初めての后狩り、初めての護衛番。緊張はしているが、こんな嵐の夜に陛下はいらっしゃらないだろう、とシェルは少し気が楽だった。合理的に物事を進め無駄を嫌うあの方が、わざわざ悪天候の中、闇を縫って后狩りを行う理由がない。
狩りの獲物は『建国の五柱』の一柱、ユングリング大公家唯一の公女――皇家を除いた帝国第一の家門の嫡女であり、どこに嫁ごうとも劣ることのない格を持つ。その上クリスティーナは、心優しく教養深く、実に可憐な美少女なのだ。
「お兄様、お疲れでしょう。こちらにお座りになって」
「ありがとう、クリス」
蝋燭の薄明かりの中、何よりも可愛い妹に手招きされ、シェルは素直に頷いた。今夜は何も起こらないだろうという楽観と、慣れない剣の重さから来る疲労が、護衛番の警戒心をほどいている。扉の外、廊下に陣取っている従兄弟たちも同様で、何名かは部屋に引き揚げたようだ。
数代ぶりの后狩り、しかもユングリングに連なる者がその標的となったことは過去になく、一族の者たちも護衛番の勝手がわからない。皇帝が視察から帝都に戻ったのは昨日、不在にしていた間の政務も溜まっているだろう。后狩りがいつ行われるかわからない以上、護衛番は数週間の長丁場を覚悟しなければならない。
つくづく、不合理で野蛮で迷惑な慣わしである。