指定ポイントに到着した俺は、すぐさまフロスガルへ通信を飛ばした。
「団長、こちら作戦地点に到着。いつでも突入可能だ!」
応答と同時に、右下にフロスガルのフェイスウィンドウがポップアップする。
「了解。カオモジも現着済みだ。十三分ちょうどに同時突入するぞ。遅れるなよ!」
そう言い残して、ウィンドウはパッと消えた。俺はHUDに表示された時計に目をやる。ミリ秒単位で刻まれる数字を凝視しながら、胸の高鳴りを必死に抑え込む。
そして、秒表示が「59」から「00」に切り替わった瞬間……俺は機体のブーストを最大出力にして、施設へと一気に突っ込んだ。
◇
この世界じゃ、たとえ単なる製造プラントでも油断は禁物だ。施設のあちこちには、自立型の機銃、キャノン砲、ミサイルポッドといった迎撃設備がこれでもかと設置されている。さらに、有人の
だが、真に厄介なのは防衛任務を請け負っている
俺の機体は施設のフェンスを軽々と飛び越え、輸送用の道路へと着地した。着地の衝撃と、機体の重量が地面を叩く鈍い音がコックピットに響く。
周囲を見渡すと、すでに警報が鳴り響いているらしく、四足歩行型の警備無人機や、タイヤ脚の緊急対応型武装ユニットが、施設の奥や倉庫からぞろぞろと姿を現していた。
俺は右手に持った実弾単射ライフルと、左手のアサルトライフルを敵機に向け、即座にトリガーを引く。銃口からリズムよく吐き出される弾丸と、閃光のような発射炎。撃ち出された弾は次々と無人機の装甲を貫き、爆発とともに吹き飛ばしていく。無人機相手なら、さすがに手こずることはない。
ふと気づけば、遠くの空に黒煙が立ち昇っていた。あの方角は団長……フロスガルが仕掛けたエリアだ。どうやら、派手に暴れているらしい。俺も負けてられない。
目の前に並ぶ倉庫群へ、機体の左肩に搭載されたミサイルポッドの照準を合わせる。正直、俺の機体は施設襲撃にはあまり向いていない。施設破壊には、広範囲に爆風を撒き散らす高火力兵器が理想だが、そういうのは基本的に重すぎる。俺の機体の機動性とは相性が悪い。
肩のミサイルが発射され、倉庫群に着弾。爆炎が吹き上がり、施設の一角が炎上する。あまり時間は掛けていられない。俺はすぐさま機体を前進させ、次の目標へと向かう。進路を塞ぐ無人機どもを蹴散らしながら……。
……その時だった。
ディスプレイにアラートが表示される。敵機の接近を知らせるものではない。ただの注意喚起アラートだ。どうやら、さっき爆破した倉庫の端に『何か』があるらしい。俺は手動でそのエリアを拡大表示する。
そして、そこに映ったのは……少女だった。
……少女? いや、敵プレイヤーか!
そうだ。ここまで特徴的な容姿をしているなら、ほぼ間違いなくプレイヤーだ。カオモジみたいに、自分のアバターを美少女にカスタムする奴は珍しくない。美少女アバターなんて、今やありふれた存在だ。
敵のアバターがここにいるってことは……防衛側の
……だが、何かがおかしい。
普通、戦場をアバターのまま歩き回るプレイヤーなんていない。基本的に、みんな
どうするべきか迷っていたその時、フロスガルから通信が入った。
「どうした、ユウジ? さっきからMAP上で静止したままだぞ。何かあったのか?」
「……ああ。いや、何でもない。ただ、今ここにプレイヤーが……」
しどろもどろに答えながら、俺はもう一度倉庫の端へ視線を向ける。だが、そこにはもう誰もいなかった。少女の姿は、跡形もなく消えていた。レーダーにも、プレイヤーを示す光点は俺の機体だけ。
ログアウト……? こんな場所で?
「どうした! 敵AUがいたのか?」
フロスガルの問いに、俺はすぐには答えられなかった。周囲を見渡し、レーダーを再確認する。だが、やはり少女の姿はどこにもない。
「……いや。何でもない。見間違いだったようだ。敵AUはいない。任務を継続する」
俺は、少女のことを団長には話さなかった。こんな戦場に、アバターのまま存在するはずがない。きっと、見間違いだったんだ。……そう思うことにした。
◇
その後、任務はあっけなく終わった。
中枢の重要施設や、周辺の関連設備を適度に破壊した後、俺はフロスガルとカオモジと合流。三人でもう一度施設を一回りし、壊し残しがないかを確認した。
だが、その間も俺の頭から、あの少女の姿は離れなかった。あの容姿。あの瞳。不思議な存在感だった。それに、なぜあんな場所にいたのか。疑問は、時間が経つほどに募っていくばかりだった。
「よし、大体片付いたな。撤収するぞ!」
「(∩´∀`)∩」
俺たちは機体を反転させ、自基地への帰路についた。