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第7話


 翌朝、幸太郎は図書館の一角に、自分の手で書いたノートを差し込んだ。

『八坂幸太郎記録/閲覧自由/転写推奨』

 中には、あの図書館で見たこと、少女の言葉、母の証言、そして忘れてはいけない歴史の断片がすべて記されていた。

 棚に差し込むと、不思議なことに、ノートの背にタイトルが刻まれた。

 個人記録:不適格者の血を引く者

 まるで、図書館がそれを正式な記録として受け入れたかのようだった。振り返ると、もう彼女はいなかった。だが、幸太郎にはわかっていた。これが始まりなのだ。誰もが記憶を取り戻すまでの、長い長い戦いの……

「検索者」としての旅が。


  その図書館には、奇妙なうわさがあった。

「絶版された本を読むと、自分の歴史認識が書き換わる」

 それは、まことしやかな風のように都市に流れていた。そして今、そのうわさは、現実の顔を持ちはじめていた。


 八坂幸太郎が「忘却図書館」の最奥で出会った、封印された記録。幸太郎はその一部を自分の手で書き写し、再び書棚に戻した。あれから一週間、大学の講義を受けながらも、幸太郎の頭はあの図書館のことばかりだった。だが、ある日。ゼミ室に顔を出すと、いつもクールな女子学生、秋津さやかあきつさやかが突然、こう切り出した。

「八坂くん。ねえ、あの図書館、行った?」

「なんで、知ってる?」

 さやかは目を伏せ、小さく笑った。

「私もね、小さい頃から変な夢を見てたの。天井まで続く本棚の中で、誰かが私の名前を呼ぶの。

 最近、その夢がリアルになってきてて、ついこの前、たまたま入った図書館で、あの本を読んだのよ。背表紙もない、名前も著者も書かれてないやつ」

「それ、どんな本だった?」

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