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第17話

天涯孤独の身の上だとばかり思っていたら、父親どころか兄までいた件。


いや、まだ聞いてないだけで父方の祖父母や親戚までいるかもってかたぶんいるんだろうなぁ。

とは言っても、これまで会ったことなんてもちろんないし、存在すら知らなかったから感覚としては他人でしかないけど。きっとお互いにね。


「年末には学院が長期の休みになるからこちらに帰って来るわ。

その時にアリサにも紹介したいのだけど大丈夫かしら?」


「それはもちろん。大丈夫です」


奥様はお母さんの存在のおかげですごく親切にしてくださってるけど、息子さんはそうは行かないだろうなぁ。

だから、本音としては会いたくないけど、そんなこと言えないよね。

だから、私としてはこう答えるしかないよね……。


あー、何かもう色々とあり過ぎてきついなぁ。

許容量超えてるってか、自分の中で何もかもがきちんと消化しきれてなくてすっごくモヤモヤしてるって言うか。

とにかく何も考えずに思い切り暴れたい気分。


明日にでもギルドの訓練所借りて発散しに行こうかな、うんそうしよう。

本当は狩りに出たいけど、こんなに不安定な精神状態だと注意力も散漫になるしで少し危ない気がするしね。



「それでね、アリサ。

貴女にお願いがあるのだけど」


「はい、なんでしょうか?」


軽く現実逃避をしていると奥様が改まった様子です声をかけてくる。

しかし、はて。お願いってなんだろう。

貴族学院に関することだとは思うけど。


「この屋敷に住んではもらえないかしら?」


「……へ?」


間の抜けた返事をしてしまった私に、奥様は理由を説明してくれた。


何でも、貴族学院というのは四月から三月までで一年らしい。


これはお貴族様が王都に集まる社交シーズンというものが関係してるらしい。

社交シーズンそのものは、十月にある秋の収穫祭から四月の春の式典までだそうで。

でも、奥様がまだ領地にいるように、最初から最後まで王都で過ごす貴族は少ない。

領地でも色々社交はあるらしいけど。

で、本格的に始まるのが一月の新年のお祝いパーティ。

そして、三月に学院を卒業した人達が初めて一人前のお貴族様として参加するのが春の式典の時のパーティなんだって。


で、次の学院の入学式は来年の四月にある。

そこで私も入学するらしいんだけど。


「え!?あと半年もないじゃないですか!」


なんせもう十月末だよ?

王都までの移動も考えたら四ヶ月半くらいしかないんじゃない?

いや、未だ学院に入学する決意を固めたわけじゃないけどさ。


「そうなのよ。

それまでに貴女には最低限人前に出せるだけの令嬢になってもらわないといけないの。

幸いある程度礼儀作法はしっかりしているみたいだけど、それはあくまでも平民としてなら、のレベルでしかないのも事実。

だから、貴女には屋敷に滞在してもらって急ぎで貴族令嬢としての作法やマナーのレッスンを受けてもらうわ。

かなりの詰め込みにはなってしまうけどね」


「そんなぁ……」


ギルドでやってる勉強だって辛いのに、絶対それよりも大変だよねそれ。

それに……。


「その期間、冒険者としての活動は出来ませんよね……?」


「そうね。当分は控えてもらうことになるわ。

……もしかしてなのだけど、何か既に引き受けている依頼があるのかしら?」


「いえ、それはないんですけど……」


キャロル達とのダンジョン行きの約束。

果たせそうにないなぁ。


「それじゃあ、明日……というのは厳しいでしょうから明後日からにしましょうか。

お願いね?」


「はい……、わかりました……」


あー、これってこのまま冒険者も引退しないとダメなのかなぁ。

それだけは嫌なんだけど、どうなるんだろう。

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