雲平が通された部屋には、老齢の男と1人の若者と1人の騎士が居た。
「我々も3人、そちらも3人です」
若い男がそう言うと、セムラは頭を下げて「感謝します。シェイク王子」と言い、カヌレが続けてお辞儀をする。
騎士が「お前も頭を下げろ」と言う目で雲平を睨んだが、雲平は世間知らずを装ってシレッとしていると、セムラが説明をする。
「雲平さん。こちらはジヤー王、ビスコッティ・ドレ・ジヤー様と、御子息のシェイク・レーヌ・ジヤー様、そして騎士団長のブラウニー様です」
この説明に雲平は初めて「あ、どうも安倍川雲平です」と挨拶をした。
ブラウニーに忌々しそうに「地球人が」と呟くが、シェイクは好意的に話しかけてくる。
「ご無事そうで良かったです。セムラ姫に聞いたところ、姫の命の恩人で二度もお助け頂いたとか」
「たまたま居合わせただけと、運が良かっただけです」
「運もまた実力のうちです」
そう言ったシェイクは席を指差して着席を促す。
どうするべきかの話し合いは難航した。
セムラの無事は今のところ限られた者しか知らずに居て、その理由はどうしてもセムラの死も含めてレーゼ側の自作自演、攻め込むための口実に思えていた。
「今はまだセムラ姫の喪があるので、喪が明けるまでは攻め込まないと言う事と、ジヤーに住むレーゼ人の国外退去の時間です」
「確かに、どうしても俺を切ったグラニューや、シェルガイに帰そうとしなかったバニエなんかを見ていると、セムラさんを使って戦争に踏み切ろうとしている風に見えますよね」
雲平はビスコッティの話を聞きながら、一つの事が気になり質問をする。
「あれ?一個気になりました。セムラさんはなんでジヤー側の人達を、頼らなかったんですか?…違うな、なんで日本にはジヤーの人が居ないんですか?」
雲平の疑問に、ビスコッティが答える。
「それは、ジヤーのゲートでは日本以外と繋がっている為に、日本にはレーゼ人の兵士しかおりません」
雲平は「…成る程、アメリカのゲート側がジヤーに」と言った所である事に気付く。
「……ん?あれ?もしかして俺はジヤーのゲートから地球に帰ると、アメリカなんですか?」
「…ええ、そうなります」
「ごめんなさい雲平さん」
このやり取りにカヌレは、「まあ素直に日本に帰りたくば、レーゼのゲートを通るといいな」と言い、ブラウニーは「逃げる算段か?地球人が」と悪態をつく。
「俺の事は後でいいです。ただ、出来たらアメリカでもいいから、俺の生存を家族に伝えてもらえますか?ウチには老齢の祖母しかいません」
これにはシェイクが「そうですね。それはすぐしますよ」と言った。
一瞬の間の後でビスコッティが、「安倍川くん、君はセムラ姫をどうするべきかな?」と言う。この言葉にカヌレが緊張を放つ。
「どう?とは人質にするかレーゼに返すかとかですか?」
「そうだね」
「それは戦争回避が目的ですか?」
「そうだね」
あまりにもハッキリと言う態度である程度の心具合ができている事は雲平にもわかる。
「まず前提を自作自演だとして、無事を公表しても偽物を疑うか、それこそ人質を取ったと言われて、救出の名目で攻め込まれますよ。そもそもゴブリンの襲撃も聞けば怪しいです」
「君もそう思うのだね」
「後は戦争になってしまった時が気になってます。レーゼの方が強いのですか?」
これにブラウニーが声を荒げる。
「何を言うか!我がジヤーの騎士団は皆一騎当千の猛者揃い!負ける道理はない!」
雲平は臆することなく「勝ち負けではないです。強い弱いで聞いています」ともう一度言うと、これにはカヌレが「ほぼ拮抗しているでしょう」と言い、セムラとシェイクが頷く。
「ならなんで戦争を仕掛けるんだろう?勝てる何かがあるのかな?」
「それも気になっていました」
雲平は喪が明けたらの部分を聞いてみると、セムラの国葬という事で、葬儀の最終日にレーゼの宝剣サモナブレイトが墓所から取り出されて、その剣を掲げてセムラの魂を弔うと葬儀が終わると言う。
「では、今は国葬中なんですね?セムラさん、国葬中にレーゼに戻れれば戦争回避は可能ですか?」
「はい。恐らく父達はサモナブレイドを掲げた時に進軍の指示を出します」
「後何日ですか?」
「10日です」
「レーゼまでは?」
「馬車で9日です」
このやり取りにシェイクが、「雲平、君もレーゼに向かうべきだと?」と聞き、ビスコッティも「危険では?」と続ける。
雲平は「危険ですよ。馬車で9日なのも良くないですね」と言って、顎に手を当てて思案する。
「雲平さん?」
「俺の考えは…」
雲平は、レーゼが戦争をしたがっていると仮定し、堂々とセムラが生きて戻っても、国民に見られる前に身柄を抑えられる可能性がある事を考えて、隠密行動に近い形で葬儀会場に行く事でセムラの無事をアピールし、その場で和平書簡を取り出してクラフティと共にシュートレンを止める事を提案した。
雲平の提案に聞き捨てならないとカヌレが声を荒げる。
「レーゼが戦争をしたがるだと!」
たが、雲平は「いいですか?」と言ってカヌレを諭す。
「いいですか?バニエとか言う騎士は、セムラさんを足止めして、指示をもらったグラニューは剣まで抜いて切り掛かってきた。それって和平書簡を持ったセムラさんに戻ってきて欲しくない可能性もありますよね?」
「雲平、それでは君は隠密行動で、セムラ姫に戻らせようと言うのだね?」
「ええ、国境までできたら馬車で、そこから先は帰国する人々と共にレーゼに徒歩で向かいます。問題は時間ですよ。馬車で9日って…徒歩だと間に合わなくなる」
シェイクがレーゼの方角を見ながら「馬車は昼夜問わず走らせよう。今すぐ早馬を使った伝令で、途中の街で馬車を変えられるように手配する。それなら国境まで4日で着く」と説明をする。
説明に頷いた雲平はセムラを見て「セムラさん、ちょっと辛いと思うけど頑張れるかな?」と聞き、セムラは強く頷いて「はい。私はシェルガイの為にも頑張ります」と言った。
「じゃあ隠密行動は、セムラさんと俺とカヌレさんでいいですかね?ジヤーの人って誰か同行します?」
雲平の提案にブラウニーとカヌレが手を挙げた。