「名乗らないということは、悪事を働いてる自覚があるんだな?」
この状況をどうするべきかと考える私に、ディータが今にも人を殺しそうな顔で迫ってきた。
そしてこの場合、殺されるのは間違いなく私だ。
「違うわ。私はあなたを探してただけなの!」
「……俺を?」
慌ててディータに自身の目的を伝えた。
下手に誤魔化して状況を悪化させるよりは、真実を伝えた方がマシだと思ったからだ。
「というか、名乗るも何も、私はあなたと同じクラスの生徒よ。覚えてないの?」
「覚えてねえな」
ディータはあまりにもキッパリと言い切った。
そうだとは思っていたけれど、仲良くなる前に、まずはデイジーの存在を覚えてもらうことから始めないといけないらしい。
「覚えてないか。ディータはアリス以外に興味がないもんね」
「どうしてそれを!?」
「だから、私はあなたと同じクラスなんだってば。あなたの名前くらい知ってるわ」
「俺の名前の話じゃねえよ。どうして俺がアリスを、その……アリスに興味があるって知ってるんだよ!?」
「だっていつも追いかけてるじゃない。アリスを好きなことがバレバレよ」
周知の事実のように伝えると、ディータは声を一段低くした。
「……そのことを、誰かに言ったか?」
あ、マズい。
これ、返答を間違ったら殺されるやつだ。
私はごくりと生唾を飲み込むと、無理やり笑顔を作ってみせた。
「私は別にあなたたちを引き離そうとしてるわけじゃないわ。むしろ逆よ。二人を応援したいの」
原作ゲームでは、ほとんどのルートでレイモンドとアリスがくっつく。
しかしディータと付き合うディータルートも、あることはある。
……どちらとくっついても、悪女たちは殺されるけれど。
「俺たちを応援したい、だと?」
「そうよ! 私、アリスにはディータがお似合いだと思ってるの。二人の恋を応援させて!」
ディータの表情から、この線で押し切れば殺されずに済みそうだと感じた私は、さらに言葉を重ねた。
しかしディータは、もごもごと口ごもる。
「俺とアリスがお似合いなんて、それは……」
「ディータとアリスなら、きっと学園一の幸せカップルになれるわ。だから私に二人を応援させて!」
「……応援と言われても、俺はアリスと付き合いたいわけじゃねえ。ただアリスが幸せに暮らしてくれれば、それでいいんだよ」
幸せそうなアリスを陰から見守る。
そう言うと聞こえは良いけれど、つまりはストーカーを続けるということだ。
正直なところ、アリスが百人にストーキングされていても私は別に構わない……その中にディータがいないのであれば。
問題なのは、ディータがアリスのストーカーだと、アリスに危害を加えたといちゃもんを付けられて暗殺される確率が高まることだ。
だから私は、自分のためだけにディータの恋を応援する。
どこまでも自分勝手な考えだけれど、命がかかっているので大目に見てほしい。
「アリスが幸せになるのは良いことよ。でもそのときに、幸せそうなアリスの隣に自分がいたら、最高だとは思わない?」
「それは……でも応援って何をする気だよ!?」
よし。ディータの心が揺らいだ。
このまま一気に畳みかける。
「何をするかは具体的に決めてないけれど、とりあえず私と同盟を組まない?」
「同盟?」
「アリスとディータをラブラブにする同盟」
私が咄嗟に思いついた同盟名を宣言すると、ディータは露骨に嫌そうな顔をした。
「なんだよ、そのダサい同盟は」
「気に入らない? じゃあディータが良い名前を付けておいて。私は同盟の名前なんてどうでもいいから。重要なのは中身よ。さあ、私と手を組みましょう!」
「お前と組んで、俺に何のメリットがあるんだよ!?」
そう言われると、私に応援されるメリットは何だろう。
応援されて気合いが入る、とか?
ちょっと弱い気がする。
……そうだ!
「友人が出来るわ」
「は?」
「同じ志を持つ友人になれるわ。同盟を組んだ今この瞬間から、あなたと私は友人よ」
私がディータに向かってウインクを飛ばすと、ディータは呆れたような顔を向けてきた。
「まだ組むとは決めてねえよ。っていうかお前と友人になることは別にメリットじゃねえからな!? ……って、あーっ! お前が話しかけるからアリスを見失っちまったじゃねえか!」
…………うわっ。
応援するどころかディータのストーキングを邪魔してしまった。
急いで名誉挽回しないと。
「ごめんね。私もアリスを探すのを手伝うわ。これが『アリスとディータをラブラブにする同盟』の初めての共同作業ね」
「同盟名がダセエ!!」
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【キャラクター情報】
◆アリス……『アリスと七人の悪女たち』に登場する主人公キャラクター。
金髪碧眼。いじめられがち。
レイモンドとディータに愛されている。
私立ワンダー学園二年一組、演劇部、美化委員会所属の生徒。
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