雲平は「俺でごめんなさい」と言いながら足に湿布を貼って包帯を巻く。
セムラの処置をしながら、あんこに経緯を説明すると、「うんうん」と聞いたあんこは、先にセムラを見て自己紹介をする。
「私は井村 あんこ。雲平と同じ小学校と中学校に行った友達ね」
その流れのまま、今度はかのこに事情を説明する。
「お婆ちゃん、この子遭難したんだってさ、それでお墓だとスマホが使えなくて困ったから、お婆ちゃんの電話借りに来て、怪我もしてたから包帯を貰って、後は薄着で寒いから、私に中学のジャージを借りたいんだってさ」
そうテンポ良く説明すると、怒気を収めたかのこはあんこに聞き返す。
「あんこちゃん?じゃああの子は雲ちゃんを連れにきたんじゃないの?」
「そうだよ。お巡りさん呼んだり、寒いから着替えたりするんだよ〜」
かのこにはあんこのテンポがベストマッチしていて、ポンと聞けばポンと返ってくるし、変な老人扱いしないでニコニコと返すあんこは、かのこに可愛がられていて、雲平が説明する事の100倍は話が早い。
ようやく納得をしたかのこは、「あらあら、お婆ちゃん早とちりだわ」と言うとセムラに謝る。
「ごめんなさい。勘違いしちゃったわ」
「いえ、私こそお世話になりっぱなしですみません」
セムラは怒鳴られていても悪い印象もなくキチンと謝罪を受けて、逆に謝罪をする。
その姿を見ながら雲平はあんこに話しかけている。
「ごめんあんこ。セムラさんが薄着で寒いから服貸してよ」
「…いいけどさぁ、キチンと説明したらもっと可愛いの持ってきたよ?中学校のジャージって…」
あんこは呆れ顔で、袋から中学校の時に着ていた真っ赤なジャージを取り出す。
防虫剤くさいのは何でも取っておくあんこらしい。
「だって、セムラさんの体型とか見ただけじゃわからないし、ジャージなら着れると思ったんだよ」
「…確かに。着てみて小さかったりしたら洋服を買ってあげなきゃ」
あんこが別室にセムラを連れて行き着替えさせると、襖なので別室の声は漏れ聞こえてくる。
「うわっ!細っ!大きい!ノーブラ!?」
「え?普通ですよ…」
「普通…だと?シェルガイ怖いわ」
「確かにシェルガイは魔物が跋扈する危険な世界ですよ」
ズレた会話を聞きながら、雲平は頭を押さえて「あんこぉぉ…」と言っていると、戻ってきたあんこは「凄いよ雲平。細いしデカいの!」と言う。
【下町育ちだから】は偏見だが、あんこには著しくデリカシーが足りない。
頑張ってそれを無視した雲平は、「服はちょうど?」と確認をする。
「まあね。でも素肌ジャージだから、やっぱりすぐに保護してもらえるならいいけど、違うならTシャツとか下着とか買い物行かなきゃ」
すっかり機嫌が直ったかのこは、「賑やか」と喜んでお茶を用意して、セムラに出す。
「日本茶は飲めるかしら?」
この言葉に頷き、お茶を飲んで「美味しいです!」と喜ぶセムラに、どんどん機嫌が良くなるかのこ。
油断した雲平がスマホを出すと、あんこが「バカ!」と止める。
「お婆ちゃん、黒電話貸してね。スマホじゃ警察に通報できないや」
あんこがと声をかけると、かのこは喜ぶ。
「そうでしょう、そうでしょう!すまほ なんてダメよね。雲ちゃん、使えるわよね?」
雲平はあんこに感謝をして黒電話を使い通報をした。
この時はこれが間違いか正解かわからなかったが、雲平は最寄りの警察署ではなく110番に電話をしてしまっていた。
墓場にアナザーゲートが生まれた事。
そこに居たセムラと名乗る少女を保護した事。
本人はシェルガイへの帰還を願っている事。
そこら辺を伝えると「担当の部署に連絡を取って、この電話番号に折り返します」と言われる。
居間に戻った雲平は「警察から折り返しくるから待たせてねばあちゃん」と言うと、機嫌のいいかのこは「ゆっくりしなさい。雲ちゃん、お参りの写真は?」と聞いてくる。
ゲートのせいで撮ってないと説明すると、かのこは「すまほ ってダメね」と喜んでいた。
お茶菓子がわりに金平糖を出すと、セムラは目を丸くして美味しいと喜び、それがまたかのこの機嫌を良くしていた。
「なんかシェルガイの人って、地球のご飯とか美味しくないとか言ってたのに不思議〜」
あんこの言葉にセムラは「シェルガイも最近では美味しくないですよ」と困り顔で答える。
・・・
5分くらいだろうか、黒電話がけたたましい音を立てて鳴る。
セムラが驚くと、かのこは「大丈夫ですよ」と微笑んでいた。
雲平が電話に出ると、相手はゲート対策室とか言う連中で、状況を聞きながらシェルガイの人間に代わると言う。
出た男は事務的に確認をしてくる。
「シェルガイの人間を保護してくれたとの事、感謝します。その方の名は本当にセムラと?」
そう確認をしてくるので、雲平がそうだと答えるとセムラと話がしたいと言う。
セムラは快く電話に出ると数回の相槌。そして名前を聞かれたのか名乗っていた。
「はい。セムラ・アフォガートです。兄はクラフティです」
そう説明し、すぐに帰りたいと伝えた後で雲平に電話を戻す。
「助かりました。今から保護の者を向かわせます。それにしても地球の方なのにゴブリンを倒せるとはお強い。セムラ様をお助けくださって、ありがとうございました」
相手はそう言って電話を切った。
居間に戻りながら、セムラに電話の相手が誰かを聞くと、「あの方はバニエ卿でした。昔一度お話しした事がありました」と返される。