「え、レン! どうする? 作戦は?」
サキはゲームが始まって焦っていた。こういうゲームは初めてだから無理もない。
「まず地図を見よう。
ピッ! という音がして地図が目の前の空間へ現れた。地図には赤い点と黄色い点が映し出されていた。
これは赤チームと黄チームの居場所だ。……ということは、俺達の居場所も知られているということか。
「地図、見たけど。参加人数が多いね」
サキが不安そうに俺へ話しかけてきた。
確かに参加人数が多い。知らされてなかったけれど、地図上で赤と黄チーム合わせて最低でも50以上の点がみえる。
50人以上の参加者がいるようだ。
「だな。まずは高い所へ登ってみようか?」
「うん!」
俺とサキは見下ろせるような高い建物へ向かった。
「これがVRMMO(仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム)なのね。不思議……」
サキは自分の手足を眺めた。ネコの獣人なので、しっぽや頭についている耳を触っていた。
「ちゃんと触っている感触がある」
サキのネコのしっぽや耳を触ってみたいと思った。でも遠慮した。サキにだって好きな人がいるだろう。
幼馴染とはいえ、気軽に触れない。もうそろそろ美咲にだって彼氏ができる。できたら幼馴染は卒業だ。
そんなことを考えながら、【大江戸】の町を歩いていた。
【大江戸】の町は平屋が多いが、所々に高い建物がある。
やがてここは新しい街として、観光地や商業施設、高級住宅が作られるだろう。
「この建物の中へ、入ってみようか?」
上から街を見下ろせそうな建物があったので入ってみる。
「展望台かなぁ?」
サキと中へ入ってみると、ゲームとは思えないほど細かく作り込んであった。
木製の階段を登っていく。
「手すりを掴む感覚がリアル……」
ゲームだけど、手触りまで再現されている。すごい。
「今回は無敵バージョンだから、階段から転げ落ちても痛みはないはずだよね?」
サキは俺の前にいて階段を登っていた。振り向いてそんなことを話しかけてきた。
「そうだけど、わざとそんなことするなよ」
「あはは! さすがにしないよ――!」
ホントだろうか? 俺は、いつ階段から落ちても受けとめられるように、後ろで身構えていた。
「は? なに? その手つき……」
左右の親指を合わせてボールを持つような形を作って、いつでも受け止めるようにしていた。
「え? あっ!? 誤解だ!」
なんか誤解されそうな手の形だった。サッと腕を下ろした。
「まあいいけど……」
サキは急いで階段を上がっていった。
ビルの階段を登っていくような感じで最上階まで登った。
眼下に広がるのは、江戸の町を参考にした
「うわあ……! ひろ――い」
サキは床より一段高い見晴台の上へ乗って、遠くまで広がる街並みを見て感激していた。
青い空までも作られていて、本当にゲームの世界なのか疑うくらいだった。
ゲームの中なのに風を感じた。
「あっ、サキ。黄チームの人が近づいてくる」
「えっ」
見晴らしがいい最上階にきてのんびりしていたけれど、もうゲームは始まっている。
画面に警告音が鳴っていた。
「えっ、えっ。どうしよう……!」
サキは初めてなので、
「大丈夫。俺が撃つ」
このような時のために、武器を弓にした。
武器は使うときに自動でセットされる。便利だ。ちなみに弓矢は無限に撃てる。制限はないらしい。
「当てられる?」
サキが心配そうに見ている。でも俺は、ゲームは得意だ。
「任せて」
弓を構えて、黄チームの相手を狙う。どうやら1人で参加した人のようだ。
悪いがこちらも手加減するほど余裕はない。
「よし……」
相手はどこに敵がいるのか見つけられずに、周りにいる敵を探していた。
「残念。上だ」
最上階から、下を歩いている黄チームの人のブローチを狙った。
ピシュッ――――!
「うわっ!」
パリン――ッ! みごと胸のブローチに弓矢を当てられた。良かった。腕は落ちてない。
『黄チーム・カイさん、脱落!』
すぐにアナウンスされた。
「えっ! レン、すごい!」
サキはピョンピョン飛び跳ねていた。サキに褒められるのは嬉しい。約5階建ての高さくらいから当てられたのは良かった。
「サキ、すぐ移動するぞ」
俺はサキの腕を掴んで、急いで階段を降りようとした。
「えっ、なんで?」
サキは抵抗するわけでもなく、俺の後について来てくれていた。
「落ちないように、気をつけて降りるぞ」
ダダダダダダ……と階段を降りていった。
「1人、敵を倒した。俺達の居場所はバレている。こんな逃げるところのない場所から移動しないと、挟み撃ちになる」
「なるほど……」
サキは感心したように言った。俺はここを出て、次に行く場所を目の前に見えている立体地図で探していた。
敵が近づいてきている。
「サキ、戦えるか? もうすぐ敵と会う」
逃げる前にエンカウントしそうだ。
「う、うん! 大丈夫!」
階段を降りながらサキに伝えた。
「いたぞ! 2対2だ!」
出入り口で敵にエンカウントしてしまった。黄チームの相手は、ペア。俺達と同じなので2対2の対戦になる。
同じくらいの歳の男子が二人。剣を持っていた。
種族はオーガ。強そうだった。
「サキ!」
「1人、お願い!」
2対2の対戦が始まった。