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ON THE BORDERLINE ゼロ 3


「それで?例のエイリアンは何処に捕らえられているって?」

「こっちもはっきりとは教えてくれなかった」

「そうか、…こちらの伝手はまるきり頼りないしな。

しかし、アメリカとイギリスの同盟は俺達より歴史が古いだろうが。

それで情報を寄越さないというのはどうしてなんだ?」

 アイスランド北部へと向かうはずが。

 当初そこへ向かっていた輸送機は、行く先を変えグレートブリテン島北方に着陸した。そこからさらに北―――いまかれらがあるのは、北方スコットランド。

 その山奥にヘリで着陸したあと、何の音沙汰も無く放置されている現状に。


 険しい山々が聳え立つ北の大地に、互いに上層部と連絡を取り、その手掛かりが薄いにもすぎる情報を交換して。

 本多の質問にアレックス・ローズが肩をすくめる。

「いうけどさ?相手は大英帝国だぜ?もとから秘密主義なのは変わらないからな。それにいうなら、俺達、連中とケンカして家を出てきたことになるんだぜ?ティーパーティのあと独立戦争もあったしな?」

「そういわれればそうだが。確かにな。そもそも、何故、当初アイスランドといっていたのに英国情報部なんだ?仕切っているのが。そして、目的地を変えた?連中はエイリアンを秘匿しておきたいのか?それと、俺達をこうも急がせて呼び寄せたのは矛盾するが」

見返す本多に、険しい山脈を見あげて伸びをして言う。

「そりゃさ。軍港に荷物と一緒に下ろされて、それで急がされてさらにヘリでこんな辺鄙な処まで運ばれて、…だのに、突然、―――なんていうか、つまりさ」

軽く笑んで見返すアレックスに、本多が肩をすくめる。

「つまり、あれか?おまえもそう思ってるっていうのか?」

「ホンダだってそう思うだろ?他にあるか?」

「…まあ、そうきてほしいわけじゃないが」

大きくため息を吐いて本多が遠く蒼い山々を眺める。

 彼らの背後にはヘリが待機しているが、―――。

 つまり、此処へ急いで運ばれた後、新たな指示もなく唯かれらは待たされていて。それに関して英国からの説明は無論なく、情報を得ようとそれぞれの国へと連絡を取っても情報機関にすら状況はみえてはいないようで。

「つまり、さ?ホンダ」

「だな、まったく」

あきれたようにくちを結んで本多がいい。

アレックスがにこり、と花が綻ぶように笑う。

「単純にいって、つまり、ロストした」

あっさり、此処までかれらを呼んだ理由である「エイリアン」がいなくなったのだろう、とアレックスが推論をいう。

 それに、本多が肩をすくめて。

「他に考えようがないな、…なら家に帰せというんだ」

「呼んだからにはそうもいかないんだろ。それに、いつ見つかるかもわからないと踏んでる?」

「どうだろうな。…ヘリのパイロットを絞めても何も出ないだろうしな」

「…あのさ、ホンダって、結構過激か?」

「誰がだ。…おまえにはいわれたくないぞ?俺は温厚だ」

「…ホンダ、…それは認識に誤りがあるとおもう」

「なんだって?」

睨む本多にアレックスがうれしそうに近づいて。

「ケンカするか?ひまだから」

「…暇だからってな、…。トレーニングならしてもいいが。

おまえ、何ができる?格闘は何をとった?」

「ふつーに軍で習う奴かな」

「ふむ。…やるか?」

「だな、―――と、なんだ?」

本多に顔をよせて、いまにも格闘を始めようとうれしそうにしていたローズが、微かな音に気付いて振り向いていう。

「…―――ローズ」

その方角を最初からみていた本多が、表情を変えずに静かにいう。

「ホンダ?」

背を本多に向けたまま、アレックスが鋭い視線で見つめる先に、

山の頂きの向こうから、薄い煙が細くたなびいているのが見える。

 鋭い視線を向ける彼らの前で、英国海軍のヘリは羽根を休めたままだ。

「…ふーん。な、ホンダ。俺達がアバディーンからヘリに乗せられて、インヴァネスからさらに北の奥地にまで運ばれたってのはさ。この近くにエイリアンを捕らえてた場所があったからだと考えるのが妥当だよな?」

