「今日はわざわざ時間作ってもらっちゃって、ごめんね……。一人で勉強してもいいんだけど、クイズって読み手がいてくれると本番っぽくて、緊張感が出るからいいんだよね」
「私で役に立てるなら、読むくらい全然いいよ」
「ありがとう。助かるよ」
クイズ番組の一般出場者の1枠を僕は勝ち取った。
子供の頃からクイズ番組を見るのが大好きだった。
頭が良いと言われている芸能人よりもテレビの前に座っている自分が早く答えられた時の、あのなんとも言えない優越感は何度味わっても気持ちがいい。
逆に答えられない問題が出た時は悔しさのあまり、『こんな番組二度と見るもんかっ!!』と頭にくるものの、少し気持ちが落ち着くと『次に同じ問題が出た時に絶対に答えてやる!!』と自作の対策ノートにしっかりと書き込んでいた。
そんな僕が子供の頃からずーっと見ていたあの番組に一般出場者として参加できる。
今度はテレビの前じゃなくて、テレビの中のあの席で答えられるんだ!!
最終的な追い込みのため、今日は本番に近い形で勉強してみたくて、クイズの読み手として彼女に家に来てもらった。
そして冒頭。彼女は快く読み手を引き受けてくれた。
そう、今日はクイズ番組の為の勉強会。
クイズの勉強方法はいくらでもあるけど、これぐらいしか口実が思いつかなかったんだ……。
大学生の僕が高校生の彼女と家で過ごす為の口実が。
「あっ、そうだコレ……」
そう言って彼女は僕にケーキをくれた。
「ん?何?……ケーキ?」
「ほらっ、勉強って頭使うでしょ?だから甘いもの、いるかなって……」
僕の勉強の為に気を使ってケーキを用意してくれたらしい。
「手作りだから、味の保証はできないんだけど……」
『手作り?マジ?めっちゃ嬉しい……』
心の中で僕はガッツポーズをして、小躍りしている。
「ケーキは少し勉強してから、食べてね」
「そうだね。頭使って、糖分が必要になってから食べた方が良いね」
そう言ってケーキを仕舞いかけたが
「でも、先に糖分摂取しておいて、頭の回転良くしておくのもありかな……?」
と冷静に分析している(様に見える)僕。
もっともらしい事を言っているけど、ただ単に可愛い彼女の手作りケーキが食べたいだけだ。
「そっか、その発想はなかったな。先に食べるか後で食べるかどっちでも良いよ?」
軽く首を傾げながら僕を見る彼女の可愛さは、もうグングン上がっている。
頭の中では
『彼女の手作りケーキ!!今までデートは外でばっかりだったから、手作りってだけでもう何倍も付加価値があるんだけど?先に食べても後に食べても、最早、ちゃんとした感想が言えるかも怪しい。そして小首を傾げるとか反則じゃん!』
と思いきり舞い上がっていて、クールな僕を演じているのも大変だ。
それでも(必死に演じている)クールな僕は
「う~ん……。どうしようかなぁ……」
「フフっ。なんかもう悩んで頭使い始めちゃってるんじゃない?笑」
「ハハッ。本当だ。もう頭使っちゃってるね。じゃあ、今半分食べて、残りの半分は後で休憩の時にでも食べようかな」
「それがいいかもね。じゃあ、食べてる間に私はクイズを読む練習してようかな」
「ありがとう」
高校生から見たら大学生は大人に見える(はず)。
いつでも余裕な態度でクールな大学生でいたいけど、それもなかなか大変だ。これならピカソの本名を答える方が、よっぽど楽だ。
「……ねぇ、ねぇ。この字ってなんて読むの?」
「この字?これは……」
「なるほどぉ。じゃあ、この字は?」
「これ?これは……って、これじゃあどっちの勉強かわからないね。笑」
ローテブルに並んで座り、一生懸命にクイズを読む練習をしている彼女と手作りケーキを食べている僕。
時折問題用紙を覗き込む時だけ、2人の頭はグッと近づく。
『なんかこの感じ、いい雰囲気かも……』
「ケーキ、食べ終わった?もう問題だしていい?」
「あっ、ごめん。ごちそうさま。美味しかったよ。じゃあ問題、お願いします」
「はい。じゃあ、問題ですっ!」
フフッ。張り切っちゃって可愛い。
とりあえず、今は口実とはいえクイズを出してもらおうかな……。
「……ふぅ。だいぶ練習できたかな?練習、付き合ってくれて、ありがとう。……って、もうこんな時間じゃんっ!……もう帰らないとかな?」
「まだ大丈夫っ!もうちょっとだけ……。今日はとことん練習に付き合うつもりでいたんだよ。親には友達の家で勉強会するから遅くなるって伝えてあるし」
【友達の家で(クイズの)勉強会】……まぁ、嘘ではないか。向こうの親には付き合ってる事内緒って言ってたから、【友達】って言うのも仕方ない。
でも、まだ大丈夫って……、もう12時になるのに……。
「じゃあ、お言葉に甘えてもう少しだけ……。さっきの問題に【ガラスの靴】って答えがあったでしょ?あのガラスの靴が出てくるシンデレラなんだけど……。って、クイズの話はもういいかな」
「えっ!?」
「せっかくウチまで来てくれてるんだし、普段はあんまりおしゃべりできないから、おしゃべりしたいんだけど……」
「で、でもクイズの練習しなきゃ……」
「フッ、余裕!今日、これだけ練習に付き合ってもらって、手作りのケーキまで用意してもらったんだもん。楽勝。俺がクイズ王になるよ」
クイズ王には絶対なるよ。
だからせっかくの君との時間。ここからは他愛ないお喋りでくつろぎたいな。