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第3話

その前原悟がいる、人間しかいない城下町グライムスよりはるか遠くの西方、つまり魔王軍領における最重要都市、魔王城周辺では掲示板で表せない程酷い状況であった。魔王の戦意喪失、魔王城護衛における武器の充足、兵站問題、魔族間の格差、何より酷かったのは・・・・

「我々魔族は魔王に虐げられる存在であったか!?否!違う!!我々魔族は人間に搾取される運命なのか!?否!それも違う!かつての魔都フィリップは魔族達の集う小さな町であった!しかし人間どもがそこで魔族にあった物を奪い!私腹を肥やし!そして次第には我々の街だ、魔族は出ていけと占領している!!魔王はそれをいとも簡単に容認し、我々を見殺しにしようとしている!!神の庭園という異端を根絶やしにしろ!人間どもを根絶やしにしろっ!!魔王を我々の力で引き下ろし、新たな国を我々の手で!」

そう叫んだ後、目の前に立っている男は自分の両手を拳合わせにして、そう叫んだ。

「「新たな国を我々の手で!!」

その魔王軍領におけるクーデターの火がじわじわと、ゆっくりと15歳の魔王に近づいていたのだった。目の前には黒いローブを被っていたオーク、その隣にはこれまた黒いローブを被っているものの、少し古びた鱗を隠しきれていないドラゴン、いやリザードマンに近い半竜人のような者が手を後ろにして、恐ろしいほどの冷淡な目でそのクーデターの火種と言う名の有志達を見ている。どこかそのペンダントを、耳を傾ける大衆に向けながら。

「どうやら上手くいっているようでございます。どうしますか?魔王の元へと突撃させますか?」

そのペンダントにはどうやらその目の前の様子を投影するような水晶型の魔法道具があり、そのドラゴンが持っている先からは見えなかったものの、その水晶の先からはくっきりと見える、片方だけがライン通話で顔を出しているような状態であった。その匿名カオナシメアリクチアリの水晶からは、少し声が聞こえてくる。

