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第7話


 早速草むらに隠れるディータを見つけた私は、ディータの隣に並んで一緒にアリスを眺めた。


「おはよう、ディータ。今日もアリスのストーキングははかどってる?」


「うわっ、驚かすなよ!?」


 驚かすなって、一般人の気配に気付かないのは暗殺者としてどうなのだ。

 学園内だから気を抜いているのだろうか。


 もちろんそんなツッコミは入れないけれど。

 だってディータが悪女たちを暗殺している人物であり、学外で暗殺者ギルドに所属していることは、私が『アリスと七人の悪女たち』をプレイしたから知っているだけで、キャラクターとしてのデイジーは知らないはずだから。


「アリスは今日も可愛いわね」


「分かりきったことをわざわざ口に出すなよ」


「……私も今日、可愛いと思わない?」


「綿ぼこりを可愛いと思う感性の持ち主なら、そう思うかもしれねえな。俺は綿ぼこりが可愛いとは少しも思わねえけど」


 ディータからの好感度の指標になるかもと思って聞いた質問は、憎たらしい言葉になって返ってきた。

 いくらデイジーの髪が白いからって、綿ぼこりは酷すぎる。

 主人公キャラのアリスが一番可愛くデザインされているのはその通りだけれど、悪女たちだって結構可愛い見た目をしているのに。


「『アリスとディータをラブラブにする同盟』の仲間なんだから、もう少し私にも優しくしてよ」


「だからそのダセエ名前をやめろっての」


「良い同盟名だと思うんだけれど……じゃあディータはどんな名前が良いの?」


「それは……お前が考えろよ」


 同盟なんて組まないと言うかと思いきや、同盟の話自体は受け入れているらしい。

 しかし同盟名は思いつかない、と。

 同盟名を付けない選択肢もあるのだけれど、こういうものは名前を付けることで同志感が強まると相場は決まっている。

 ほんの少しでもディータとの親密度を上げておきたいため、何かしらの名前を付けたいところだ。


「アリスとディータをくっ付ける同盟……これじゃあさっきのとあんまり変わらないか。メンバーはディータと私だから……そうだ! ディータとデイジーで『D同盟』なんてどう!? 秘密結社っぽくて良くない!?」


「D同盟……?」


 これもダメだろうか。

 私にはネーミングセンスが無いのかもしれない。


 変なネーミングばかり聞かされて気分を害してしまっただろうかとディータの顔を横目で見ると、意外なことにディータの口角が上がっていた。


 ……もしかして、D同盟がお気に召しました?


「聞いただけじゃ同盟の内容が分からねえ名前であり、メンバーを象徴する名前でもあり、そしてカッコイイ……!」


 カッコイイかなあ?

 自分で言っておいてあれだけれど、数秒で思いついたことが丸出しの適当な同盟名なのに。

 まあ気に入ってくれたのなら何よりだ。


「じゃあこれから私たちはD同盟ね。確かに『D同盟の活動をする』って言っても、活動内容がアリスのストーキングだとは誰も思わないわね!」


「……アリスのストーキングって言い方、やめてくれねえか?」


「やめるも何も事実を言ってるだけ……と言うか。ずっと思ってたんだけれど、どうしてアリスに声をかけに行かないの?」


「どうしてって、それは……」


 下を向いたディータの顔を覗き込む。

 ディータが私の行動にぎょっとした顔をしたけれど、気にせずに微笑んでみせる。


「ディータはカッコイイ顔をしてるじゃない。前髪で隠れちゃってるけれど。アリスと並んでも様になると思うわ」


「俺はアリスの隣に並べる人間じゃねえんだよ」


 自分は暗殺者だから。

 ディータはそう言いたいのだろう。

 しかしこれには反論をさせていただきたい。


「それを決めるのはアリスでしょ?」


「へ?」


「だーかーらー! ディータに隣に並んでほしいかどうかは、アリス本人の気持ちの問題でしょ?」


 私なら絶対に暗殺者を恋人に選びたくなんてないけれど、アリスは違うかもしれない。

 実際、原作ゲームではアリスとディータが付き合うルートもあったわけだから、少なくともディータルートのアリスはディータのことを受け入れている。

 さすがに今後は暗殺をしないように約束させてはいたけれど。


「……そんなこと言っても、アリスは俺の全部を知ってるわけじゃねえし」


「誰にでも秘密はあるわ」


 いくら恋人だとしても、相手のすべてを知っているわけではない。

 私にも恋人がいたけれど、私は彼のすべてを知っているわけではなかったし、彼も私のすべてを知っているわけではなかった。

 けれど、それで良いと思っていた。

 もっと言うなら、その関係性が心地良いと思っていた。


「付き合うからと言って、自分のすべてを明かす必要は無いの。むしろすべてを明かさないと一緒にいられないような付き合いは窮屈よ」


「……そういうもんか?」


 顔を上げたディータの肩を叩く。


「ディータも私もお互いに言ってない秘密があるけれど、私たちは仲間で友人でしょ? そういうこと。すべてを明かさなくても良い関係は作れるわ」


 だから良い関係を築いて、私のことは殺さないでほしい。

 私に、アリスに危害を加えるつもりは無いのだから。


「……お前のそれは、俺の背中を押してるのか?」


「背中を押してるのはその通りだけれど、『お前』じゃなくて『デイジー』よ。友人相手に『お前』は変でしょ?」


 私の言葉を聞いたディータは、不思議そうに首を傾げた。


「俺は友人のこともお前って呼ぶけどな」


「あらそう。友人を失くすからやめた方が良いわよ、それ」


 そう言って軽く注意をすると、ディータがぷいっとそっぽを向いた。


「お前は俺の何なんだよ。このお節介!」


「何って、D同盟の仲間であり友人のつもりだけれど……怒らせちゃったなら、ごめんね?」


「お前、距離の詰め方が怖いんだよ!」


 おっと。ディータとの関係構築を少し急ぎ過ぎたかもしれない。

 とはいえ拒絶はされていないみたいだから、まあ良しとしよう。




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【キャラクター情報】

◆レイモンド……『アリスと七人の悪女たち』に登場する王子。

        アリスと接するうちに、アリスのことを愛するようになる。

        アリスに危害を加えた証拠や複数の目撃証言がある者を、王子権限で処刑してしまう。

        私立ワンダー学園三年一組の生徒。

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