「あの~・・・マスタ~?あの人なんか札の体力と知力について勘違いしていると思うんですけど・・・」
椅子にうなだれるように座っている筋骨隆々の男を指さしながら、スカート丈の短いメイド服のような物を着ている彼女は隣のデスクでグラスを拭いているマスターに耳打ちするように告げる。するとそのマスターは真顔でこう答えた。
マスター「まあ・・・どう見てもあの体格で0は順当どころか人知を超えた化け物レベルなのにねぇ・・・」
しかしてマスターも彼を見て愛想笑いしていた。そう、その椅子でうなだれている前原悟は、
上に吊らされている蝋燭のシャンデリアがゆっくりと小刻みに揺れる様をぼんやりと眺めていた。焦燥感と喪失感の元に。
前原「(終わった体力並びに知力0、なんにもないや詰んだわ。もう魔王に勝てん、どうしよう諦めて冒険者会の隣で農業始めようか・・・まあ食材は隣に送るとして・・・あぁでも駄目だダメだ!でもなぁ、完全にしてやられたわぁ・・・)」
しかしそんな手に置いた前原悟は、椅子の上でうなだれていた。どうしてならこれである、札に書かれている0が彼にとっては貧弱貧弱ゥ!な物に捉えてしまったのだ。そんな彼は止まるところを知らず、何を思ったのかいきなりあの掲示板を開き、その不満をぶちまけ始める。
マエハラサトル“ワイさっき魔王倒すと宣言した人、もうすでに帰りたい。”
剣の初心者“詳しく聞かせていただきたい。もしかしてもうすでに倒されたとか。凌望”
マエハラサトル“実はさっきアイセラ大陸に上陸したついでに冒険者会に行ったところ、能力が最弱になっていた。やっぱりワイにはできなかったやで。今冒険者会の椅子に座ってうなだれているわ。”
そう言ってなんか喧嘩している板の下にそういった投稿を載せた途端、凌望よりすぐに返信がやって来る。どうやら僕の師匠であるためなのか詳しく知りたそうにしていたので、全部教えることにした。
マエハラサトル“いやまあ、その発行された札がなんか体力と知力の横に0って表示されているから最弱だわ”
マエハラサトル“終わった。結局なんやかんやで詰んでたわ。”
剣の初心者“そう。今から向かう。凌雨華”
そう二つ連続で投稿していると、そんなうなだれていた彼の元に一つの朗報が来る。
アバドン生命の木·ゴールド講師@月曜一限“え?聞いたことないですよ?”
ですよね~まあ魔法に精通している方ならもちろん無謀って・・・え?
アバドン生命の木·ゴールド講師@月曜一限“この大陸内で指折りの最強格である程ですよ?全然十分に戦えるどころか、むしろ逆にあなたが魔王を統べるほどです。まあマエハラさんならそんな事しないと全然思えますが”
信者どもは貢ぐべし“強いじゃん。私より”
ABS553“まあ我が星には妥当でございますね。そのまま神の庭園とやらも潰してほしい程にございます。”
信者どもは貢ぐべし“うるさい”
マエハラサトル“まあまあ、喧嘩はしないでおくだされ”
これまで見た感じだと・・・D,C,B,A,9,7,6,4,2,1・・・え?もしかしてこの札16進数で出力されてる?
だとしたら・・・すげえ不便だな!本ッ当にややこしいこれ。
16進数。数字の数え方の一つで、0から9までの数字に加えて、AからFまでの6つの文字を使用して数を表現する方式。例えば、16進数の「1B」は、10進数で27に相当する。そしてその16進数は色コードやIPアドレスの表記にも利用されており、プログラミングやデジタルデータの処理において重要な役割を果たしている物だ。そう、この世界のステータスという物は16進数の大きさで決まり、それはF、E、D、C、B、Aからの9、8、7と16進数の数字が小さくなっていくにつれてその強さは反比例に大きくなっていくのだ。
しかしそんな気づきも小さく、僕はまるで受けてすらも無い大学に受かったかの如く、飛び跳ねるほどにガッツポーズした。しかしいきなり喧嘩腰なABS553と、そして信者どもは貢ぐべし、カッコ神の代行者セシリアさんという水と油のような存在二人の空気を治めた。そんなこんなでスレッドの下には対話文は続いていく。しかし僕にとっては最早関係のない“近年の人類王の悪口”だとか、“神の庭園はカルト集団”だとか、“星の信者はどんな魔法を使うのか?”とか、まあこれら全部一人が話題を持ち出しているんだけどね?まぁ政治や宗教の話だとかはしてて悪くないんだけどさすがにこれ、どっかの誰かに見られたらこちらは説明が付かない、そして自分が王への侮辱か何かでひ〇ゆきみたいな状況になってしまう。しかし誰かが、それを食い止める為に一つの質問をした。
マエハラサトル“あの~・・・体力と知力って何ですか?”