「確かにな。…そして、ついでにいうなら、この場所でどうも他の連中が慌てて次の命令を寄越せないくらいには、混乱している原因があるとしたら」

「やっぱりロストした」

「そして、その原因が近い場所でか。アイスランドから運んだか?これは…唯の山火事か?」

「でなきゃ狼煙とか?」

「確かに、立派な狼煙だな。処で、ローズ、おまえはアメリカ人だったな?」

薄く真直ぐ上空に昇る煙を、まるで教科書に出てきそうな感じの狼煙にみえるなあ、と。

 面白がってみあげていたアレックスが、本多の言葉に振り向く。

「そうだけど?アメリカ生まれのアメリカ育ちだぜ?どうした?」

「そうか。なら、―――俺が大使に臨時になってるのは知ってるだろ?」

「うん、ホンダ?」

瞬いて見つめるアレックスに、立ち昇る煙を見あげながら、

本多が人の悪い笑みを浮かべる。

「外交官特権というのを使うのも、悪くはないと思ってな」

「…ホンダ、…ひとついうけど、それのどこが温厚なんだ?ホンダ?」

「充分温厚だろう。武力に訴えるのでなく、極普通に外交特権で

英国海軍には俺を止める権限がないとお話するんだ。温厚だろうが」

くちを結んで主張して見あげてくる本多に、つい額を押さえてから目を閉じてもう一度あけてわざとらしくためいきを吐く。

「だから?その時点でケンカを売ってるのに、何処が温厚なんだよ?」

「だから温厚だ、俺は。誰も殴り倒して出ていこうとは思ってないんだぞ?それにだ、ローズ。おまえ、ここで無駄な時間を過ごしていて、結婚式に間に合わなかったらどうするんだ?俺達はエイリアンと対面する為に此処まで連れてこられたんだぞ?だのに、肝心のエイリアンに対面できないままこんな処に待たされていてみろ」

「…確かに、それはやばいけど」

眉を寄せて煙を振り仰ぐアレックスに、本多が頷く。

「だろう」

そして無言で見あげる本多を、アレックスが眉をよせてみる。

 互いに見つめ合ってしばらく動かずに。

 そして、根負けしたようにアレックスがため息を吐く。

「ホンダはそれでいいけど、おれは?」

「外交官特権の一つに、任命権があってな」

ホンダ、といってアレックスが嫌そうに顎を引いて眉を寄せる。

 それににやり、と笑うと実に楽しげに本多がアレックスを見返して人の悪い笑みを浮かべたままいうから。

 …結構、やっぱりかわいいかも、…ホンダ。

と、つい考えて瞬いてみつめてしまっているアレックスの前で。

楽しそうに笑んで本多がいう。

「だから、だ。おまえ、助手になってもらおうか?ローズ少佐?」

「いいけどさ、…。それって外交官付帯特権のつかいすぎじゃないか?ホンダ?」

「いいだろう。こんな立場に立つのはおそらく一生に一度きりだ。

使えるものは使わせてもらうさ。それとも、ローズ」

笑みを浮かべて、実に悪戯な笑みを浮かべた眸でアレックスをみつめて。本多が、実に面白そうにいう。

「おまえ、ここで連中とずーっと待っている気か?

俺はおまえがいなくても勝手にするが」

「…ホンダ、ずるい」

「誰がだ。ここで英国の連中が事態をどうにかするまでお客さんとして待つつもりはまったくないからな。おまえがそうしたければ置いていく」

「…ホンダ!だから、…。給料はどれくらいだよ?」

「知らんな。確か棒給の基準はあったが、よく知らん。

いずれにしても、後払いだ」

「…ホンダ、…やっぱり結構アバウトだろう?ホンダって?」

「おまえこそ、案外細かい処を気にするだろう。

給与なんてついでだくらいに思っておけ」

「…―――何かやっぱり結構ホンダって」

「俺がなんだ?」

いいながら既に歩きだしている本多に、慌ててその背を追う。

「ホンダ!」

煙の上がる山の方へ向けて歩きだす本多とアレックスに気づいて、

慌ててパイロットがヘリから出てきて止めようとする。

 手を伸ばしてきた操縦士に。

「…――――」

鋭い視線を無言で向ける本多に、英国海軍のパイロットが動きを止める。その手が肩にかけられようという処で止められたのを冷たい視線で眺めて。淡々と本多がくちにする。

「外交官を拘束すると、国際問題になるぞ?」

静かに見据えていう本多に、パイロットが動けないままで見返す。

それに、本多の背から明るくローズが声をかけた。

明るい笑顔で、軽く手を振って。

「一応ほら、同盟国だろ?別に散歩してくるくらい大した問題じゃないだろ?な?別に捕らえていたはずのエイリアンが何処かにいっちゃって、実は探してるのに見つからないから困ってるのを、まってられないから勝手に探しにいくとか、いうことをしにいくわけじゃないし」

