうに微笑んで頷いた。
そこへ後ろから男女のグループがやってきて、私達を一瞥するなり大声で笑い出した。
「やっば! 女だけでパワースポットとかガチすぎて笑えないんだけど!」
「マジウケる! てか写真撮ってよ、写真!」
「いいぜ。あのーすんません、そこ邪魔なんでどいてもらっていいっすか?」
「ちょ、お前失礼だろー!」
ギャハハ! と笑いながらそのグループは私達が場所を譲ったのを良い事に、今度は色んな角度から禁足地の写真を撮り始める。
そんな彼らを見て美樹は大きなため息を落として私の耳元で言った。
「こんな所でよくあんな事するね。無知にも程がある」
その声はあまりにも真剣だが、私もそう思う。
私達が顔を見合わせてその場を離れようとしたその時、突然その学生グループが私達がさっき置いた酒を見て叫んだ。
「おい! こんなとこに酒置いてあんぞ!」
「マジじゃん! ラッキー、ちょうど喉乾いてたんだよ!」
そう言って男子二人が酒瓶に手を伸ばしたその時、とうとう美樹がキレた。
「ちょっとあんた達、それはお供え物よ!?」
「はあ? なに、あんた。俺等に説教?」
「ちょ、止めなよー! ガチの人たちは真剣なんだってー」
「そうそう! 可哀想じゃ~ん!」
下手に関わるとこういう人たちは何をしでかすか分からない。私はこれ以上絡まれたくなくて美樹の袖を引っ張った。
「美樹、もう行こ」
「でも!」
「こんな所で喧嘩したら運気下がっちゃうよ」
「それはそう……かもだけど」
「運気下がっちゃうよ~だって!」
美樹が俯いたその時、酒瓶を見つけた男子がシナを作って私の真似をし始めた。よく見ると手に持たれた酒瓶は既に封が切られている。どうやら本当にお供え物に手をつけたらしい。
「ちょっとあんた達!」
「美樹! いいから」
昔からこうだ。性格のせいなのか身長のせいなのか、こうやっていつも知らない人にさえからかわれる。いつも相手に舐められてセクハラまがいの質問を沢山されたり、やたらとボディタッチをされたり。
嫌なのに、それを強く言えない自分の性格にもいい加減うんざりしている。
流石に異性からの食事の誘いや飲み会への参加は全て断っているが、それが出来るのはいつまでだろうか。
こういう輩は相手にするだけ無駄だ。私が美樹の手を取って逃げようとしたその時、学生の一人が突然私の腕を掴んで酒臭い顔を近づけてきた。
「えー、もっと見ていきなよ~。てか、あんためっちゃちっちゃくて可愛いじゃん。どこの学校?」
ギャハハ! と大声で笑う学生たちに囲まれて私は下唇を噛みしめる。
「……放してください」
私が掴まれた腕を振りほどこうとすると、男子は顔を真っ赤にして私を乱暴に引っ張った。
「きゃぁっ!」
その途端、私はバランスを崩してあろうことか、しめ縄を超えて禁足地に倒れ込んでしまったのだ。
「小春! あんた達それ以上やったら警察呼ぶわよ!」
禁足地にうっかり倒れ込んでしまった私を美樹がすぐさま助け起こしてくれたが、その時、どこからともなくリーン……と小さな鈴の音が聞こえた。