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第3話『天罰』

 鈴? 思わず辺りを見渡しても皆には聞こえなかったのか、誰も気にする素振りもない。それどころか今度は美樹と男子の喧嘩が勃発しそうだ。


「はあ? 呼べるもんなら呼んでみろよ!」


 男子がそう言って腕を振り上げたその時、どこからともなく突風が吹き付けてきた。その拍子に地面に置かれていた彼らのスマホやらカバンが風に巻き上げられて禁足地の奥に消えていく。


「ちょ、なんだよこの風!」

「やだー! 私のスマホー!」

「私のバッグも飛んでったんだけど!」

「てか俺等の荷物全部持ってかれてんじゃん!」


 学生たちは笑いながらそう言って我先にと禁足地のしめ縄を乗り越えて林の中に消えていった。


 未だに吹き付けてくる風はあまりにも強く、そこら辺の木が一斉に揺れて葉が擦り合わさる音が響き渡る。その音は異様な程に不気味だ。



 リーン……リーン……。



 葉のざわめきの合間にまた鈴の音が聞こえる。


「美樹……帰ろうよ」

「う、うん」


 美樹も何か良くない物を感じたのか、私達はすぐさま早足で山を下りた。


 山を下りてそのままバス停まで無言で歩き、やってきたバスに乗るとようやく強張っていた体から力が抜ける。


「ごめんね、小春。誘わなければ良かった」


 ぽつりとそれまで黙っていた美樹が口を開いた。そんな美樹の言葉に私はゆっくりと首を振る。


「気にしないで。いつもの事なんだよ。私こそ嫌な思いさせてごめんね」

「なんで小春が謝るのよ! 悪いのはあいつらじゃん。どこの学校の奴らだろ。見つけ出して通報してやろうかな」


 真顔でそんな事を言う美樹に私は思わず笑い声を漏らしてしまう。と、その時。



 リーン……リーン……リーン……。



 また鈴の音だ。


「ねぇ美樹、鈴持ってる?」

「へ? 鈴?」

「うん。何かさっきからずっと鈴の音が聞こえるんだけど、美樹のかなって思って」

「鈴なんて持ってないよ?」

「え? それじゃあこの音……」


 耳を澄ましても何も聞こえない。幻聴か? そう思った矢先——。



 リーン……。



「ほら、今!」


 思わず美樹を見ると、美樹は怪訝な顔をして私を見つめて首を振る。


「何も聞こえないよ。大丈夫? もしかしてさっきどこか打ったんじゃないの?」

「尻もちはついたけど、どこも打ってなんて——」


 そこまで言って私はハッとした。もしかして禁足地に入ったから!?


 私の顔を見て何かを察したのか、美樹が苦笑いをして首を振った。


「禁足地に入ったぐらいで実際に何かあった人なんて居ないよ、小春。多分幻聴の類だと思うけど、もしかしたら良くない物連れて帰ってきちゃった可能性はあるよね。一応、お祓いの方法教えとくね」

「う、うん」


 私もそう思いたいが、何だか凄く嫌な予感がするのだ。


 けれどそれを美樹に告げる事が出来ないまま、私は簡易のお祓い方法を聞いて寮に帰るなりすぐさま言われた通りお清めを済ませた。


 それにしても山歩きなんてしたのは何年ぶりだろう。嫌な思いもしたけれど、こんなにも自然に触れたのは久しぶりで何だかリフレッシュは出来たような気がする。


 その後夕飯を食べてお風呂に入った私は何気なくテレビをつけて適当にニュースを流し見していたのだが、そこにあのパワースポットが映し出された。


『次のニュースです。東京都の郊外にあるパワースポットとしても知られる場所で大学生四人が崖から転落するという事故が発生しました。四人は何らかの理由で敷地内に侵入し、誤って崖から転落した模様です。四人は意識はあるようで、命に別状はありませんでした。それでは次のニュースです——』

「っっ!」


 思わず私が口に両手を当てて後ずさると、スマホが鳴った。視線を落とすと美樹から連絡が入っている。


『ニュース見た!? これ、あの四人だよね!?』


 その一文を見て私がスマホを操作しようとしたその時、またリーンと鈴の音が聞こえてきた。


 怖くなった私はすぐさま美樹に返事だけしてテレビを消すと、ベッドに入り頭から布団をかぶる。


 やはり禁足地に入ってはいけなかったのだ。この鈴の音もきっと気の所為ではないのだろう。


 明日、ちゃんとしたお祓いに行ったほうが良いかもしれない。そんな事を考えながら私は気がつけば眠りについていたらしい。

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