祖父の墓に手を合わせた雲平が帰ろうとした時、墓場全体が血のような色で真っ赤に光った。
雲平は嫌な予感に襲われていた。
散々特集でみたアナザーゲートの光。
突発的に生まれたゲートからは、野良の魔物が出てくる。
魔物はすぐに警察に知らせないとならない。
警察ならば訓練を受けていて、魔物とも戦えるし、特殊部隊、シェルガイのハンターで構成されたプロ集団であれば、大抵の魔物にも対応が出来る。
雲平はスマホを取り出したが、圏外で通報する事が出来なかった。
「確かゲートのそばって、一時的に電波が死ぬんだっけ?」
避難訓練で教わった事を、思い出して苦笑した時、悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴は女性のもので、仮にゲートから出てきた魔物に出くわした場合には高確率で死ぬ。
雲平は引きつった顔で「墓場だから埋葬の心配は無いかな?」なんて軽口を叩いてみたが、口はカラカラで手は汗ばみ足は震えていた。
どこか逃げ出したい気持ちはある。
だがやはり見捨てられるものではないと思った雲平は走っていた。
そう広くない墓地だが、何区画か動くと赤い光の渦が見えた。
それはやはりアナザーゲートだった。
そしてゲートの足元では女の子が倒れている。
周囲に魔物の姿は見えない、
女の子の髪は明るい茶色で、服装はファンタジー要素が盛り沢山の、薄着スケスケな服装で目の毒だ。
だがそうじゃない。
とりあえず状況確認だ。
雲平はそう思って女の子に声をかける。
「大丈夫ですか?」
少し揺すってみると、「ん…」と聞こえてきたので安心をして、ゲートの前から移動させようとした所で、女の子は目覚めて「誰!?」と言って右手をかざしてきた。
この右手に何があるのかわからない。
ファンタジー世界から来たのだから、火の玉の一つも飛んでくるかもしれない。
雲平はホールドアップしながら説明をする。
「君が倒れていたから声をかけました。ここは日本で…えっと…お墓です。俺は祖父のお墓参りの帰りでした」
「日本…?まさか地球ですか?」
女の子の質問に雲平がそうだと答えると、女の子は慌てて「シェルガイに帰らないと!私が帰らないと!」と言って、先程より縮んだゲートに走り出そうとした。
「危ないですよ!」
「行かなければ!帰らなければ!」
女の子は必死にゲートに向かうが、雲平はそれを阻止をする。
「落ち着いて!日本にもゲートはあります!あなたが迷い人だと、警察に言えば保護をされてすぐに帰れます!とりあえず警察に行きましょう!」
雲平の言葉で、ようやく女の子は落ち着き、雲平の顔を見て「はい。ありがとうございます」と言った。
雲平は「とりあえず」と言って、名前を聞く。
「セムラ、セムラ・アフォガートです」
女の子はセムラと名乗ったので、雲平は「セムラさんはどうしてこちらに?」と聞く。
セムラはハッとした顔で周りをみると、「特使として帰る途中にゴブリンに襲われて、崖から滑落と共にゲートに飲まれてこちらの世界に…倒れていたのは私だけでしたか?」と聞いてきた。
「今見た感じではセムラさん1人でしたよ?」
「ですが確かにゴブリンが…」
セムラがそう言った時、雲平の背後からガサガサと物音がした。
・・・
物音の方を向くと、小学校低学年くらいの大きさで、濁った緑色の体表をした魔物がいた。
「ゴブリン!?やはり共に転移していた!」
雲平は慌てるセムラの声を聞きながらゴブリンをみると、口元には饅頭だろうか、誰かが持ち帰らなかった御供物の食べカスが付着していた。
「ああ…、お菓子のお陰でセムラさんは無事だったと…」
雲平は軽口を叩きながらゴブリンを見て、なんとか距離を取って逃げたいと思っていると、ゴブリンは雲平とセムラを見て舌なめずりしている。
「まだ腹ペコか……。セムラさん?逃げますよ。立てますか?」
決してゴブリンから目を逸らさずに聞く雲平だったが、セムラは「すみません。無理です。足を捻ったのか痛みで立てません」と返してくる。
戦うしかない。
これで雨の予報でもあれば傘の一本もあったが武器はない。
雲平は辺りを見渡して武器になりそうなものを探すと、墓石に備え付けられた卒塔婆を手にした。
卒塔婆の木は柔らかいが、無いよりはマシだった。
ゴブリンは鋭い爪こそ脅威だったが、それこそ見た目通りの力しかなくて、卒塔婆でもなんとかなる。
今は3本目の卒塔婆が折れた所だが関係ない。
「まだ卒塔婆はある!」
雲平は卒塔婆の次を拾うと、一気に勝負に出た。
左手をポケットの中に入れるとスマホを取り出す。
脳内では祖母かのこの、「雲ちゃんならその すまほ でなんでもやれんでしょ?私になんでも出来るから持てって言ったのだから、魑魅魍魎くらい倒してきてね。」と言われた言葉が再生されている。
「ばあちゃん…スマホは凄いんだよ」
雲平はライトを起動すると、ゴブリンに向けて放ち目潰しを行う。
突然の眩しさに目が眩んでジタバタとするゴブリンの脳天に、唐竹割りのように卒塔婆を放つとゴブリンは動かなくなった。
雲平は心の中で、「フィニッシュブローは卒塔婆クラッシュかな?」と思いながらセムラに声をかける。
「何とかなりましたよ。とりあえず保護をしてもらいましょう」
そう言って手を出して立たせると墓場を後にした。