53歳おっさんテケナー
現実世界現代ドラマ
2025年11月02日
公開日
13.8万字
連載中
コミュニケーション許可局
「その情報を共有する許可は、本人から得ていますか」
佐伯ミナ、22歳。
東都総合ホールディングスに入社したばかりの新人社員。
彼女が大切にしているのは、自分と他人のあいだにある「境界線」だった。
飲み会は、本当に自由参加なのか。
親しみを込めた呼び方なら、本人の許可はいらないのか。
好意を伝えれば、相手は何かを返さなければならないのか。
善意なら、相手の領域へ踏み込んでもいいのか。
「普通はそうする」
「みんなそう思っている」
「それくらい我慢するものだ」
職場では、そんな言葉が当たり前のように使われている。
ミナは、それを一つずつ確認する。
怒らない。
責めない。
相手を変えようともしない。
ただ、
「それは誰が決めたのか」
「本人は断れるのか」
「どこまでが会社の責任なのか」
を確かめる。
彼女は、人が嫌いなわけではない。
誰とも関わりたくないわけでもない。
ただ、分かり合うことを強制しない。
自分の気持ちも、相手の気持ちも、勝手に決めない。
やがて、その小さな確認は、一つの部署を越える。
子会社。
コンプライアンス相談室。
本社監査。
AI導入による業務再編。
そして、数万人が働く巨大企業そのものへ。
相手が新人でも。
管理職でも。
功労者でも。
役員でも。
佐伯ミナが見るものは変わらない。
事実。
本人の意思。
そして、その人に引かれた線が、本当に公平なものなのか。
これは、誰かを言い負かす物語ではない。
誰かを救うための物語でもない。
分かり合えなくても。
好きになれなくても。
同じ場所で働くことはできる。
必要なのは、相手を理解することではなく、
相手の境界を越えないことなのかもしれない。
「分かり合うことより、分からないまま境界を尊重すること。」
佐伯ミナは変わらない。
けれど。
彼女と関わった人間は、昨日と同じようには振る舞えなくなる。
現代の職場、人間関係、コンプライアンス、AI時代の雇用を描くオフィス心理ドラマ。
『コミュニケーション許可局』。
【連載再開のお知らせ】
2026年5月より更新を休止しておりましたが、作品全体の構成と過去エピソードを見直し、8/12より連載を再開しました。