◆【若月香】◆
園田さんに話しかけられて気持ち悪い反応をしてしまった。他人にどう思われようが知ったこっちゃないと考えていた僕ですら、さすがにしまったと思ったくらいだ。だけど園田さんは気味悪がる素振りすら見せなかった。それどころか、よく話かけてくるようになった。
好きな色や使ってる画材だったりと美術についてのことをよく聞かれた。もしかして絵を描くことに興味があるの、と問いかけた。
「絵を描くのは苦手なんだよね。若月くんの描いた絵が好きなんだ」
園田さんはそう言って、大きな瞳で僕の目をじっと見つめてくる。恥ずかしくて目を逸らし「園田さんにも苦手なことあるんだ」と返す。
言ってしまってから嫌味に聞こえてかもしれないと気付いて、少し心配になる。
「当たり前じゃん。人間だもん」
でもそんなことは気にしない様子で、園田さんはころころと笑った。その笑顔は黄色みたいに明るく、とても眩しかった。
話せば話すほど、園田さんの太陽みたいな人柄に惹かれていった。今までずっと、一人で景色を眺めていただけの僕が、気がつくと園田さんのことを目で追うようになっていた。
色鮮やかな世界を楽しめないなら人間関係なんて少しで十分だと思っていた。だけど、園田さんの強烈な輝きに、僕は目も心も奪われてしまった。
どんなときも頭の中に園田さんの明るい笑顔が思い浮かぶようになり、初めて恋をしたことを自覚した。
でも、僕がどれだけ想ったとしても、その気持ちが成就することはない。
園田さんはみんなから好かれている。僕よりも相応しい奴なんていっぱいいる。
だからと言って、園田さんを想う気持ちは無理矢理押し込めてしまえる程、小さなものでもなくなっていた。
僕は園田さんに告白をしようと決意する。
空を見上げると灰色の雲が広がっている。雨が降り、放課後の教室の窓を叩く。
告白しても断られるだろう。その覚悟はしてきた。それでも、フラれたら泣いてしまうかもしれない。この雨は僕の涙を隠してくれるのにうってつけだ。
そう思った梅雨の六月。
誰もいない放課後の教室。蛍光灯の白い光の下で、園田さんに告白をした。
園田さんは凄く驚いた顔をした後、俯いた。
栗色の髪で大きな目が隠れる。
やっぱり断られる。
せめて園田さんの前では涙を流さないように拳を握り、奥歯を噛んで返事を待つ。
断りの言葉を聞いたら、そのまま教室を飛び出して、雨の中、傘もささずに帰ろう。
園田さんがゆっくりと顔をあげた。顔から首までトマトみたいに真っ赤に染まっていた。僕の目を長い睫毛で縁取られた柔らかな目でじっと見つめてきた。
周りの景色が見えなくなった。僕の目に映る世界全てが、園田さんに支配された。