side暁
次の日、レストランに入ると、美香は既に来ていた。
「よぉ、久しぶりだな。」
俺は言う。
「本当ね。」
美香はトゲトゲしさが減り、少し大人びたように見えた。
「当ててあげましょうか?
京悟から頼まれたんでしょう?」
美香はニヤリと笑って言った。
「なんだ、お見通しかよ。」
「それぐらいはね。
私、譲らないわよ。
彼を婿養子にするつもりも無いし。
警察官だった彼を、好きになったのよ。
初めて本気で好きだって、思ったわ。」
「…そうか。」
「あら?
説得しなくて良いの?」
「人の恋路を邪魔するのは、好きじゃない。
それに、俺が言った所で決心は変わらなそうだ。」
「私…
京悟には悪いけど…
足洗うわ。
彼と歩んで行きたいの。
この先の人生を。」
美香はそう言った。
その瞳の奥には、ものすごい決意が見てとれた。
俺と…
同じだ…
そう思った。
「それが良い。
ヤクザなんかしてたって、ろくな事無い。
まっとうに暮らせよ。」
俺は言った。
「ふふふ。
私達意見が合ったのは初めてかも…ね。」
美香が笑った。
元々美人だったが、その笑顔はいつもに増して美しかった。
「そうだな。」
俺も同意する。
「夜宵の事本気なのね、暁。」
美香は言った。
「あぁ、本気だよ。」
「そっか…」
「だけど、ヤクザの女になんか、したくないんだ。
だから、本気だと言えない。」
「そんなの関係無いわよ。
言ってあげて、本気で好きだ、って。
夜宵はその言葉をきっと待ってる筈だから。」
「そうだな…」
俺はそれだけ言ってアイスコーヒーを飲んだ。
「まったく、どっちも意地っ張りねぇ。
じゃ、私行くわ。
今までありがとう、暁!」
そして、美香は去って行った。