ディータとともに探し回って見つけたアリスは、美化委員会のダリアとローズマリーと楽しそうに談笑をしていた。
どうやらダリアとローズマリーも、アリスからの好感度を上げる作戦のようだ。
昨日まで自分をいじめていた悪女たちが一斉に自分に対して好意的に接するようになって、アリスは何を思っているのだろう。
…………ん?
もしも悪女全員がアリスに好かれようとしているだけなら。
悪女全員が他の悪女を殺すつもりが無いのなら。
デスゲームが破綻して、こうちゃく状態のまま全員が生き残れるのではないだろうか。
盛り上げ役としてピエロがちょっかいをかけてくることもあるらしいけれど、ピエロの告げる悪魔の囁きにさえ乗らなければ、このままこの世界で全員が生存できる気がする。
つまりこれが、このデスゲームの攻略法……!
きっと、他の悪女たちもこの考えに行きついている。
だから他の悪女を殺すのではなく、アリスの好感度を上げることに必死なのだ。
悪女全員が同じ考えなら、他の悪女を警戒する必要は無い。
それよりも、アリスと仲良くなるために時間を使った方が良い。
それが、悪女全員がデスゲームを生き残れる道なのだから……!
しかし私のこの浅知恵は、早々に打ち砕かれることとなった。
* * *
翌朝。目を覚ました私は、例の白い部屋にいた。
周りを見渡すと、他の悪女たちも白い部屋に集められている。
どうやら全員、存命のようだ。
『おっはよーう☆ みんなよく眠れたかなあ?』
少すぐに部屋の中にピエロのホログラムが出現し、陽気で不快な声が響いてきた。
『みんな、ルールはきちんと覚えてる? 殺人が起こった後の朝七時に、残ってる全員がこうやって白い部屋に集められるよ。今回は誰も殺されてないけどねえ』
誰かが殺されたら、次の午前七時に白い部屋に集められる。
確かそういうルールだったはずだ。
誰も殺されていないのに悪女たちを白い部屋に集めたピエロの方が、ルールを覚えていないのではないだろうか。
……なんてことは、殺されたくないから言わないけれど。
『おやおや。じゃあどうして集められたんだ?って顔をしてるねえ。今回のこれは、チュートリアルだよ。いわゆるただの練習。ぶっつけ本番っていうのも可哀想かと思ってさ』
変なところで気を遣うものだ。
可哀想だと思う心があるのなら、デスゲームなんて開催しないで頂きたいのだけれど。
私以外の悪女たちもそう思っている……かは分からないけれど、全員が黙ってピエロのホログラムを眺めている。
『でも今日は大切な用事もあってみんなを集めたんだ。チュートリアルっていうのも嘘じゃないけど、みんなに説明してなかったことがあるから、追加でデスゲームの説明をしなきゃなんだあ』
そう言って、ピエロのホログラムが人差し指を天に向けた。
『このデスゲームには期限があるんだ。一年以内に残り一人にならない場合は、タイムオーバーで全員に死んでもらうよ』
…………は?
なにそれ。デスゲームに期限!?
『ちょっとちょっとお。そんな顔はしないでよお。一年ってかなり長めに設定してるんだからね? 早い回だと一週間も経たずに決着がつくんだから』
一週間……。
そんな短期間で六人の人間の命が失われたと言うのか。
けれど、少しだけ気持ちが分かるかもしれない。
長い間命を狙われ続けるのは、精神が持たない。
だから短期間で相手を殺してしまおう、と考えたのだろう。
それに何もしないでいたら、タイムオーバーでピエロに殺されてしまう。
その焦りもあったに違いない。
首筋を冷たいものが伝う。
全員で生き残ろうなんて、考えが甘かった。
デスゲームでそのような緩い行為が認められるわけがなかったのだ。
『実は前々回のデスゲームで、参加者全員が共謀して何もアクションを起こさなかったんだ。だから前回からこういうルールを追加したんだよねえ。前回からのルールだから、うっかり説明を忘れちゃった。てへ☆』
全員で生き残ろうとした前々回の参加者がどういう末路を辿ったのかは、聞かなくても分かる。
一代目ポピーの扱いを見る限り、前々回の参加者が生かされたとは思えない。
『みんな、これは一人だけが生き残るデスゲームなんだよお? どんどん殺して敵の数を減らさないと、不利になるのは自分だからね? その辺をお忘れなくー!』
言いたいことだけを言うと、ピエロのホログラムは消え、私たちは自室へと戻された。
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【キャラクター情報】
◆ディータ……『アリスと七人の悪女たち』に登場するヤンデレストーカーキャラ。
アリスを愛するあまり、アリスに危害を与える者を暗殺してしまう。
学園に内緒で暗殺ギルドに所属しており、そこで学費を稼いでいる。
私立ワンダー学園二年二組の生徒。
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