──チュンッ、チューン
何故か私は映画館で近未来的な銃を使って銃撃戦を行っている。
弾丸が飛び出すタイプではなく、光線が出てくるタイプの光線銃だ。
映画館後方1列目と2列目に身をかがめながら逆光で姿は見えないが、入口付近に立っている敵に向かって一生懸命に銃を撃っている。
──チューンッ。
今のは危なかった。首を竦めなければ当たっていただろう。敵からの攻撃がくる度に慌てて頭を引っ込め、身を低くする。
私の隣には同じく光線銃を構えている同じクラスの亮君。
お互い、激しい銃撃戦でかなり参っている。
疲れてきているのか若干息が上がってきている亮君は息を切らしながら
「ハァ、ハァ……。コレが……、終わったら……、一緒に遊園地に行こうな……」
何故だかこの時私は『亮君ってこんなにカッコよかったんだ!』と思った……瞬間に目が覚めた。
そうコレは私が見た夢。平凡な中学生の私は銃撃戦なんてしないのだ。それにしても心臓がバクバクうるさい。なんちゅー夢だよ。
「おはよー。……おはよう。……おはよー」
朝の校門はみんな元気に挨拶している。
私はというと……
「ふわぁぁぁ……」
今朝のなんだかよく分からない夢のせいで朝から疲れている。そりゃあそうだ。夢の中とはいえ命懸けの激しい銃撃戦を繰り広げていたんだから、疲れもするだろう。
目が覚める瞬間まで見ていた夢を思い出し
「いや、あんな光線銃撃っときながら遊園地って」
思わず独り言のようなツッコミが口から出てしまう。
『それになんで亮君?』
こちらは口に出す事なく心の中で考える。
『今まで亮君の事なんてなんとも思ってなかったのに。……なんで出てきた?……っていうか亮君がめっちゃカッコよく見えたんだけど、あれが吊り橋効果ってやつ?』
そんな事を考えながら歩いていたら、下駄箱に到着。
上履きを出す為に2-Bの自分の下駄箱に近づいて行くと亮君がいた。
『マジか。なんてタイムリーな……』
勝手に気まずくなっていながらも、一応不自然にならないよう
「おはよー」
私は亮君に声をかける。
「ん?あぁ、おはよう」
亮君は別段驚いた風もなく、素っ気ないが普通に挨拶してくれた。
亮君は……なんというか、いつも素っ気ない。
男子同士でふざけて遊んでる時はよく笑うし、なんかキャッキャッやってるけど、イマイチよく分からん。何故なら昨日までは只のクラスメイト。たくさんいる男子のうちの一人。そんな風にしか見ていなかったから。
そう。昨日までは……
『おいっ!どうした私!』
給食の時間。無意識に今日の午前中を振り返ってみると、半日ずっと目で亮君を負っていた。
有難いことに(?)亮君の席は私の右斜め前。
真面目に授業を聞いて、黒板の字を見ようとすれば自然と視界に亮君が入ってくる。
1時間目。数学。
今朝の夢を思い出しつつも視界に入った亮君の顔をみて『へぇー、意外とまつ毛長いんだぁ』なんて思ってしまった。
2時間目。英語。
2人1組で会話の練習をする為、私は前の席の女子とたどだしく会話の練習をする。
亮君は私の右隣の男子と会話練習する為、身体を左側から捻り上半身は後ろ、足は左横。そんな変な姿勢で英語を話すのが恥ずかしいのかボソボソと喋っている。
変な姿勢のせいで学ランは少しシワが寄って鎖骨が見えている。『あっ……、亮君の鎖骨綺麗。深すぎず浅すぎず……。男子の鎖骨なんて、こんなによく見たことなかったよ』っておい!何考えてんだかっ!そりゃ英語の会話もたどたどしくなるわっ!
