(あの御方が厭われるすべてを含有する蛮習なのに、何故后狩りなどをお考えになったのか……)
使いを立て婚姻を申し込めば、智勇に優れた若き皇帝の求婚を拒む家などないというのに。
(いや……クリスをよく知るからこそ、后狩りを思い立たれたのだろうか)
家柄はこの上なく教養も高く、穏やかな気質で、どこを取っても皇后に相応しい姫でありながら、クリスティーナには欠けているものがある。後宮の要となり、十人の妃たちを束ねる覚悟だ。全員が年上で皇子皇女を儲けている彼女たちの上に立つのが、クリスティーナには恐ろしく、憂鬱でしかないのだ。
この国の有力者は妾を持つのが当たり前で、父である大公も正室以外に何人もの妾を持っている。シェルとクリスティーナは同母兄妹で、母は正室だったが、寵を競う妾たちの諍いを身近に見て育った。父大公に溺愛され、掌中の珠と育てられたクリスティーナを直接害する者はいなかったが、それでもおっとりした妹が、皇帝の後宮に入ることを恐れるようになるほど、十分に陰湿だったのだ。
「今夜はもう遅いわ、お兄様もお寝みになって」
「そうだね、クリスも疲れたろう。僕はこの長椅子を借りるよ」
「まあ、それではお疲れが取れないわ」
「万一陛下がいらっしゃった時に僕がいなかったら、我が家の面目が立たないだろう?」