目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報

第2話  満足させる

彼は一体何を考えているのだろう…?正気を失ったのか?


奈々未は目を赤くして首を振った。「嫌だ、帰りたい!」


彼女はリビングから逃げ出そうとしたが、二人の黒服の男に力ずくで止められた。

奈々未はすぐに南に助けを求めるような目を向けた。


「南、ここにいたくないの。お願い、私を行かせて!」


しかし南は一瞬だけ暗い表情を見せ、冷たく一言だけ残して、仁美を連れて背を向けてしまった。

「言うことを聞いてろ。仁美を先に連れて帰る。」


奈々未は言葉を失い、信じられない顔で彼が仁美を連れてそのまま去っていくのを見つめていた。彼女なんて、全く気にしていないようだった。


「南!本当に私をここに一人で残すつもりなの?」奈々未は彼の背中に向かって、泣き叫びながら問いかけた。

だが、背の高い男はまるで聞こえないふりをして、無視した。彼はただ仁美を連れて、早くこの場を立ち去ろうとしていた。


奈々未は恐怖で震えながら、「南、お願いだから置いていかないで、助けて…私、あなたの婚約者でしょ?」と懇願した。けれども、どんなに泣きながら頼んでも、彼は一度も振り返らなかった。


やがて南は仁美と共に去っていった。


本当に彼女を置き去りにして、他の男に差し出すつもりなのか――奈々未は顔色を失い、心臓が潰れそうなほど痛んだ。


まさか、愛した男にここまで残酷に裏切られるとは思ってもいなかった――南が去り、今の奈々未はまるで狼の巣に放り込まれた子ウサギのようだった。


生きて帰れるかどうかも分からない。屋敷のあちこちに黒服の男が立っているのが見え、逃げ出すことなど到底無理だと悟った。抵抗する余地もない。


「夕食の準備ができた。堀さん、どうぞお召し上がりください。」

一人が低い声で告げた。


奈々未はとても食事をする気分になれず、哀願するように言った。「お願い、出してもらえませんか?」


男は冷たく笑った。「そんな馬鹿なこと、もう言わないほうがいい。ここに来た以上、運命を受け入れるしかないんだ。」


奈々未はさらに顔色を失い、恐怖で手が震えるのを止められなかった。当然、食事など喉を通るはずもなかった。


「食べないのなら、風呂に入りなさい。ボスが待っている。」


奈々未は思わず自分の体を抱きしめ、防御の姿勢をとった。そんな彼女の様子を見て、男は嘲るように笑った。

「言いたいことは一度しか言わない。堀さんが協力しないなら、こっちでやるしかないぞ。」


「……分かった、入る!」奈々未は目をぎゅっと閉じ、これからの運命を受け入れるしかなかった。

抵抗すればもっと酷い目に遭うと分かっていたからだ。


奈々未は手をぎゅっと握りしめ、爪が手のひらに食い込むほどだった。恐怖と絶望に耐えながら入浴を済ませ、薄いナイトドレスに着替え、使用人に案内されて暗い部屋に入った――


使用人は彼女を部屋に残し、すぐに扉を閉めて出ていった。扉が閉まる瞬間、奈々未は思わず駆け寄りそうになったが、理性で踏み止まった。


逃げてはいけない、抵抗もしてはいけない。

そうしなければ、もっと酷いことになる。


荒城組長の噂は何度も耳にしたことがある。海に沈められた女が何人もいるとか――


死にたくはなかった。


だから、今夜だけ我慢すればいい……そう自分に言い聞かせた。奈々未は絶望的な気持ちで目を閉じ、部屋の中を見回した。ふと、窓際に誰かが座っているのが目に入った。


部屋には灯りがなく、カーテンも閉め切られているため、彼の姿はぼんやりとしか見えない。だが明らかに、大柄な男だった。座っているだけでその威圧感が伝わってくる。


片足をもう一方の膝に乗せていて、薄暗い中でもその脚の長さが際立っていた。


奈々未は勇気を振り絞って声をかけた。「あなたが荒城組長ですか?」

「来い。」男は低く、落ち着いた声で命じた。その声は思いのほか若く、心地よかった。

まるでチェロの低音のように深みがある。


奈々未は思わず驚いた。年老いた男ではなかった。


奈々未は言われたとおりに緊張しながら彼の前に歩み寄った。男が目を上げると、暗闇の中でもその瞳の威厳と鋭さは隠しきれない。


白いナイトドレス姿で小さく震えている彼女を見て、男は微かに笑った。「悪くない。素直だな。」奈々未は自嘲気味に微笑んだ。


確かに、自分の唯一の長所は素直なことかもしれない。南もいつも「お前は本当に素直だ」と言っていた。何を言っても従うから。


だから南は、彼女が残されても素直に従うとでも思ったのだろう。


いつも何があっても、彼の言うことを受け入れてきた――でも、生きて帰れたなら、もう二度と南の言うことには従わない!


そう思った瞬間、男の大きな手が彼女の腕を掴み、少し強く引かれて彼の膝の上に座らされてしまった。

その格好はとても恥ずかしいものだった。


両脚を開いて、彼の膝の上に座る形――


奈々未は驚きの声を上げ、こんなに近くで彼の匂いを感じた。冬の雪に包まれた松の香りが、清々しく心地よく漂っていた。


そして、彼の顔の輪郭がぼんやりと見えた。短く整った髪、端正な額、深みのある冷たい目元。薄暗がりの中でも隠しきれない、白くて冷たい肌。


はっきり顔が見えなくても、このわずかな輪郭だけで奈々未の心は大きく揺れた。この男、あまりにも美しい容姿だ――


ただの影だけで息が詰まり、心臓が高鳴るほどだった。まさか噂の極道が、こんなにも端正な男だったとは。奈々未は呆然と彼を見つめた。


男の手が彼女の腕に触れ、熱い手のひらが肌に触れると、奈々未の心は震えた。男は微笑んで、どこか怠惰な雰囲気の中に支配者としての威圧感を漂わせながら、低い声で言った。


「どうやって俺を満足させるか、分かっているのか?」


奈々未は言葉を失った。


「俺は我慢できる時間が長くない。今夜、君がどうなるかは、君次第だ。」


低い声で囁かれ、その穏やかな口調の中に感じる圧倒的な威圧感に、奈々未は逆らうことができなかった。奈々未は彼の胸元のシャツを掴み、目を閉じて、震える唇で彼の首筋にキスをした。とても従順だった。男はその素直さに満足そうだった。


ぎこちなくて不器用なキスに、彼は胸の奥から低い笑い声を漏らした。


「どうした、南には教わらなかったのか?」

奈々未は一瞬戸惑い、恥ずかしさで答えに詰まった。


たぶん誰も信じてくれないだろう。南は一度も彼女に触れたことがなかった。キスすらも――


ずっと彼が自分を大切にしてくれていると思っていたから、結婚前に触れないのだと信じていた。今になって、彼の心に自分がいなかったのだと痛感しただけだった。


「ん?答えろ。」男はその答えにこだわり、強く問い詰めた。奈々未は首を振って、「ない」と答えた。


「ふっ……」男は低く笑い、どこか楽しそうな表情を浮かべた。

次の瞬間、大きな手が彼女の後頭部を掴み、男は強く深いキスを彼女の唇に落とした――

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?