なんだか無駄に自分にツッコミを入れてしまう。
3時間目。体育、バスケ。
走る亮君を目で追ってしまっている。
これは……、まさか……。
4時間目。現代文。
先生にあてられ立ち上がった亮君は少し猫背になりながら教科書を読む。『亮君の声ってちょっと低くて、掠れてるんだ』
そして給食。6人ずつ机をつけて給食を食べる為、向かい側左側には勿論、亮君。
『おいっ!どうした私!』心の中で自分自身にツッコミを入れてみても、最早手遅れ。
どうやら私は亮君の事が好きになってしまったらしい。
思わず「はぁ~っ」と深いため息が出た。
「何?嫌いな食べ物でもあんの?」
とちょっと意地悪そうに聞いてくる亮君。
『クッ、意地悪なのにキュンとしちゃうじゃないか』
どうやらこれは完全に好きになってしまった様だ。
とりあえず私は
「うん。でも今、どうにか飲み込んだとこだよ」
と答えた。
正直、自分の気持ちに気づいた所でどうしようもない。
付き合うとか、彼氏・彼女とか……。
まだ中二なんだし、片思いでいいじゃんって思ってた。
5時間目。理科。
理科室へ移動したところで理科室の大きな黒板にはこれまた大きな字で本日自習と書かれていた。
給食の後で、ちょっと眠いし友達ともお喋りできるしラッキーって思ってた。席に着くまでは……
理科室は実験をする為、大きな机1つに5~6個の椅子が用意されていて、そのメンバーで1つのグループだ。
普段の理科の授業はそのグループで実験を行うが、今日は自習の為、和気あいあいとお喋りしたり居眠りしたり……。本当に昨日までなんとも思ってなかったので忘れていたというか、考えていなかったというか……。
理科のグループは亮君と一緒。しかも隣の席だ。
もう私の心臓は異常な程にバクバクしていて、いっそ取り出して解剖でもなんでも実験してみればいいとさえ思った。
最初の数分、真面目な私は理科の教科書を読みそれなりに自習をしていた。
亮君は私とは反対側の隣の男子と何やらヒソヒソと話していた。
暫くして、何の話からそうなったのか知らんが私も男子二人と話を始めた。
話題は何故か恋バナ。亮君が
「あー、モテてぇなぁ……」
と言った為、からかうように
「モテてるんじゃないの?」
と言ってみた。
「いや全然。告白とかされた事ないし」
と言う亮君に
「へぇー、意外」
と思わず言ってしまった。慌てた私は
「結構、亮君の事好きって言ってる子いたと思うけど?」
と何処かの誰かをでっち上げる。すると亮君は
「えっ?マジで!」
と嬉しそうだ。
「例えば誰が言ってた?」
と聞いてきた時に、やめておけばよいものを
「確かA組の〇〇とか……」
これは以前噂で聞いた程度なので今もそうかは知らない。
「マジで?他には?」
と嬉しそうに聞く亮君。(おいおい、欲しがるなぁ)
「う~ん……。私はあんまり関わりがないからよく知らないんだけど、C組のバスケ部の人?名前はよく分かんない」
(ごめんC組の誰かっ!きっとピンポイントで条件当たる人はいないだろう。嬉しそうに聞いてくる亮君を見たら他は知らない……とは言えなかった)
「マジかぁ。誰だろ?……他には?」
「えっ?他っ?」
私は固まってしまう。
きっと朝から変な夢を見て、1日亮君を目で追って……。
私は舞い上がってしまっていたのだろう。
「他ねぇ……。あぁっ!」
如何にも思い出したという様に言ってから
「ちょっと耳貸して」
と私が言うと亮君は私の方に少しだけ顔を傾けた。
目の前に近づいてきた亮君の耳に私は小声で
「B組の姫川 琴乃」
と自分のフルネームを言った。すると亮君は驚いた様に一瞬目を見開き
「フフッ。マジかっ!」
と嬉しそうに笑ってくれた。
恥ずかしさのあまり私は黙って頷いた。
もう1人の男子を気にしてだろう、顔をこちらに向け私にだけ見える口パクで亮君は
「あ・り・が・と・う」と言った。
コレは変なSFチックな夢から始まった私の一世一代の告白の話。
きっと亮君の魅力に気づかせようとした宇宙人だかエスパーだかがテレパシーを送った結果、食い違って銃撃戦になってしまったのではないだろうか。
敵との戦いは決着が付かなかったが、私は亮君の魅力を刻まれた結果、自分から亮君に迫って告白してやった。
恋愛においては私の勝ちだろう✌️