第9節 涙の先に見えたもの
サーラは ラウルの腕に運ばれながらうなされていた
追われる……追われる……
背から 剣で切られて
カーム!
いや!
カーーーー厶!
サーラの背が硬直した
「サーラ……」
あたたかい声……
包むマントの匂い
力強い腕……
サーラの目が開いた
「カームが……」
紫の瞳から涙があふれる
「か……カームが!」
身悶えして
足掻いた
ラウルは……静かにおろす
「黙っていてすまない……」
虚脱に満ちたサーラの瞳を 救うように見るラウル
「私が悪い……貴女には言えなかったカームは……死ぬつもりだった……覚悟をしていた……リンカ様が没せられた時に王都陥落の時には……サーラを逃がせと……」
「そんなの知らない……聞かない!聞きたくない」
サーラはかぶりをふった
「ルーテル!ルキオ!裏切り者」
ルキオが 張り裂けんばかりに目を見開いた
「お許しください」
リリーのみが……サーラに ピッタリと寄り添っている
「最後に貴女と会えた……それが救いだったと……まるで娘に会ったようだと……そして心の底から愛しておりますと……」
ばし!
サーラの手が自分の頬を打った
「バカ!バカ!私が死ねば良かった!代わりに死ねば!」
己を打ち続けるサーラの手をラウルが抱きしめた
「どうか……どうか……罵るならばラウルを……打つならばラウルを……」
「死ね……死ね……神子になって……救った気になってわがまま言って……愛してもらった!逃がすなんて!一緒に死にたい……」
「なりません……」
クーン……
リリーが鼻を鳴らした
そしてサーラの打ちすぎて真っ赤になった頬を舐めた
「サーラ……」
いっそ……死ねてれば!
自分の首をしめてしまいたくてサーラが ラウルの腕を振りほどく
「神子様」
カーム……
カーム!
今ね
空耳すら聞こえたのか
カームの声がした気がする
「神子様!」
リリーの首輪に小さな宝玉
思念球です
ラウルが リリーを撫でながら……そっと外した
そしてサーラの震える手に預ける
「カームが……」
「神子様……お慕いしております……民草を……どうかお守りを……カームの祈り……神子様叶えてください」
パウ……と 光が放たれカームが映る
「神子様!娘にしてと……父と呼ばせてと……仰った貴女がどれだけ愛おしいか……どうか方舟を……」
リリーが しっぽをふった
「サーラ様できるだけ神官と 神官兵は逃がします……町も残すように嘆願いたします!勝手で……」
途中で……チカチカと 揺れる
「消えないで……」
サーラが 手でぎゅ……とにぎった
星の命運がかかっています!
方舟を……サーラ……愛しい子!最後に……1度だけ呼ばせて下さい……
サーラに……会えて幸せでしたよ……
すくわれました
か……か……カーム……
サーラが 肩を震わせる……
嘆かないでください……良いですね?
でないと追っかけまわしますよ!
「は……はい」
サーラが……コクとうなづいた
「カーム……大好き……」
サーラは 鎮魂の歌を口ずさむ
震える声で低く……
「リラを……」
ラウルが渡すと
サーラが受ける
ほろ……
指が弦を撫でた……
全ての亡い魂に……涙や慟哭ではなく……眠りの歌
「サーラ」
ルーテルが……少しだけ遠慮がちに声をかける……
「ん……」
サーラが頷いた……
「ごめんね……」
ルーテルが縋る
「わかったよ……ルーテル……ルキオ……」
私ね……わかったよ……
愛してるからこそ……
黙っていたんだよね……
ね……
笑顔が湧いた
「サーラ」
ラウルが見とれるように……その笑顔を胸に刻む
「サーラ様」
ルキオ……
サーラが……ルキオの 頭をぽんと撫でた
きゃん……
リリーが……ぶんぶか しっぽをふって
3人の周りを 回る
ラウルの瞳を真っ直ぐに見たサーラは
「星の民とお会いします……」
呟いた
「ありがとう……サーラ」
ラウルが金の瞳で受け取る
「きっと長老がお待ちだ……」
ラウルの 剣の 柄の紋章が光を放った
サーラ星の叙事詩を……