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第3話


 ピエロに対する質疑応答タイムが終わった後、眩い光が放たれたかと思うと、次に私がいたのはベッドの上だった。

 先程の白い部屋とは違ってドアも窓もあり、窓からは外の景色が見える。


 ドアから外に出てみると、見覚えのある廊下に繋がっていた。

 ここは『アリスと七人の悪女たち』に出てくる、私立ワンダー学園の寮だ。


 私はいつでも外に出られることを確認してから、部屋に戻って自室の鍵をかけた。

 速攻で殺されてはたまらないからだ。


「始まったのね……デスゲームが」


 口に出したことで、より実感が湧いてしまった。

 私は今、とんでもないことに巻き込まれている。


「こういうときは焦らないことが大切ね。どれだけ冷静でいられたかで、勝敗が決まるものよ」


 大きく深呼吸をする。

 いったん状況を整理しよう。




 まずはこの世界について。

 私が連れて来られた世界、乙女ゲーム『アリスと七人の悪女たち』の内容は、こうだ。


 主人公のアリスは、私立ワンダー学園でいじめられている。

 いじめているのは、同級生だったり、部活の先輩だったりと様々だけれど、全員がいじめの報いを受けて殺される。

 殺害方法はゲームのルートによって異なるけれど、基本的に断罪と暗殺の二種類だ。


 断罪は、アリスのことを気に入っているレイモンド王子による処刑。

 暗殺は、アリスのヤンデレストーカーであるディータによる殺害。


 悪女のいじめに証拠があったり複数人に目撃されると断罪、証拠がなくディータにのみ目撃されると暗殺となる。




 次にデスゲームについて。

 ピエロの行なうデスゲームの参加者は全部で七人。


 その七人は『アリスと七人の悪女たち』に出てくる悪女たちであり、それぞれ名前の花と同じ髪色をしている。

 悪女の中に入っているのは、全員が私と同じように何らかの理由で死んだ人間たち。


 そしてこのデスゲームは出資者様とやらを喜ばせるために行われている……と、ピエロは言っている。

 しかし私たちは出資者様とやらの姿を見ていないため、事実かどうかは分からない。

 とはいえ目的が無いのなら、こんな大掛かりなことをする意味が無いだろうから、ピエロの言葉は真実なのだろう。


 あと疑問なのは、どうやって私たちを……いや、これは考えても無意味かもしれない。

 きっと私たちの知らない「なんかすごいパワー」でやったのだろう。

 だって今の状況は明らかに私の理解を越えている。

 方法を説明されたところで、腹に落ちるものではないだろう。


 他に考えるべきことは…………。




 そこまで考えたところで、部屋のドアがノックされた。

 ドアの外からは鈴の鳴るような女性の声が聞こえてきた。


「デイジー、あたしよ。サーシャよ。一緒にお茶でもどうかしら」


 確か『アリスと七人の悪女たち』の中のサーシャは、デイジーの友人だったはずだ。

 だから安全なはず……だけれど。


「私はデスゲームの最中なのよね。毒殺は遠慮したいのだけれど……どうかしら」


 サーシャがデイジーの友人だからといって、警戒せずにお茶を飲むのは軽率かもしれない。

 サーシャが何もしていなくても他の悪女がお茶に毒を入れるタイミングなんていくらでもあるだろうし、サーシャが買収されている可能性だってある。


「デイジー? 具合が悪いの?」


 しかしサーシャという友人キャラを失うことは避けたい。

 どうしたものか。


「デイジー、大丈夫?」


「ごめんなさい、サーシャ。少し考えごとをしてて……今行きます」


 考えた挙句、私はサーシャの誘いに乗ることにした。

 さすがにこの短時間で、他の悪女が毒を仕入れてお茶に仕込むことは無理だと判断したからだ。

 こんな打算的な考えでお茶の誘いに乗る人物が友人なのはサーシャに申し訳無いけれど、こっちは命がかかっているのだ。見逃してほしい。


「まあ、デイジー。敬語を使うなんてどうしたの? あたし、寂しいわ」


「あっ、ごめんなさ……ごめんね。ぼーっとしてただけなの」


 そうだった、今の私はデイジーなのだ。

 口調だけでも、元のデイジーらしく振舞わなくては。


 私はささっと身支度を整えると、サーシャとお茶をしにガーデンテラスへと向かった。




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【キャラクター情報】

◆デイジー……『アリスと七人の悪女たち』に登場する悪女。

       主人公が転生したキャラクター。

       デイジーの花を思わせる、白い髪と黄色い目が特徴的。

       私立ワンダー学園二年二組、演劇部所属の生徒。

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