──一族の役にも立たぬ愚か者が!
皇家との密接な関係を築くことに腐心する父大公に厳しく叱責され、帝都にもユングリングの領地にも居場所がなくなったシェルは、傷心を隠したまま、留学の名目で異国へと逃れた。何度考えても、侍従として仕えた五年間を省みても、それほど強い不興を買った理由に心当たりがなく、そのことで深い自責と自己嫌悪に囚われたからだ。
自らの過ちにいまだ気づけぬほど愚鈍だから、敬愛し、心を込めて仕えた主人に厭われたのだろう。
それでも、幼い頃から憧れ続けた学問と芸術の都ミレニオで、大学に入り本格的に学業に没頭する日々は充実して楽しく、学友もでき、一年前に受けた傷は少しずつ癒えていた。心配させないように、時折交わしていた妹への便りでは、常に明るい筆致を心掛けていたのだが。
「お兄様ほど博識で洗練された美しい殿方、この国にはいないもの。それなのに……陛下には人を見る目がないのよ」
「こら、クリス」
妹の軽口を、顔を顰める振りで不敬と咎める兄に、その返事も「はぁい」と軽い。
「でもそのおかげで、お兄様はお母様の国へ行けたのだから、よかったのかしら。……居心地がいいのでしょう?」
ここよりも――どこよりも。
目と目を合わせれば、言葉はなくても伝わってくる。伝わってしまう。妹の声なき声も、それに対する答えも。