「うーん……ここはどこ? みんなはだぁれ? って、あれぇ。死んだと思ったのに無傷だぁ」
しばらくして、新しいポピーが目を覚ました。
声は先程のポピーと同じく『アリスと七人の悪女たち』に登場するポピーの声だけれど、口調から察するに先程のポピーとは別人のようだ。
『さあ、仕切り直して。全員揃ったところで始めるよ。悪役令嬢デスゲーーーム!!』
「ほぇ? デスゲーム? その前に、あなたはだぁれ?」
声高々に宣言するピエロに、新しいポピーが質問をした。
一方で、以前のポピーが殺される様子を目の当たりにした他の悪女たちは何も喋ることが出来なかった。
『これ以上開始が遅れると出資者様が退屈しちゃうから、どんどん話を進めるよ。質問は最後にまとめて聞くから、ひとまず胸に留めておいてね』
ハテナマークでいっぱいだろう新しいポピーの質問を無視して、ピエロは話を進行させた。
出資者様という単語から考えて、このデスゲームは趣味の悪い出資者様とやらを楽しませるためのものなのかもしれない。
『これからみんなには、残り一人になるまでデスゲームをしてもらうよ。舞台は、みんなご存知『アリスと七人の悪女たち』の世界なんだ。全員の条件を同じにするために、わざわざこの乙女ゲームをプレイしてる人を選んだからね。いやあ下準備が大変だったよ』
ピエロは身振り手振りを交えながら、コミカルな動きと喋り方をした。
しかしそんなことで楽しい気分になんてなれるわけがない。
もっとも、ピエロが楽しませたいのは私たちではなく、出資者様とやらなのだろうけれど。
『みんなには『アリスと七人の悪女たち』の登場人物として、他の悪女たちを殺してほしいんだ』
ピエロは何でもないことのように、さらりと殺人を推奨してきた。
…………狂っている。
『でもねえ、いきなり他人を殺すことの出来る人間ってあんまりいないんだよねえ。これまでのデスゲームでその事実が判明したから、今回は『アリスと七人の悪女たち』が舞台になったんだ。ほら、このゲームって七人の悪女が全員殺されるストーリーでしょ?』
確かに『アリスと七人の悪女たち』は、主人公のアリスをいじめる七人の悪女が全員断罪もしくは暗殺される。
アリスがどんなルートを進もうが、悪女たちは必ず死亡する。
違うのは、悪女たちが死亡する理由と方法だけだ。
『つまり君たちは「他の悪女が断罪を回避することを阻止する」だけで他人を殺せちゃうわけだ。楽ちんだねえ!』
ふざけるな!と言いたいところだけれど、ピエロの意見にも一理ある。
自らの手を汚して人を殺すことは、私には絶対に無理だ。
しかし風が吹けば桶屋が儲かる的な、殺人と言うには程遠いが殺人へと繋がる小さな行動なら、あるいは……。
そこまで考えたところで、自分が早くもデスゲームに順応しかけていることに寒気がした。
周りを見回すと、とんでもないゲームに巻き込まれて、泣いたり怒ったりしている人が大半だ。
それなのに自分は、デスゲームに参加することを飲み込んでしまっている。
『あっ! もちろん自力で他の悪女を殺すのも大歓迎だよ。出資者様はそういう血生臭い展開が大好きだからねえ。ただし、分かってると思うけど、自分の手を汚すということは悪事がバレて断罪されやすくもなるわけだから、注意してね☆』
ピエロは可愛らしくウインクをしたけれど、言っていることはまったくもって可愛らしくない。
『誰かが殺されたときは、全員が一度この部屋に集められるんだ。この部屋に来る時間は、決まって朝の七時。たとえば朝の六時に殺人が起こった場合は一時間後の朝七時に、朝の八時に殺人が起こった場合は二十三時間後の朝七時にこの部屋に来るってことだよ』
どうやら殺人が起こっても、すぐにこの部屋に集められるわけではないらしい。
このタイムラグが戦況にどう作用するのかは分からないけれど、覚えておいた方が良さそうだ。
『ここまでの説明で、質問のある人は?』
「はい。朝七時にこの部屋に集められた私たちは、何をするんですか? 全員で犯人探しをするんですか?」
先程のポピーの件が頭にチラついたけれど、ただの質問で殺されることはないと信じて尋ねてみた。
『何もしないよ。ただ敵が一人減ったと全員にお知らせをするだけ。だから一分くらいで解散になるよ』
「そう……なんですか。分かりました」
生き残ったメンバーで殺人犯を探して吊るし上げるのかと思ったけれど、そういうわけでもないらしい。
私に触発されたのか、新しいポピーも手を上げた。
「はーい。あなたはだぁれ?」
『ボクはデスゲームの主催者であり司会者であり、同時にゲームの盛り上げ役でもあるんだ。ゲームが停滞したらちょっかいを出しに行くから、そのときはよろしくね?』
ピエロは、それはそれは愉しそうに笑った。
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【キャラクター情報】
◆ピエロ……デスゲームの主催者であり、司会者であり、盛り上げ役……らしい。
参加者の前に現れるときはホログラムのため、物理攻撃が効かない。
謎に包まれた存在。
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