拡散していた意識が次第にとある一点へと集中していく。それとともに
「ぶはっ! はぁはぁ! 俺は!?」
分子分解された
ぜえぜえはあはあと肩で呼吸を何度もする。そうした後、口元を拭いながら、その場で立ち上がる。
「大丈夫か坊主?」
「あっはい。って、ムキムキのおっさん!? 俺、いきなりここでゲームオーバーなのぉ!?」
「落ち着けっ! ええい、当身だ!」
「うごぉ!」
筋骨隆々の褐色肌の大男がこちらのみぞおちに右の拳を叩きこんできやがった。「おごえ!」とむせ返りながら、その場で
恨めしそうに青いトランクス一丁の大男を睨んでやった。そうだというのに大男は「ヤレヤレ……」と肩をすくめていやがった。
そんな自分をあやしてくれるように見た目16歳の美少女がこちらの背中をさすってくれることになった。
「ありがとう。って、こっちも下着姿ぁ!? ふひっ! ふひひっ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
女子たちの嘲りがリフレインする。頭がガンガンと早鐘を鳴らす。眩暈がして、白い床に四つん這いになってしまう。
胃から胃液がせせり上がってくる。それが口から吹き出しそうになったのを手で押さえる。なんとか吐くのを止めることができた。
隣で身体を屈めている16歳くらいの美少女が心配そうにこちらを見つめてきた……。
「どこか具合が悪いんですか?」
「ごめん……俺、女性に免疫がなくて」
「そう……なんですね。じゃあ、身体を離したほうがいいです?」
「う、うん。介抱してくれるのはありがたいけど。って、恥ずかしくないの!? そもそもとして」
「……え?」
「……え? そっちこそ大丈夫!?」
「はい。見せてどうとかっていうほどの身体ではないので」
美少女がそう言うが、こっちとしては目のやり場に困るほどの白い肌だった。大事な部分をピンクのブラとピンクのショーツで隠しているだけだ。
見るだけで拝観料を徴収されても文句の言えない美しい身体をしている。惜しむらくは、彼女の胸がお淑やかすぎることだけだ。
もっと見ていたいという気持ちがあるが、こちらは女子に対して、大きなトラウマ持ちである。動悸、息切れが激しい。情けないとはまさにこのことだ。
これも全て短小包茎がもたらしたのだ。悔しくて涙があふれてきちゃう。自分は年頃の男子なのに、まともに女子を見ることすらできないのだ!
スッ……と美少女が立ち上がり、そっ……と、こちらから距離を取ってくれた。おかげで呼吸をする余裕が出来てきた。
余裕が出来たと同時に自分が今、置かれている状況を理解できるようになってきた。
ここは白い部屋だった。ベッドも机も椅子すらもない。そんな殺風景すぎる場所に自分と褐色のスキンヘッド・マッチョと彫刻のように白い肌の美少女がいる。
この3人以外にこの白い部屋にいる者はいなかった。
呼吸が整った後、
「俺、
「おう。おれっちは
「私は
「……どこからツッコんだらいいんですかね!?」
「えっ。ここに呼ばれたということはお二人が私の仲間だと思うんです。だから、愛称で呼んでもらったほうがいいかと」
「う、うん。そうだね!? それは間違ってないかもね!?」
なんとも調子を狂わせてくれる美少女であった。金髪碧眼。さらにその金髪をポニーテールにしている。
そして、自分の愛称は「ルリルリ」と宣言してきた。なんとも可愛いの一言だ。もし、女子へのトラウマがなければ、もっと違った反応を見せることができたかもしれない。
「ははは。ルリちゃんは面白い娘だな。おれっちのことはマサと呼んでくれ」
「はい、マサさん。こちらこそよろしくお願いいします」
「んで?
「なんでやねん! それ、小学生の時のあだ名だよ!?」
このやりとりだけで今のマサは見た目30歳の褐色ドワーフであるが、中身は40代なのだろうと予想できた。
「えっと……マサさんは巨人ファンなんです?」
「いや、静岡生まれの静岡育ちだから、どちらかといえばサッカーファンだな。野球は強いて言えば巨人ファン」
「なるほど……って、俺も同じく静岡生まれの静岡育ちですよ!?」
「マジ!? おれっち、浜松市!」
「ええーーー!? 俺、静岡市です!」
世界は狭いと思ってしまった。ガチムチ・アイランドに挑む仲間がまさかの同郷とは思っていなかった。
もしかすると……ばかりに2人でルリルリの方へと視線を向けた。しかし、彼女は申し訳なさそうに顔を赤らめた。
「ごめんなさい。私は山梨県です」
「あっ、そうなのね」
「うん。海がないあの山梨県。私、妹と一緒に海水浴したいんだ……」
「……え?」
だが、彼女は寂しげな笑みを顔に浮かべて、言葉を続けてしまった……。
「私……ね。交通事故に遭ったの。海水浴に行こうとしてたの、家族旅行で……」
「待って!? そんなこと、俺に言っていいの!?」
「うん。だって、私たち、仲間だもん。っていうより、誰かに聞いてほしいんだ」
それから、自己紹介を兼ねて、
その時にトラックに後ろから追突された。後部座席に乗っていた自分と妹の傷は深く、妹の方は半身不随となり、ベッドで寝たきりになってしまったそうだ……。
「妹が言うの……。お姉ちゃんと一緒に海水浴したかったなって」
「うわーーーん。なんて健気なんだ、ルリルリはぁぁぁ!」
「私も事故の時に火傷を負ってね? でも、見て見て! こっちの世界にやってきたら、その火傷跡がキレイに消えてるの!」
ルリルリがそう言うと、下着姿であるというのにキラキラとした顔で、こちらに惜しみなく素肌を見せつけてくれた……。
こちらは呼吸が荒くなる。「ふひっ! ふひひ!」と不気味な声を出してしまう。ルリルリが可愛らしく「いやん♪」と言ってくるが、こちらはキモデブヲタクのようにぶひぶひ喜んでいるわけではない……。
女子に対してのトラウマが蘇っただけである。本当ならみずみずしい素肌をこれでもか! と見せつけてくれるルリルリに土下座して、さらには涙を流しながら「ありがたやありがたや!」と言う場面なのだろう。
実際にマッチョのマサが「ははーー! ルリルリ様の神々しい姿に目が潰れそうですぞぉ!」と平伏していやがる……。
「私がガチムチ・アイランドにやってきたのは妹と一緒に海水浴に行く願いを叶えること! 二人とも、よろしくね!」
「ええ子や……おじさん、涙が溢れてきちゃう」
マサが感涙を流していた。しかし……自分は心臓を鷲掴みされているような気分である。
(言えないよ……ルリルリに……俺は短小包茎をムキムキでかチンに変えたいから、ここに来たって)
そうであるというのに、ルリルリは無情にも、こちらの理由を問うてきた。マサが「次はおれっちの事情を話す番だなっ!」と意気込んでいやがる。
そうじゃない。そこはやんわりと会話をストップさせるところだろうと言い放ちたくなってしまう。
しかし、マサはべらべらと自分語りを始めてしまった……。マサが言い終われば、自分の番になるのは必定だった……。