雲平はゴブリンを倒したその場を離れると、墓場の管理人にアナザーゲートが生まれた事を伝える。
管理人は目を丸くしたが、雲平に「まだ魔物がいるかも知れないから、お墓を封鎖して逃げたほうがいいですよ」と提案されると、管理人は交番に行きながら避難すると言った。
なんとなく、管理人の頼りなさを見てしまうと、セムラを任せる気にはならなかった。
「仕方ない、帰りに少し遠回りになるが警察まで送り届けるか…」
漏れた呟きにセムラが「すみません雲平さん」と謝るが、雲平は「いいですって」と返して歩き出す。
セムラは足を捻っていたが、時間経過で歩行程度なら問題がなくなっていた。
だがすぐに別の問題に見舞われた。
春先特有の夕方の寒さにセムラは身震いしていて、雲平が「寒い?」と聞くとセムラは頷く。
上着を貸して「こっちとシェルガイは違うんですかね?」と聞くと、セムラが居たのは温暖な地域で、他の地域は今くらい寒い場所や雪深い地域もあるということだった。
困った雲平はセムラをざっと見ると、スマホを取り出してメッセージアプリを起動する。
そしてメッセージを送るとすぐに既読と返信が来たので、ある事を頼んだ。
雲平は家まで帰る事を諦めて、かのこの所に向かう事にした。
玄関を開けて「ばあちゃんただいま」と言う。
居間からは少し嬉しそうで意外そうなかのこの声が聞こえてくる。
「あら?雲ちゃん?お墓の帰りに寄るなんて珍しい」
そう言いながら玄関までヨタヨタと来たかのこは、セムラを見て「あら?お墓に行ったのに、可愛らしいお嬢さんを連れてどうしたの?」と言う。
「とりあえず色々あってさ、あんこは?」
「あんこちゃん?」
あんこと言うのは先ほどのメッセージアプリの相手。
そしてかのこの反応で察した雲平は「中で説明するから上がるね」と言い、セムラに声をかけた。
「セムラさん、ここでは靴を脱いで。段差は歩ける?」
「腰をかけても良いですか?」
雲平が頷くと、セムラは革靴を脱いで上がった。
「あらあら、可愛らしいお嬢さんだこと。怪我をしてるの?お薬箱を出しますから待っててね」
かのこはニコニコと薬箱を出しながら声の大きい独り言を呟く。
「雲ちゃんがあんこちゃん以外の女の子を連れてくるなんてね。お婆ちゃん嬉しい。長生きするものね」
そんな事を言っていたが、かのこのニコニコ顔はここまでだった。
「うちのばあちゃんの家に寄るから着いてきて、そこで寒さに備えて、警察を呼びましょう」
雲平はセムラには今向かうのが祖母宅である事、そこで保護を待とうと提案をした際、に一言添えてあった。
「ただ、うちのばあちゃんはシェルガイが苦手なんだ。だから嫌な目に遭うかも」
心配そうな雲平の声に、セムラは首を横に振る。
「いえ、仕方のないことです。シェルガイは魔物を運びます。聞けば地球は魔物のいない世界。それは嫌にもなります」
そう答えていた。
とは言え、セムラが突如墓に現れたアナザーゲートから出てきたシェルガイ人だとわかると、かのこは豹変した。
「あなた何!?私から金太郎だけでなくて、雲ちゃんまで連れて行くの!?」
そう怒鳴るかのこの剣幕はとても先週から寝込んでいた人間には思えなかった。
豹変具合に驚くセムラが、「お婆様…」と呟く中、雲平が制止を試みる。
「ばあちゃん、違うよ。怪我をしたら助けるのが人の道だよ。困った人を見捨てるの?」
普段ならこれで止まるのに、かのこは「雲ちゃん!お黙りなさい!」と雲平を怒鳴りつける。
一瞬で10は若返ったように怒鳴り、話を聞かないかのこに雲平は辟易した時、玄関から声が聞こえてきた。
「こんばんは〜、雲平〜、来たよ〜」
雲平は「助かった」と呟くと、玄関に向かって「あんこ!入って!」と呼んだ。
声の主は勝手を知っていて、「はいはい〜。お邪魔しまーす」と言いながら入ってくる。
「何?お婆ちゃん怒らせたの?お婆ちゃん風邪なんでしょ?お婆ちゃん!雲平より可愛いあんこだよ〜」
そう言いながら居間に登場すると、声の主、あんこは状況を見て「何この修羅場」と言った。