「まぁ、そうでしょうね。
恐らくはその頃に貴女を身篭って、それで姿を消す事にしたのだと思うわ」
うん、私もそう思う。
でも、お母さんは自分の母、つまり私の祖母にも妊娠のことは話してないのかな?たぶんそんな気がするけど。
となると、祖母は母が私を産んだことも母が亡くなったことも知らなかったんじゃ?
「あの、奥様。
祖母は母のことや私のことは知っているのでしょうか?」
私としては会ったこともない祖母だけど、せめて母のことは教えてあげたい。
そう思っての質問だったんだけど、奥様は表情を曇らせる。
「わたくしも貴女のことを知ったときに連絡しようとしたのだけれどね。
残念ながらもう亡くなっていたわ」
「そうですか……」
それは……なんて言うか残念だ。
出来れば会ってみたかった気持ちもあるし。
「わたくしからもひとつ聞きたいのだけど良いかしら?」
「はい、私にわかることでしたら」
「貴女のお母様……サリナのお墓はリノン村に?」
「はい、村の共同墓地に眠ってます」
「そう……。今度わたくしも花を供えさせてもらっても良い?」
あぁ、そうだよね。
お母さんとは親友だったって話だし。
「はい、是非そうしてあげてください。
きっと母も喜ぶと思います」
お母さんは人との縁を大切にする人だったから。
そんな人だったからこそ、リノン村のみんなにも受け入れられてたんだと思う。
私には話してくれたことはなかったけど、きっと奥様のことはずっと大切に思っていたんだと思う。
今の奥様の様子を見て、そう感じるもん。
「それでね、アリサ」
「はい?」
奥様が少し緊張した様子を見せるので、自然と私の背筋も伸びる。
いや、もちろんずっと緊張感は持ってるけどね?
「夫に……貴女の父親に会いたい?」
あー、そうか。そうだよね。
何れ会わないわけにはいかないんだろうけど、正直今はなぁ。でも、素直にそう答えていい物なのかな。
「……」
どう答えたものか悩んでいると、奥様は私を安心させるかのように微笑んでくれる。
「貴女が会いたくないのなら、顔を合わせずにすむように手配するわ。
だから、無理はしなくていいの」
「出来れば、今は会いたくないです」
ちょっと自分でも驚くらい低い声が出た。
だってさ、私の父親なのは確定なんだろうけど、奥様は私は不義の子じゃないって言ってたよね。
つまり、お母さんは領主様とは別に恋人でもなんでもなかったって事でしょ?
それなのに私を身篭るようなことになったって言うのはさ……。
色々と察しちゃうじゃん。
奥様は私に気を使ってくれてその辺は話そうとしないみたいだけどね。
私自身は、まだ恋愛もそういうことも全然経験したことはないけど、冒険者なんてやってるとね。
そこら中でそんな話ばかりしてるもんだから、嫌でも知識だけは増えるのよ。
だからさ、今会ったりしたら絶対手が出るし、たぶん手加減なんて出来ないから。
「そうね、それがいいとわたくしも思うわ。
息子が跡を継ぐまでまだ何年かかかるから、それまでは一応生かしておいて……んんっ。見逃してあげましょう」
それ、代替わりしたら許さないってことだよね?
どうするつもりなんだろう?
もしかしてやっちゃう?やっちゃうの?
出来れば私にも一枚噛ませて欲しいんだけど。
って、ん?息子??
「息子さんがおられるんですか?」
「え?あぁ、ごめんなさいね。まだ話してなかったわね。
クライツという息子がいるの。
今は学院の一年生で寮に入ってるのよ」
「なるほど……」
奥様の息子さんてことは、当然ながら領主様の息子でもあるわけだよね。
という事は……。
「アリサ、貴女の異母兄になるわね」
うん、そうですよね。