兄の体を気遣う妹にやさしく言い聞かせたが、クリスティーナは顔を強張らせて口を噤んでしまった。
門柱に白羽の矢を立てられてから、妹は入宮を嫌がり泣き暮らしていたという。シェルが帝都に戻ってからは、その看病と再会の喜びに涙を見せることはなくなり、側付きの者たちを安堵させていたが、皇后の位に登ることを納得したわけでも、覚悟を決めたわけでもないようだ。
「ねえ、クリス。後宮を厭う気持ちはとてもよくわかるけれど、陛下に見初められるのはとても名誉なことだ。あの御方は、優秀な者しか側に置かない。ただ美しいとか家柄が高いとか、そういう理由でクリスを選ばれたのではないはずだよ」
「わたくしはそうは思いませんわ」
普段は聞き分けのよい妹がすかさず反論したことに驚き、シェルは目を瞬かせた。蝋燭の灯りを映しているせいか、妹の黒い瞳は怒りにきらめいているようにも見える。
その沈黙を突いて、クリスティーナは言い重ねた。
「だって即位なさる時、お兄様を侍従から外されたじゃありませんか」
「クリス……」
皇太子付きの侍従はみな、主人の即位とともに皇帝付きの侍従となった中、唯一シェルだけが職を解かれ、皇宮内に与えられていた私室も失った。一年前のことだ。
それは、新帝の信を失ったことを意味していた。