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第5話 ごめんなさい。勘違いしちゃったわ。

雲平は「俺でごめんなさい」と言いながら足に湿布を貼って包帯を巻く。


セムラの処置をしながら、あんこに経緯を説明すると、「うんうん」と聞いたあんこは、先にセムラを見て自己紹介をする。


「私は井村 あんこ。雲平と同じ小学校と中学校に行った友達ね」


その流れのまま、今度はかのこに事情を説明する。


「お婆ちゃん、この子遭難したんだってさ、それでお墓だとスマホが使えなくて困ったから、お婆ちゃんの電話借りに来て、怪我もしてたから包帯を貰って、後は薄着で寒いから、私に中学のジャージを借りたいんだってさ」


そうテンポ良く説明すると、怒気を収めたかのこはあんこに聞き返す。


「あんこちゃん?じゃああの子は雲ちゃんを連れにきたんじゃないの?」

「そうだよ。お巡りさん呼んだり、寒いから着替えたりするんだよ〜」


かのこにはあんこのテンポがベストマッチしていて、ポンと聞けばポンと返ってくるし、変な老人扱いしないでニコニコと返すあんこは、かのこに可愛がられていて、雲平が説明する事の100倍は話が早い。


ようやく納得をしたかのこは、「あらあら、お婆ちゃん早とちりだわ」と言うとセムラに謝る。


「ごめんなさい。勘違いしちゃったわ」

「いえ、私こそお世話になりっぱなしですみません」


セムラは怒鳴られていても悪い印象もなくキチンと謝罪を受けて、逆に謝罪をする。

その姿を見ながら雲平はあんこに話しかけている。


「ごめんあんこ。セムラさんが薄着で寒いから服貸してよ」

「…いいけどさぁ、キチンと説明したらもっと可愛いの持ってきたよ?中学校のジャージって…」


あんこは呆れ顔で、袋から中学校の時に着ていた真っ赤なジャージを取り出す。

防虫剤くさいのは何でも取っておくあんこらしい。


「だって、セムラさんの体型とか見ただけじゃわからないし、ジャージなら着れると思ったんだよ」

「…確かに。着てみて小さかったりしたら洋服を買ってあげなきゃ」


あんこが別室にセムラを連れて行き着替えさせると、襖なので別室の声は漏れ聞こえてくる。


「うわっ!細っ!大きい!ノーブラ!?」

「え?普通ですよ…」

「普通…だと?シェルガイ怖いわ」

「確かにシェルガイは魔物が跋扈する危険な世界ですよ」


ズレた会話を聞きながら、雲平は頭を押さえて「あんこぉぉ…」と言っていると、戻ってきたあんこは「凄いよ雲平。細いしデカいの!」と言う。


【下町育ちだから】は偏見だが、あんこには著しくデリカシーが足りない。

頑張ってそれを無視した雲平は、「服はちょうど?」と確認をする。


「まあね。でも素肌ジャージだから、やっぱりすぐに保護してもらえるならいいけど、違うならTシャツとか下着とか買い物行かなきゃ」


すっかり機嫌が直ったかのこは、「賑やか」と喜んでお茶を用意して、セムラに出す。


「日本茶は飲めるかしら?」


この言葉に頷き、お茶を飲んで「美味しいです!」と喜ぶセムラに、どんどん機嫌が良くなるかのこ。


油断した雲平がスマホを出すと、あんこが「バカ!」と止める。


「お婆ちゃん、黒電話貸してね。スマホじゃ警察に通報できないや」


あんこがと声をかけると、かのこは喜ぶ。


「そうでしょう、そうでしょう!すまほ なんてダメよね。雲ちゃん、使えるわよね?」


雲平はあんこに感謝をして黒電話を使い通報をした。

この時はこれが間違いか正解かわからなかったが、雲平は最寄りの警察署ではなく110番に電話をしてしまっていた。


墓場にアナザーゲートが生まれた事。

そこに居たセムラと名乗る少女を保護した事。

本人はシェルガイへの帰還を願っている事。


そこら辺を伝えると「担当の部署に連絡を取って、この電話番号に折り返します」と言われる。


居間に戻った雲平は「警察から折り返しくるから待たせてねばあちゃん」と言うと、機嫌のいいかのこは「ゆっくりしなさい。雲ちゃん、お参りの写真は?」と聞いてくる。


ゲートのせいで撮ってないと説明すると、かのこは「すまほ ってダメね」と喜んでいた。

お茶菓子がわりに金平糖を出すと、セムラは目を丸くして美味しいと喜び、それがまたかのこの機嫌を良くしていた。


「なんかシェルガイの人って、地球のご飯とか美味しくないとか言ってたのに不思議〜」


あんこの言葉にセムラは「シェルガイも最近では美味しくないですよ」と困り顔で答える。



・・・



5分くらいだろうか、黒電話がけたたましい音を立てて鳴る。

セムラが驚くと、かのこは「大丈夫ですよ」と微笑んでいた。


雲平が電話に出ると、相手はゲート対策室とか言う連中で、状況を聞きながらシェルガイの人間に代わると言う。


出た男は事務的に確認をしてくる。


「シェルガイの人間を保護してくれたとの事、感謝します。その方の名は本当にセムラと?」


そう確認をしてくるので、雲平がそうだと答えるとセムラと話がしたいと言う。


セムラは快く電話に出ると数回の相槌。そして名前を聞かれたのか名乗っていた。


「はい。セムラ・アフォガートです。兄はクラフティです」


そう説明し、すぐに帰りたいと伝えた後で雲平に電話を戻す。


「助かりました。今から保護の者を向かわせます。それにしても地球の方なのにゴブリンを倒せるとはお強い。セムラ様をお助けくださって、ありがとうございました」


相手はそう言って電話を切った。

居間に戻りながら、セムラに電話の相手が誰かを聞くと、「あの方はバニエ卿でした。昔一度お話しした事がありました」と返される。

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