展示会の会場は、人と光と音で飽和していた。
私は来場者の視線とカメラのフラッシュを横目に、陸のブースの隣を歩く。
新製品のモニターが眩しく光り、スタッフが笑顔で資料を配っている。
——その視線の先に、悠真がいた。
彼はスーツ姿で、昔と同じように柔らかい笑顔を浮かべて近づいてくる。
「有栖……話せるか?」
「展示会で立ち話? 商談なら時間を買ってね」
「違う。あの日のこと、ずっと謝りたくて——」
「謝罪は領収書に印鑑押せるの?」
彼の笑みが引きつる。
「本当にお前が大事だったんだ。あれは一時の——」
「一時で壊れるなら、最初から大事じゃない」
「……許してくれないのか」
「許しは贈り物よ。自己満足のために渡すつもりはない」
そのとき、背後から声がした。
「ここで何を?」
振り返ると、陸と——玲花が並んで立っていた。
玲花の視線は私ではなく悠真に向けられていたが、その眼差しには別の温度があった。
「ちょうど昔話をしていただけよ」
私がそう言うと、陸は一歩前に出た。
「ここは仕事の場だ。私情は外でやってくれ」
悠真は私を一瞥し、何か言いかけてから黙って去った。
玲花が私の横に並び、低い声で囁く。
「あなた、彼を切るのが上手いわね」
「切る価値がない相手は、刃を鈍らせるだけよ」
「……覚えておく」
陸が間に入り、展示会の次のプレゼンへと私を促した。
ステージに上がる直前、私は深く息を吸い込む。
——もう二度と、“許すため”に笑うことはしない。
今日の笑顔は、勝者としての笑顔だけ。