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第13話 嫉妬は青く、誇りは赤い

陸からの返信は、予想よりも早かった。


「理由は、君が有栖だから」


 短く、それでいて温度を帯びた文。

 胸の奥で何かが微かに熱を持つ。——その熱を、誰かが見ていた。


 翌日、昼休み。

 葉月との打ち合わせを終え、ビルのロビーを抜けようとしたとき、声がした。

「偶然ね。有栖さん」

 振り向けば、玲花が立っていた。

 落ち着いた笑みの奥に、冷たい光が宿っている。


「よかったら、一緒にランチでも」

 誘いというより、半ば命令の響き。

 断る理由はない——むしろ、こういう場は嫌いじゃない。

「ええ、いいわ」


 向かったのは、ホテルのラウンジ。

 柔らかな照明と静かな音楽。だが、テーブルの上の空気は静かではなかった。


 前菜が運ばれてすぐ、玲花が切り込む。

「陸と、どういう関係なの?」

「仕事のパートナーよ。それ以上でも、それ以下でもない」

「……そう」

 グラスを傾ける手が止まり、視線が私を貫く。

「でも、名前で呼ばれていたわね」

「そうだったかしら」

「名前で呼ぶのは、特別な証よ」


 私は笑みを浮かべ、フォークを置く。

「証かどうかは、持ち主が決めるものよ。他人の承認は要らない」

「誇りを捨ててまで欲しい恋は、いらない。あなたもそう思う?」

「もちろん。ただ、誇りを武器にして奪う恋は、時に面白い」


 一瞬、テーブルの上の空気が硬くなる。

 玲花の瞳の青さが増し、そこに嫉妬の温度が宿った。

 対して、私の胸の奥では赤い熱が静かに広がる。


 メインディッシュが届く頃には、二人の会話は表面的なものに変わっていた。

 だが、互いの視線は一度も揺らがなかった。


 店を出るとき、玲花が低く言った。

「また会いましょう。有栖さん」

「ええ。次は、どちらが招くかしらね」


 ——嫉妬は青く、誇りは赤い。

 その二色が交わるとき、炎はより高く燃える。

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