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第10話 ホーン目線

「離縁?」

「はい。こちらに書類が届いております」

サイモンが茶封筒を、渡そうとしてきたが首を振った。貰っても置く場がない。

執務室の机の上にこれから出す礼状が山積みになり、下手に触ると混ざって分からなくなっても困る。

礼状が遅くなれば遅くなるほど、相手に対する親睦が薄いと感じられ、この先の付き合いに支障が出てくる。

そんな肝要な事をしているのに、あの女の、それも離縁だと!ふざけるな!!

妻としての仕事を放棄した上に、悠々と実家で過ごし、私の悪口を言っているんだろう。何様のつもりだ。

「その辺に置いておいてくれ。今は礼状の返事で忙しい」

「承知しました。では、こちらに置かせて頂きます」

ソファの前のテーブルに置いた。

ソファに座るカテリナが興味津々で封筒を見ていた。

「後で見る」

「ご主人様、少し私が話を聞いて来ましょうか?」

「それは助かる。私は手が離せないから、頼む」

30代と若いながらも執事あるサイモンはよく気がつくし、よく動いてくれる。

父上が当主の頃サイモンの父が、執事をしていたが、瓜二つだ。

丁寧で、余計な事は口を出さず、かと言って空気が読めない訳では無い。

感情を表に出さずつねに冷静に対応してくれる。

「承知しました。では今すぐにでも様子を見て参りましょうか?」

「今すぐ?そんな事よりも、私が書いた礼状の送り先を確認するのが先だろう?明日でいい」

あの女がパーティーから帰ったのはもう噂になっている。その上で、礼状が遅くなってみろ。私の質が疑われる。

妻がいなければ何も出来ない不甲斐ない、主。そうなれば、逃げられた、と勘違いするもの達が増える。

「かしこまりました。では、こちらに置いてある住所録と封筒の宛名を確認しましょう」

「頼む」

「私、手伝うよ」

カテリナが私の側に来たが、ゆっくりと首を振った。

「大丈夫だ、カテリナは座ってるだけでいいんだ。いつも言っているだろ?ひとりの体じゃないんだ。少しのことで何かあっては大変だ」

「心配性なんだから。ふふっ。でも分かったわ」

納得したようでソファにまた座ってくれた。

良かった、と安堵する。正直カテリナには手伝えない。言い方は悪いが育ちが出てくる。カテリナの家は裕福でもなく、程度の低い男爵だ。その為、礼儀作法も学ばせる余裕もなく、周りの貴族を見て見よう見まねした程度しかない。

勉学の方も平民と同じ学園にしか通えなかった為、貴族令嬢、と言うには語弊を感じる。

その為、文面が幼稚な上に、読めない文字まである。勿論、同じ事を書かせればいいのだが、如何せん字が汚い。そこまで、教育させる余裕がなかったのか、と不憫に思った程だ。

だが、愛さえあれば、そんなもの必要ないと、つくづく思った。私の側にいれば、なんの不自由もなく、何の育ちも必要なく、幸せに暮らせる。

産まれてくる子供には、愛情を注ぎ、出来るだけの教育をさせてやる。

いや、カテリナと共に学ばせるのもいいかもしれない。

妙案だ、と思ったがカテリナを見て、いや、必要ないな、と思った。

カテリナは今のままでいい。私の言う通りに動き、私を愛し、私の側で微笑んでくれればいい。

余計な知恵をつけては、厄介で苛立たしくなるだけだ。

女とは男を癒してくれる存在であるべきなのだ。

「ねえ、離縁なんて、大丈夫なの?」

ぼそぼそと心配そうに質問してきた。

あの女、つまらないことでカテリナを不安にさせるとは、これも嫌がらせのひとつだな。

不安定にさせ早産でもさせ、死産、といきたいのだろう。短慮な愚者の考えだ。

「大丈夫だ。私は暴力を奮ったか?」

「ううん」

「私は、食事を与えなかったか?」

「ううん」

「私は、この屋敷で無視したか?」

「ううん」

「そうだろ?レンをこの屋敷で妻として扱ってきた。召使い達もそのようにしている。侯爵夫人としての仕事も立場も仕事も与えているにも関わらず、被害妄想もここまで来ると可哀想だ」

「でも、離縁はそれだけの理由以外もあるでしょ」

「大丈夫だ。申し開きはする。カテリナ、とりあえず少し黙ってくれないか?仕事をしたいんだ」

カテリナはもっと何か言いたそうにしていたか、言葉を抑える。

「うん、分かったわ。ごめんね、忙しいもんね」

「その通りだ。君はお腹の子供と自分の事だけを考えたらいいから。悪いが黙ってくれ」

「うん、分かった」

微笑むカテリナに、私は微笑み返し、礼状を書き出した。





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