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喉を潰された元・第一歌姫ですが、落ちこぼれたちをプロデュースして帝国をひっくり返します
喉を潰された元・第一歌姫ですが、落ちこぼれたちをプロデュースして帝国をひっくり返します
古閑史樹
異世界恋愛悪役令嬢
2026年10月23日
公開日
2,850字
連載中
妹が差し出した祝杯で、帝国一の歌声は焼かれた。 帝国の第一歌姫エレノア・ヴァルフレードは、婚約披露の夜会で毒を盛られ、声を失う。杯を手渡したのは妹のローザ。床に崩れた彼女を、婚約者の皇太子ルシアンは凪いだ湖のような目で見下ろしていた。審問はわずか三日で終わり、婚約は破棄。「療養」の名で送られた先は、島の者が「行き止まり」と呼ぶ北の果ての修道院だった。 残ったのは、自作の小箱が喉のわずかな動きを拾って出す、平らな機械の声だけ。人々はそれを「悪魔の声」と呼んだ。 吹雪の夜、エレノアは三人の娘の歌を聴く。窓を割る大声の赤毛ベアトリクス、呪いの詠唱と恐れられた低い声の眼鏡娘クリス、拍を外してばかりの没落令嬢チェルシー。厳格な教官に「不協和音のゴミ箱」と切り捨てられた三人の声に、エレノアだけが原石の輝きを聴き取った。 ――歌えないのなら、舞台そのものを創ればいい。 壊れたオルガンの管をタクトに、声なき指揮者は三人の欠点を武器に変えていく。蒼い結晶の筒が三人の声を金と瑠璃と銀の光に変え、聴く者の胸に下げた小さな石が、その歌に応えて灯る。雪の広場から港町の魚市場へ、白亜の音楽堂へ、そして二万人が集う帝都の聖火祭へ。落ちこぼれの楽団「ルミナス」の歌は、帝国じゅうの窓辺に灯りをともしていく。一方、姉の座を奪った妹は、帝都の大広間で歌えなくなっていた。 その道行きには、ひとりの男がついてくる。帝国の影を束ねる暗部の長、オルデン伯爵クラウス。「感情のない氷」と呼ばれるこの男は、かつて大聖堂でエレノアの歌を聴き、ただひとり拍手をしなかった。出資者を名乗り、投資だ損失だと冷たい理屈を並べながら、なぜか肝心なときには、いつもそこにいる。秘書に「お顔が」と言われるたび「黙れ」と返す氷の仮面も、少しずつ溶けはじめていた。 けれど、光は敵も呼ぶ。毒の真相を闇に隠した者。熱狂を憎む大司教。帝国の裏で糸を引く公爵。やがてルミナスは「偶像崇拝」の罪で、異端審問にかけられる。被告の席に立つエレノアの胸には、悪魔の声と蔑まれた小箱がひとつ。 『――申し開きは、言葉ではいたしません』 腹の弱い会計係、鳴かない猫、船に弱い秘書まで巻きこんで、声なき元・歌姫が落ちこぼれたちと帝国をひっくり返す。どん底からの逆転と、じれったい恋の物語。

第一話 声の死んだ礼拝堂

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