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第2話 失恋会議、開催

夜の街は雨上がりで、石畳のように濡れたアスファルトが街灯を映していた。

 私と茜は、路地裏の小さな中華居酒屋のドアを押し開ける。

「いらっしゃい、奥の席空いてるよ」

 香ばしい餃子の匂いが鼻を打つ。紹興酒の瓶が並ぶ棚を横目に、私たちはいつもの席へ。


「さて——開会宣言するわ。第27回、有栖失恋会議」

「回数言うな。減らす努力はしてる」

「その割に、今回のは派手だったじゃない」

「結婚式前に浮気されるなんて、ドラマでもベタすぎて却下される展開よ」


 ビールが運ばれてきた瞬間、茜が低く囁く。

「それで? 例の受付返却作戦はどうだった?」

「最高だったわ。あの場の沈黙、時価にしたら金塊レベル」

「やっぱり性格悪いわね」

「褒め言葉として受け取る」


 熱々の餃子を頬張っていると、茜のスマホが震えた。

「……あら」

「何?」

「これ見なさいよ」

 差し出された画面には、SNSのトレンド欄。「#某広告代理店の裏切り王子」

 タップすると、悠真と例の女が腕を組んでホテルから出てくる写真が、ぼかしなしで拡散されていた。

「顔も会社もバレてるじゃない」

「世間の噂は早馬より速いって言うけど、本当ね」

 私は笑いながらグラスを口に運んだ。

「私の手は汚れてない。これ、大事」

「で、この波にどう乗るつもり?」

「乗る? 違うわ、操縦するの」


 茜は目を細める。

「次は何を仕掛けるの?」

「簡単よ。悠真の評判が下がるほど、私の仕事が光る舞台を作るだけ」

「やっぱり性格悪いわ」

「だから生き残るの」


 会計を済ませ、外に出ると夜風が頬を撫でた。

 茜が私の肩を軽く叩く。

「……でも、顔が明るくなったわよ」

「戦いの始まりはいつも楽しい」

 私は遠くのビルの明かりを見上げた。そこには、数日後のプレゼン会場が輝いている。


 ——復讐と再生、その両方を握るのは、私だ。

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