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シェルガイ-ジヤーの地から始まる戦い。

第11話 セムラ・ロップ・レーゼです。

雲平が目を覚ますと、石造りで真っ白な天井が見えた。

自分に何があったかを思い出すと、脇腹を思い切り切られた事を思い出し、同時にここは病院だろうと思った。


穏やかな日差し。

静かな空気。


病院に間違いないはずだが、ベッドは木製で、電動リクライニングも無ければナースコールもない。よく見ると壁も何か違う。


雲平は何となくだが嫌な予感がした時、「雲平さん!」と聞こえてきて、声の方を向くと部屋の入り口からセムラが駆け寄ってきた。


セムラは初めて会った日の、目のやり場に困る薄着姿。シェルガイの服装だった。


「セムラ…さん?」

「はい。お身体はどうですか?痛みは無いはずですが、何かおかしな点はありますか?」


雲平は言われて初めて、切られたはずの脇腹が痛くない事に気付き、服をまくると、脇腹に傷がない事に驚く。


傷がない、厳密には傷跡はある。

深々と切られたのにくっついている。


何ヶ月も経ったのか?

あれから何が起きてどうなった?


考えながら起き上がろうとすると、セムラの後ろから「姫、如何ですか?」と言って女が入ってくる。

これまた目のやり場に困る服装の青髪ロングヘアの女。


「セムラさん…、ここはシェルガイ?姫?何日…?」


雲平は気になった事を呟きながらセムラを見ると、セムラは優しく微笑んで、「大丈夫です。一つずつ説明しますね」と言い雲平を起こした。



・・・



セムラの話通りならば雲平の怪我は一晩で治った事になる。


「昨晩、私を御守りくださって、グラニューの剣で倒れられた雲平さんを救うために、私はゲートを拡大させました」


雲平は昨晩の拡大されたゲートを思い出しながら質問をする。


「拡大ですか?最初にやられていましたよね?」

「あれはレーゼの国のどこかに行ける範囲の拡大で、雲平さんを救う為に出口の制御をやめて、ゲートを拡大させました。実はやり方だけで、細かい制御は知らないのですが、やってみたんです」


知らないのにやったという部分も多少気になったが、何より気になったのは出口の制御の部分だった。


「それをしたと言うことは?」

「はい。ここはレーゼではなくジヤーの国です。未開の地や、危険な土地でなかった事は幸いでした。雲平さんをお連れしたのは、深い怪我を魔法で治す為でした。シェルガイの魔法はシェルガイでしか使えません」


セムラの説明に納得をした雲平は「ありがとうございました」と礼を言う。

セムラは慌てて「雲平さんこそ良くしてくれました!ゴブリンとグラニューの二度もです!」と言って微笑む。


雲平はセムラの笑顔を見て、無事にシェルガイに送り届けられて良かったと思いながらも別の問題が気になった。


「所でジヤーということは書簡は?」

「…それは」


ここで背後にいた薄着の青髪女性が忌々しそうに割り込んできた。


「お前を助けなければレーゼに降り立った姫様が、クラフティ様に書簡を渡して、シュートレン様のお考えを改めて下さったものを」


これだけで、書簡がまだセムラの手元にあってレーゼに届いていない事、戦争準備が止まっていない事を察した。

そしてそうなれば目の前の女性が、不満を抱いても仕方ないと思った時、セムラは声を荒げた。


「カヌレ!雲平さんは私を二度もお救いくださったお方。そのような物言いは到底許されません!」


この声を雲平は聞いたことがなくて驚いてしまう。


セムラが声を荒げると、カヌレと呼ばれた女は「申し訳ありません」と恭しく頭を下げて、雲平にも「大変失礼いたしました」と謝る。

日本にいた時と打って変わるセムラの態度に驚く雲平は、「セムラさん?姫様って?」と聞く。


キョトンとして顔で「言いませんでしたか?」と言ったセムラは、「私はレーゼの姫、セムラ・ロップ・レーゼです」と名乗った。


その後で「レーゼの外では、アフォガートを名乗るように言われています」と続けるが、雲平の問題はそこではない。

シェルガイのお姫様に、あんなオバちゃんトレーナーを着させて、下町のあばら家に10日も住まわせた事に青くなる。


「え!?聞いてないです!それなのにウチや婆ちゃんの家みたいなオンボロ…」

「人生の宝です。雲平さんと過ごした10日間。かのこさんの下さった魔獣服や神獣服、あんこさんと食べたご飯、全て私の宝です」


これにはカヌレも「洋服に魔獣を用いる発想には恐れ入った。姫様も喜んでおられる」と口を挟んでくる。

かのこが聞いたら大喜びだろう。


そして現状を聞くと事態は悪い方へと進んでいた。


そもそもはジヤー側の、ならず者達や魔物がレーゼ側に来るようになったとレーゼが主張して、ジヤーの統治を行うと言い出したレーゼ。

だがそれは誤解だという事で緊張が高まりはじめ、セムラが特使を申し出ていた。

そしてセムラとジヤーの王達が話し合い、草案をまとめた書簡を持ち帰る時に、セムラの乗った馬車はゴブリンに襲われて日本へとくる事になっていた。


セムラの事は行方不明だが死と捉えられていて、レーゼ側からはジヤーの陰謀だとして戦争を始める話になっていた。


「今は準備期間、国外退去までの時間です」

「カヌレさんはジヤーの人なんですか?」

「わたしは姫様の探索と、ジヤーに身を寄せたレーゼ人達の退去をすると、クラフティ殿下に談判してこの場にいます」


ジヤーの国にレーゼ人がいて、それの退去中だとわかったが、この場所が問題になる。


「それでここは?」

「ジヤーの城です。昨晩運良くゲートの出口が乱れてジヤー城の中庭になっていて、私と雲平さんは保護をされました。私は出現と同時に治癒魔法ヒールを使い、雲平さんの傷を治しました」

「傷の度合いからすれば危険だったが、姫様の行為も危険だった。暴走させたゲートの出口が安全かもわからないのに、すぐに治癒魔法を使われるなんて…」


雲平は聞いて危険具合を理解してセムラに頭を下げると、セムラは謙遜をした。



その後はこれから先の話になる。


「…ジヤー王とお会いしていただけませんか?」

「俺…がですか?」

「はい。雲平さんは頼りになる方です。どうしても私はレーゼを優先してしまい、ジヤー王はジヤーを優先してしまうのです」

「中立の立場でですね」


カヌレは面白くなさそうに雲平を見ていて、雲平は断りにくい空気に「わかりました」と答えた。

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