ミケ女王は、魔性である。
三毛猫の女王である以上、当然のことといえよう。
まず、ねこ様というだけで、魔性だ。
たまには、しま王子のように雪にころがりまわったり、いぬみたいな性格のねこ様もいるけれど。のんびりいやし担当のしま王子はともかくとして。
ミケさまは、正統派の女王である。
ねこ様といえば、誰しもがおもう。
気まぐれでニンゲンを振り回す魔性のにゃんこ。
美猫なミケさまは、確かにその通りのにゃんこである。
女王様として、ニンゲンを下僕として仕えさせてあげているのだ。
ミケさまは三毛猫である。
しかも、美猫だ。
美猫で毛並みも麗しく気品がある。
短毛種で滑らかな毛並はとても美しい。
もうミケさまがそこにいるだけで、綺麗に両足を揃えて座っておられるお姿だけで美しくて大変だが。
もっとも、ミケさまの一番の魅力はそこではない。
ニンゲンが、おもうミケさまの一番の魅力。
それは。
しただしぺろんこうげき、である。
ミケさま、舌を仕舞い忘れておられます攻撃、ともいう。
何と、ミケさま。
ブラシが大好きで、ニンゲンに奉仕させるのが大好きなのだが。
艶やかな毛並みを保つ為にも、ニンゲンのブラシによるご奉仕は欠かせない。
だが、それだけではない。
ブラシが、気持ちよくて。
ニンゲンに額かきかきをさせてあげていると、それも気持ちよくて。
つい、うっかり。
ちら、りときれいなぴんくの舌を仕舞い忘れてしまわれるのだ。…
何という攻撃であろう。
ミケさまの完璧な美猫顔で。
うっかり、ちら、な舌仕舞い忘れ攻撃。
あ、しまいわすれていたわ、と。
ブラシで気持ちいいと、ちら、と舌を仕舞い忘れられてしまうのである。
何と恐ろしい攻撃であろうか。
ニンゲンは、その恐ろしさにやられて、もう何枚も写真を撮ってしまっているくらいである。
さらに、ねこ好きの人に見せてしまうのだ。…
ああ、なんとおそろしい、…―――。
普段は、クールにニンゲンにあまり近付いてこられないミケさま。
ごはんもおやつも、クールに決まった時間にきちんと決めた場所――ニンゲンが決めた場所ではなく、ミケさまがそこでお食事なされると決められた場所である。―――にお座りになり。
ニンゲンがやわらかごはんを小皿に別けるのをお待ちになられる。
おやつにも、クールである。
小袋でお気に入りのおやつを用意する音がすると、まちきれずにそわそわして、ちん、とニンゲンが用意した小皿の前に待ち構えてしまうほどだ。
でも、しま王子のように自分から催促はしない。
クールに待たれている。
これがしま王子なら、「ねえ、くれるの?くれるの?ぼく、そっちがいい!ねえねえ、もっと!」と押しがつよく、さいそくしてためらわない甘えん坊だが。
ミケさまは、クールだ。
あくまで、出てくるまで、待たれる。
出てくるから、いただくのであって、別に催促はしない。
クールなのだ。
多分。
そして、最近のお気に入りは、ニンゲンに乗っかり温めること。
ミケさま温熱療法である。…―――
慈悲深いミケさまの温熱療法により、ニンゲンは回復した。
奇跡的な回復であった。
流石、三毛猫の女王といえるだろう。
ミケさまとふく姫は、不倶戴天の敵である。
お互いに敵と認識して、この家で会ったが百年目。
仁義なき抗争を行い、ニンゲンをあわてさせなどしたが。
現在、同じ家の中で別部屋という家庭内別居を実行して何とか事なきを得ている。
いまは、お互いに不可侵条約を結ぶ寸前の均衡の中だ。
それでも、ミケさまがふく姫をたすけることもある。
しま王子が、おすねこの本能に負けて、ふく姫のにおいにがぶっ、と首筋をかもうとしたとき。
「――――――…!!!」
しま王子が、あわてて飛び離れた。
ミケさまの、無言のダッシュと、制裁の鉄拳であった。
鋭い爪が薙ぐのをしま王子が蒼くなりながら避けて、びょんっ!と飛び離れて行く。
「…――――」
ふく姫が無言でおどろいて、ミケさまをみている。
しま王子を追い払ったミケさまは。
無言で、ふく姫を一瞥すると。
「 ――…。」
そのまま、すぐにしま王子を追跡し、しかりつける為に走り出していった。
「…―――ふく姫、大丈夫?…ミケさまがたすけてくれたね、…」
ニンゲンもこのときは唯驚いて見送り、ふく姫にはなしかけていた。
居合わせたニンゲンだが、何をするまでもなく素早くミケさまが鉄拳制裁をした為、全員に後で怪我がないか確認するくらいしかやることはなかった。
ちなみに、三匹とも無事であった。
こんな風に、風紀も守っておられるミケさまである。
不倶戴天の敵であるふく姫であろうとも、ミケさまは女子の味方なのである。
ちなみに、逃げ出したしま王子は、その後もふく姫にちょっかいをかけたりしているが、ふく姫本猫の鋭い一撃で撃退されている。
いつもあいさつまでは雰囲気良くできるのだが。
本能に負けておそうから、シャーされるのである。
そして、すごすごと引き下がるのだ。
強引に行こうとしたら、ミケさまに教育的指導をされることになる。
その学習は出来ているようだが。
しま王子は、それでもこりずにふく姫にアプローチをつづけているのである。
いつか実る日はくるのか。
それはともかく。
そんなこんなで、ミケさまは家庭内の風紀を守り、ときに鉄拳制裁をし、ときにブラシで気持ちよくて舌を仕舞い忘れられたりなどしながら、優雅にねこ様として女王のつとめを果たしていたりとするのである。
ときに女子を男子から鉄拳制裁で守り。
ニンゲンを気まぐれに振り回し。
さらに、ブラシが気持ちよくて舌仕舞い忘れ攻撃をする。
そんなミケさまの御担当なさっておられるのは、魔性である。―――
ミケさまは魔性を御担当。
そして、ニンゲンは今日も振り回されるのだ。――――
それが、下僕の運命なのである。