拍手がおさまり、広場に静けさが戻る。
私は端の線まで芽の列をもう一度だけ目でたどった。我ながら、ちゃんと真っ直ぐ。生き方を反映していると思いたい。
ひげの男が近づく。腕は組んだまま。
「……運じゃねえな」一息ついて、サクを見る。「不作のサクは、今日で終いだ」
サクは視線を落として、黙ったまま。耳が赤い。
その一瞬だけ、こちらに視線が上がりかけ——すぐ落ちた。それでいい。
私はうなずき、ロープの結びを確かめて札を裏返す。
〈作業中〉を〈本日の分:完了〉に。
「ここまでが私の受け持ち。土を起こすまで。続きは皆さんで。明け方がいちばん効きます」
男は短く「おう」とだけ返し、輪の後ろへ戻る。
サクがしゃがみ込み、列のまんなかに種を一粒置いた。
「……俺のせいじゃ、なかったのかな」
「今日は、手が勝った。明日も、同じ手で」
サクは小さく息をのんで、うなずいた。
私は道具袋を締める。説明は板に三行だけ残す。
《明け方に一本/静かに寄り添う/息は地面へ》
「私はこのあと、次へ向かいます」
誰も引きとめない。代わりに、誰も目をそらさない。それで十分だ。
サクが半歩前へ出て、迷いながら言う。
「……今日だけって言いましたけど、今夜はここを見てます。皆と」
「任せます」
引き継ぎは完了。私はロープの外へ出た。人の輪がほどけていく。私は肩ひもを掛け直し、道に向き直った。
背中に声。
「アメリアさん」
振り返ると、サクが数歩だけ近づき、麦わら帽子を私に差し出しかけて——やめた。
俯いたまま、言葉がつかえる。空気が少しもつれる。
「サク」
「はい」
「足元に青空が広がっている。そんな世界があることも、忘れないで」
「……覚えておきます」
彼は帽子を戻し、芽の列の正面に立つ。半歩だけ前へ。
子供が口元に指を当てて、しー。
ひげ面がうなずき、人々は畑の周りに続々と並び出した。ここはもう、彼らの現場だ。
私は振り返らずに歩き出す。
土の匂いは昼より少し重い。起きた匂い。
——次の土地へ。そこでまた、逆さになって、起こす。