にこやかに笑むローズに、おもわずイギリス兵が一歩下がる。

そのローズを背に、あきれた顔で背後を眺めて、それから本多がくちにする。

「脅してどうする、脅して」

「誰もおどしてないだろ?ホンダ。笑顔で友好的に話してるだけじゃん」

「…おまえのそういう笑顔は、全然友好的にはみえん。

むしろ、肉食獣が餌をみつけて牙をむくようなというか、」

「…ホンダ、それはあんまりじゃないか?せっかく笑顔でいってるっていうのに」

「おまえのその手の笑顔はだから怖いんだよ。

にこやかにいいながら脅してるのが透けてみえるだろう?」

「ホンダこそ、そんな真直ぐに怯えさせてどうすんだよ。

怯えてるだろ、かれ」

「別に怯えるような提案はしてない。穏当な提案をしているだけだ。

処でほら、彼も反論はないようだから、時間を無駄にしないでいこう」

兵士に背を向ける本多に、あきれてローズが肩をすくめる。

「あのな?ホンダ!…まったく、―――あ、だから、俺達散歩に行くだけだから!

じゃーな!」

「…ローズ、おまえ、何してるんだ?それで?」

「だからさ、ホンダに懐いてる。散歩だろ?散歩!エイリアンを探しにいくとかじゃなくて、散歩!ならさ、懐いてもいいだろ?」

「…おまえの論理は全然論理になってない!」

「えー、だっていいだろ?ホンダ」

いいながら本多の背に後ろから手を置いて顔を覗き込むようにしていうアレックス。それにあきれて見あげながら、ヘリ乗員のイギリス兵を背に歩きながらいう本多。

「だから、人を別に庇わなくてもいいぞ?いかに馬鹿でもあのイギリス兵が俺を撃つ可能性は非常に低い」

「…ばれてた?ホンダ」

「だから、人の背に立つ必要はないというんだ」

「でもさ、ホンダ。俺は弾除けのジャケット着てるけど、ホンダはそうじゃないだろ?」

「装備の面では確かにな…。だから、ばか」

「うん?ホンダ」

背から懐いて肩から覗き込むアレックスに、本多がため息を吐く。

「ばかもの」

「…うん、ホンダ」

「処で、あの狼煙の処にエイリアンはいると思うか?」

「狼煙そのものの場所にいるとは思わないけど、タイミングとしては随分ありだからなあ、…」

「だな。何れにしても偵察して悪いことはないさ。別にヘリを乗っ取っていってもよかったんだが」

「…ホンダ、それは過激だって、ホンダ」

「だから、どのくちがそういうことをいってるんだ…?おまえの方が過激なくせに」

「だからって、ヘリ乗っ取ったら、後が面倒だろ?それに、エイリアンがもしいたら、音で怯えて逃げるかもしれないし」

「おまえ、それが一番の理由か?」

眉を寄せる本多を見返して、肩に腕を置いて懐きながらアレックスがいう。

「だってさ、狼煙の位置は歩いても大した距離の処じゃないけど、

ヘリで近づいたら音でばれるだろ。乗員を脅して操縦させても、実りが少ないじゃないか」

「…おまえな、…実りがあればやるのか?」

「ヘリ乗っ取ろうとかいいだしたのはホンダだろ?」

「乗っ取るとはいってない。乗っ取ってもよかったといっただけだ。

それに燃料さえあれば乗員を脅す必要はないだろう」

「ホンダ、操縦できるのか?」

「おまえこそ、できないのか?普通習うだろう」

「…ええと、たまたま講習で取ったから免許あるけどさ、…。

ふつーに取ったりしないぞ?おれ、情報士官だよ?基本、デスクワークなんだけど?本多も本職は情報分析官じゃなかった?」

目を丸くしてきくアレックスに、本多が何をいってるんだ、と訝しむ顔で返す。

「確かに事務職かもしれないが、ヘリも操縦できると便利じゃないか。何かあったときパイロットがやられて誰も操縦できないなんてことになったら、ヘリがもったいないだろう」

「…ホンダ、何か違う気がする、それ…」

「何がだ?アレックス」

「いや、ううんと、ええと。―――処でさ、ホンダ」

「ああ?ローズ」

「…こういう場合、第何種接近遭遇っていうんだっけ」

ヘリとその乗員達から既にかなり離れ、山肌に足を踏み入れていた本多が、静かな視線をおく。

 その背で、アレックスが、に、と笑みを零す。

「ふーん」

「確か、第3種辺りでいいんじゃないか?」

 本多の顔にも人の悪い笑みが浮かんでいる。

 灌木の繁みに僅かにある揺れを見つめて。

 そして、本多が静かに見つめたまま動かない後ろから、

 アレックスが出て笑みを浮かべて歩きだす。




 先の第一次接近遭遇にて、彼らが接触し、―――。

 世界を救った、と。


 そういわれる原因となったエイリアン。

 先にかれらが接触したと同じ形態。

 いわゆるエイリアンの搭乗機が、―――。


「ハロー、思い出すね。第一次接近遭遇」

 そう、かれらのファースト・コンタクト。

 まるであのときと同じように。





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