『そのまま魔王に対して怒りを向けている状態を維持せよ。魔王は星がやる』

と、男の声がガサガサとした中から聞こえてきた。

~~~~~

あれ・・・?どこだ・・・?

行き交う群衆の往来を見るものの、どこにも彼女、凌雨華は見当たらない。周りで歩いている人々よりもスタイルが引き立つ奇抜な服装であるのに、槍を持った二人とも無い華麗な黒髪ストレートヘアを持つ彼女であるのにどこにも見つからない。さっき見たのにどこにも見つからない。まるでクエスト表示板、いわば円型か四角形のマップの下に箇条書きでクエストが表示されているような感じで“凌雨華を探せ”とオープンワールド系某ソーシャルゲームで指南が書かれているような雰囲気がそこにあった。行き交う人々の中を探すものの、そう簡単に彼女は見つからない。そう長く歩いているとこの人類王国の総本山である“城”へと近付いていた。そんな城の町のような物は他作品でも同じように模倣される『テンプレ城塞都市』であり、勿論このゲームにもそれを適用したことは覚えている。というか本来王に命令された勇者が道すがら強くなって魔王を倒す。というテンプレストーリーだったのだが、僕がその場にいる事でもはやなんか変な遊び方をしている気分だった。何か・・・裏ルートを通ってるみたいな・・・そんな背徳感がこの“ゲーム”から伝わってきていた。

「おい、そこのお前!城の前で何してる!」

するとまた衛兵、今度は槍を持っているけれども凌雨華のような美麗なる女性ではなくむさ苦しい青年だった。その男は目の前に槍を横方向に持って、その道を塞いでいる。そんな彼の視線はおかしい程に死んでおり、もはや先ほどの二人と抱き合わせて全員の兵士が職業病のようになっているのだろう。そんなレベルで怖かった。とりあえずその怖い目線が嫌で、まるで外国人に「は?」と言う感じに見られているような物で、そんな威圧が少し感じた僕は、どこかに話題を反らそうとして、周りを見渡す。すると、ハーシェルの村にも、この王都・・・グライムス?にも共通してあったとある建物が目に入った。そう、冒険者兼勇者会だ。

前原「えっと~・・・「何だ!?」その~・・・「何だ!?」・・・その~「早く言えっ!!」

冒険者・勇者会って、どこにあります?」

そんな風に聞いてみると、目の前の死んだ目をした騎士の男は僕の肩の上の何もない空を指差す。そう、僕の左にあるあの勇者や冒険者たちの集う、ある意味ギルドに近しい冒険者・勇者会の看板がその右手の人差し指が差している。

僕はすぐさまそこから逃げるようにそのギルド?への扉を叩いた。第一に目的としている彼女、凌雨華を探す事を後にして。

~グライムス冒険者・勇者会~

逃げるようにして入ったそこで最初に目に入ったことは、あのハーシェルの村とは違って人があまりいないという事であった。地面の石畳がハーシェルとは違って目下に広がっており、空いた多くの立ち飲み用の丸い高い物、がら空きの椅子が寄せてある丸型のテーブル、しまいには酒の置いてあるデスクには髪がふさふさ生えたマスターと、そしてその隣にはあのナディ・・・さんが居そうな場所、つまるところ冒険者登録を行うためのカウンターが大きく設けられていた。しかしそこで何をしようか分からなかった。

「どうかしましたか~?冒険者さん?」

とりあえずそんな感じでその場でもじもじしていると、横の死角からいきなりメイド服のような服、しかしそのスカート丈は短い、まるでコンカフェのメイド服を着たような女性が出てくる。こいつ・・・いきなり死角から・・・!とまるでバトル漫画のように、なにかと強敵を匂わせるような発言をするものの、その死角から出てきた人はどこかまるで彼氏持ちの童貞キラーのようで、そして金髪であった。

まるでDTにとっては最早この娘が僕に気があるんじゃないかなデュフフフフwww・・・と考えるが、今の俺こと前原悟は黒髪ぐらいにしか萌えない。もうなんか黒髪ストレートの凌雨華を見過ぎて性癖を改造されかけたのだ。それだからこそ今は彼女にピクリとも反応しない。そのおかげで自分は冷静となっていた。そんなここに入った目的は何とも言えない理由だが、ここが冒険者会だと思い出して僕はポケットをまさぐるものの、何も無かった。そう、あの冒険者会の元で発行しているあのステータスが分かる札が必要だったのだ。

前原「あの~冒険者会とかで発行している「冒険札ですね!かしこまりました!」」

すると、そのDTキラーはすぐさま瞬間移動のようにあのバーカウンターの隣にある冒険者登録などを行っていそうなデスクに戻り、せっせと準備を進める。そんな彼女の様子を遠目で見ていると、なんかあの時、最初に作った場所、ハーシェルの村の水晶とは違う、もはや文明の利器異世界代表、機械を目の前に用意していた。わっせわっせと運ぶ彼女はどこかナディとは違うこれまた健気さがそこにあった。

「あ、そこに手をかざしてくださ~い。はいありがとうございます~!」

そんな彼女はあのナディとは完全に反対の態度に位置する様な存在で、そんな彼女の目の前で箱のような機械に、セットされた札の目の前で手を伸ばしたその瞬間、

バァン!

前原「え?」

ズバリ高専で培った知識を用いて話そう、目の前の魔力探知をする機械がショートして爆発した。いきなり目の前の機械からは火が出て来て、しかもそのセットした札ごと炎に包まれてしまったのだった。どうしたことか、結局なんかずっと災難に付きまとわれてばっかりだ。目の前の金髪のDTキラー受付嬢は少しあたふたしながら、

「ひゃあ~申し訳ございません!今すぐに新しい物を用意いたします~!!」

そう言って後ろに下がり、困った顔で裏側へ行った。目の前には火柱が何本か小さく立っており、そして肝心の札は少し焼き目が付いたって所だった。まあ生肉がミディアムウェルに焼けたってくらいだな!と思って、その機械に見合わぬ火を消すが為に僕は放つ。

前原「ハァ~~・・・氷の息吹ッ!」

目の前にショートしている箱型の機械に両手を上から広げ、そして彼は消火器のようなイメージを冷静に頭に浮かべる。すると手の先からは霧ヶ峰の冷房よりは強めだが、多分この世界に氷の魔法を使う(だろう)ドラゴンの氷の息吹だとかよりはかなり弱い、まさに噴出した冷気がそれにあたって、それは小さく蝋燭のような火を失くしていった。しかしこの機械、異世界にしては場違いにもほどがある、というか現代社会においての社畜の武器だ。まるであの水晶がFAXのように古い手段で、こっちが恐らくプリンターのように自動で札に文字が印刷される新しい手段のように感じられる。そもそも原本なり印刷元なりのWordかDocsかワープロなんてないけど。なんかあっちの方が辺境なんだな、人類王国の中でも。

そして最終的に火柱がその機械から消えると、やがて真ん中にあった札が顔を表した。

見るとそれはどこかおかしく、印刷ミスのように文字化けしてい・・・ん?アレ僕の名前がそのまま日本国籍に書いてあるままの漢字で書かれてる?これまではカタカナ表記だったはずなのに。待てよ?嫌違う!“蜑榊次謔”・・・これ文字化けだ!しかも下の体力知力の隣にアルファベットじゃなくて、どちらも“0”って書かれてるんだよ。なんだ?これ印刷ミスか?まあショートするんなら分からなくもないけど。いやインク切れか?そもそも魔法だからインクはいらないはず。じゃあこれは・・・マジの奴として取っていいんだよな?僕はその冷気を当てた後にその機械の上にあった札を、あの人が来ないかとキョロキョロ身を乗り出して、そしていないという事確認したその時、僕はシュンッと恐ろしく早い手さばきで、その一人以外は見逃しちゃう動きですぐに取って自分の紫色のズボン、まあ地下の宗教施設に居た時からずっと履いている奴にねじ込んだ。まあ名刺ぐらいの大きさの札だからまあ入るだろうと思って。

「お待たせしました~ってあれ消えているし・・・ひゃっ!つめたっ!」

すると戻って来たDTキラーは、この様子を見てすぐに機械に手を触れる。どっちみち火事が起きた後にも関わらず直接その燃えカス兼出火元を触るのは余り安全面として地上波で放送するには無理があるBPO案件なのだが、ここが異世界なのでまぁよしとしよう。

いぇーい!BPO君見てる―?今から子どもが真似するような危険な事をやりまーす!

っていう感じの事か。まあ結論のところそんな物を見せなければいいのだからまあ、必要ないというものであるようなもんだなぁ。あいつらアニメも規制しやがってふざけんなこの自己正義酔いしれ組織、またの名を現代版星の使い。マイノリティの皮を被った仮性包茎暴力装置だクソッタレ。

まあそんな不満を吐いていると、今度はさっきのゲームキューブみたいな立方体の箱ではなく、Xbox360みたいに横に広い物を持ってきた。またどうせショートして破壊信号、通称レッドリングを出すだろう、もう騙されないぞみたいなつもりで僕は手をその上に置く。


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