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第10節

第10節 星の叙事詩


 第一節 星降る誕生

天(あめ)ひらけ 銀砂のごとく

光は海に こぼれ落つ

ひとつの星 涙をまとい

地に降りて 神子となる


第二節 旅立ちの道

黎明(れいめい)の風 頬を撫で

千の星名(ほしな)を胸に抱き

白き竪琴 ひきならし

運命(さだめ)の歌を 道に撒く


第三節 試練と影

闇は寄り 声を奪い

波は荒れ 舟を沈めんとす

されど神子 弦をはじき

ひとつひとつ 闇を裂く


第四節 帰還と祈り

星の門(もん) ふたたび開き

仲間の名を 夜に刻む

竪琴の音 やがて消え

ただ祈りだけ 残りけり


 サーラの 指先が 弦を 爪弾くと…… 唇が 優しく 高く そして低く 詩を刻んだ

 キン……キン……

 クリスタルを 打ち鳴らすように澄んだ音色 美しい古代の紋様の 彫られた壁が カチリ カチリと 横滑りする

 そして 剣の 紋章の 真ん中に 嵌められた 玉が キラリと 輝いた

 き……ん

 壁がずれいくと…… 美しい水路が現れる

「星の砂でこした水が流れています……」

 ラウルが そうっと ひとすくい 口に運んだ

 ここだけにしか流れない

 水源の 限られた 水です

 サーラが それに習った

 水が手に慕わしい

 手を切るのでも無く

 冷たすぎるのでも無い

「ふぅ……」

 サーラが 水を含んでため息をついた

 疲れた体が 癒えていく

「優しい水なのね」

「きゃん……」

 リリーが ぺろぺろと 水を舐めると サーラの 頬を舐めた

「リリー……」

 サーラが ぽわぽわと 撫でる

「きゃん……」

 尾っぽを ぶんぶかふり……

 クルクル回る

「ラウル……戻ったかね?」

 歳なら90歳だろうか

  おじいちゃんが 近寄って来た

「長老様!」

 金の瞳……だが 片方が月のような銀である

「ようこそ 神子様……」

 長老様が にっこり笑う……

 なんだろう?カームに似ている

「カームに会いたいですかな?」

「え?」

 会いたいですかな?神子様?

「は……い……それはもう……」

 ならばこちらへ……さぁさ……

 天幕の中へと導かれる

「神子様!」

 そこに笑顔でいたのは…………!

「嗚呼……カーム……」

 サーラが ぺったりと 座り込んだ

 そして涙が次から次へと流れる

「時渡りです……」

 長老が サーラの 髪を撫でた

 カームは1度没しましたが あまりにも 神子様の祈りが強かったので……

 時が孵ったのですよ!

 孵った?

「左様…… 時の 卵が孵りました……」

「神子様!」

 カームが 両手を広げる

  だっ……

 サーラが 飛び込んだ

「カームったら!カームったら!」

 ぽすぽすと 胸を叩く

「どこも痛くはありませぬよ!」

 カームの声は朗らかだ

 きゅーん……

 リリーが お座りして カームを 見つめている

「リリーや!」

 カームが呼ぶと リリーも だ……と 飛びついた

 そしてカームの顔を舐めて ベチャベチャにする

「おやおや……」

 カームが笑った

「みーんなで泣いたのよー!」

 サーラが プクっと むくれる

 おやおや!これはこれは!

 こわいですな……

 叱られますかな?

 叱ります!

 ルーテルが カームの 頬を つねった

 ルキオは わんわんと泣き

  ラウルは そっと 目を拭う

「カームったら!」

 お仕置!

 サーラと呼びなさい!

「サーラ」

 迷うことなく カームは 呼んだ

 慕わしい その名を

「さあて……方舟を呼びますかな?」

 長老が 凄く小さなキューブを とりだす

 神子様 星の詩ご存知ですか?

「いいえ……」

 サーラが首をふる

 ではでは!

 あそこなヒバリと ご一緒に…… ぽろ……

 弦が 己から鳴る

 静かに静かに

  そして

 歌は キューブを 囲い

 きらと 煌めいた

 キン

 キューブが開いた

 それは小さな……小さな 方舟

 でも掌に乗る程で だがしかし 透き通りはじめた……

 そして空に 浮かぶ

 星空を サラサラと 滑る

「さあ……行きましょう……」

 長老が 声を 発すると 全員は 星の海へと 滑り出していた……

「民が……」

 はい……

 転移させましたよ!

 長老が 小さな水晶を サーラに 渡す

 おもちになって……

 ラウル……

 星渡りだ……

 地球へむかう……

「はい……」

 テラへ……

 方舟がオールを出した

 星が流れ

  宇宙を 渡る

 銀の砂の星が キラキラ歌う

「綺麗……」

 はい……

 サーラ……

 カームが サーラの 手を抱いた

 サーラ!

 神子様は この代でしまいです!

 地球に降りましたら……お好きなだけ駆け回ってください……

 そしてリリーと 転げて……

 遊んで遊んで

 たまにはカームとも遊んでくださいね?

 はい……

 キラキラとした瞳でカームを 見つめると サーラは そっと カームの頬にキスをした

「お父さん……」

「おやおや……」

 カームが こそばゆそうに 首を竦める

 神官兵が サーラに 手を振る

「お兄ちゃん!って呼んでいいの!カーム」

「お好きなだけ……」

「うふふ……」

 サーラが にっこにこしながら……

 里の祭りの歌を歌った

 タンタカタン……

 タムの音……

 見れば里の民!

「皆!」

 サーラが 抱きついて行く……

 タンタカタン……

 星渡りは 星祭

 サーラの 時代から 地球で星祭が芽吹いたのであった

 タンタカタン……


 エンド



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