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臨終と花束
臨終と花束
日々曖昧
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年08月15日
公開日
1.5万字
連載中
人間と魔族、異なる二つの種族は、はるか昔から、均衡を保って生きていた。 とある魔王が、この世界に現れるまでは。 魔王の出現で均衡は破られ、魔族は人間を蹂躙し始めるようになった。それに対し、世界の観測者である『世界樹』は、本来魔族にしか許されていない魔法をごく僅かな人間にのみ与え始める。 その奇跡の体現者を人は、『落ち葉』と呼んだ。 ◇ ◇ ◇ 魔族に焼かれた村の生き残りである青年アシルは、リーズという女性剣士に拾われ、彼女の娘、レアとともに育てられていた。 そんな日々の中、三人は魔族の襲撃に遭う。 再び訪れる喪失を前に、アシルの持つ力、『臨終』が目覚める。 彼はそこで初めて、死人に花を手向ける意味を知ることになった。

第1話 プロローグ


 十二歳の誕生日、僕の目の前で、大勢の人間の命が散っていった。


「子どもだけでも逃げろ!」

「痛い! 痛いよ……い、嫌だっ、死ぬのは……嫌……」

「ぎゃああああああああああああああああ」


 今でもまぶたの裏を呪う、割れんばかりの悲鳴、血飛沫、逃げる村の人々。倒れている人間の、ほとんどの顔と名前を知っていた。見知った顔から生気が失われていくさまを、崩された家の瓦礫の下から、僕は見ていた。

 幸か不幸か、足は潰れていて、声は出なかった。育ての親が目の前で殺されていくその瞬間でさえ、硬直した体は瞬きを許してくれなかった。

 今でも思う。

 なんで僕だけが生き残ったんだろう。死んでいった村の人たちと僕に、一体なんの差があったのだろう。

 僕が生きていることに、残されたことに、何か意味があるんだろうか。

 そんなことを、今でもずっと、考えている。

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