クラスメイトの男子が隣で赤い顔をしている男子を紹介する。
初めて見る顔に軽く会釈するも彼は話しにくいのか、もじもじとしている。
ユエが苦笑すると廊下の向こうからやってきた虎二が男子二人を後ろから羽交い絞めにした。
『何してんの?俺も混ぜて。』
『うわ!中山君!』
虎二はにこっと笑う。
『ユエになんか用か?』
『いやー・・・ええと。』
虎二は二人をクルっと方向転換させると教室から離れて行った。
ユエは三人の背中を見ながら首を傾げる。
何だったんだろう?
『気にしないんだよ、ああいうのは虎に任せればいい。』
と後ろから狼の声がした。優しく狼の手がユエの頭をポンポンと叩く。
『ほら、教室戻ろうぜ。』
『うん。』
席に着くと目の前に狼が座った。
『なあ、ユエちゃん。今日は一緒に帰ろう。虎も一緒。』
『わかった。』
『うん、一緒に帰るのは初めてか?ならどっか行く?』
狼は頬杖をつく。
『うーん、そうだなあ。あ、新しいアイスクリーム屋さん出来たの知ってる?』
さっきランチの時に聞いた話を思い出す。ちょっと興味があったから。
『いいじゃん、行こう。』
気のよい返事が返ってきて『やったあ!』とユエが笑うと狼はなんだか嬉しそうにはにかむ。
『うん?』
『いや・・・、楽しみだなって思って。』
『うん。楽しみ。三人なら色んな味食べられるかなあ?』
アイスの話で盛り上がっていると虎二が帰ってきた。
『うん?何の話?』
『ああ、今日寄り道するアイスクリーム屋の話。お前も行くだろ?』
『おう。』
ユエは虎二のにっこり笑った顔を見て、あっと切り出した。
『虎ちゃん。さっきの人なんだったの?私に用事みたいだったけど。』
『ああ、気にすんな。教科書忘れたらしくて俺が貸しといた。』
『ええ?それなら貸すのに。』
虎二は苦笑すると手を伸ばしてユエのおでこを指でつついた。
『いいんだよ。だから気にすんなって。なあ?』
隣にいる狼に同調を求めると狼も頷いた。
『うん、ユエちゃんが気にすることなんて何もないよ。』
うんと答えたものの二人が目配せをしたのでユエは首を傾げるしかなかった。