そう、一番この世界の冒険者、そして勇者になる者なら当然知っている・・・であろう常識を彼は訊く。
~アバドン生命の樹魔法学園~
カーン「ふっ!まあまあまあまあ・・・まぁ全員が魔法学園の生徒ではないからそんな質問が来るのは吝(やぶさ)かではない・・・ここは専門家が直々に“詳しく”お教えしないと・・・」
アバドン生命の木·ゴールド講師@月曜一限“ご相談ありがとうございます。魔法学園の某講師です。以外と知られていないその体力と知力の謎、一見関係ないように見えるのですが実はその二つは魔法という観点においては非常に密接であるのです。体力は一個ごとに出せる魔法の大きさ、そして知力はどれだけの種類の魔法を扱えるか、です。つまり今のマエハラさんは大量の魔法を全て最大の威力で出せるという事になります。通常ならどちらかに偏っている可能性が多いのです。知力が良くてたくさんの種類の魔法が使えても体力が無いからかそれらの威力が弱くなったり、逆に体力が良くても知力が弱いせいであまり多くの種類の魔法を使えないという欠点もございます。”
なるほど、つまるところ体力はパソコンにおいてのCPUのスペックで、知力はメモリって事か。じゃあ外部メモリとかつなげればまあ少なからずいくらでも補正は効くな。だからあんなクソでかい本があるっちゅうわけだな?
嘘ぉ・・・えぇでもあれじゃん。見た限り4個・・・ぐらいしかないよ?本来なら出来ないは・・・ず・・・?
今度は何か上から横動画見ている時や某シャンシャン鳴る音ゲーやっている時に出てくるとウザい通知が上から降って来た。“出来ます”と一言の通知。僕は何かその質問に関係あるのではないかと思い、また別のウィンドウで開くことにした。そう、マルチスクリーンの利点を十分にここで利用したのだ。そんな通知が来たのは、誰でも見れる掲示板に居たABS553だった。待てよ?兄か妹かどっちの方だ?まぁ見てみないと分からないか。
ABS553“出来ます”
そんなたった四文字の下に、僕が読んだ途端急に、いやだれかが見ているように
ABS553“あなたの覚えられる魔法はたくさんでございます。分かりますか?この世界にある全ての魔法が全てあなたの物になるのです。”
僕はそんな事を言われて、すぐに自分の冒険札を取り出す。しかしそれはただの札で、何の変哲も無い。
ABS553“まぁ餞別として私の魔法を使ってみてください。添付いたしますから。”
ファイヤーボール ダウンロードする
アイスボール ダウンロードする
自己回復 ダウンロードする
サンダーボール ダウンロードする
う~わすっごい初歩的。多分絶対になめられてるタイプだよ・・・まぁ勿論ダウンロードするけどさ。
マエハラサトル“ありがとうございます”
ていうかABS553って二人いたんだけど、これは・・・どっちの方だ?ちょっとそれが吉となったらすぐ返信。そんな一行(一人)はアマゾンの奥地へと向かった。
マエハラサトル“一つ質問なのですけど、あなたはどっちの方なんですか?”
僕は訊く、お前は妹なのか兄なのか。いやはや妹の振りをしたネカマの兄なのか、真相はいかに!?もしかしたらAIっていう説もあるけども、まぁそんな高度に会話するAI なんてそもそも入れるのにも無理があるんだわ。Unityにハメたらデータ容量がビッタだ。Unityだぞおメエ?だから決まった行動をするNPCが偉い程役に立つってことや。
ABS553“味方です。あなたの”
おぉん、そうかそうか。
ん?待てよNPC・・・ノンプレイヤーキャラクター・・・異世界転生チートハーレム・・・女の子沢山、でもみんなバカ・・・
前原「そういうことかっ!だからだ!」
嫌な事に気づいてしまった。この小説・・・というかなろう系でよくある異世界転生系チートハーレムもの、まあアニメにも限らずでよくある主人公が気持ち悪いくらいにモテるあの現象の謎に説明が付くかもしれない。
前原「異世界転生チートハーレム、今さら懇願してももう遅い系の周りの奴は主人公以外全員NPCってことだ!だからあんな馬鹿になるわけだ!」
僕は立ち上がっていきなりそう叫ぶ。そのおかげかそのテーブルから遠くにいるうなだれている姿を見ているこの店のマスターは、拭いていたグラスを落としてしまったようだ。まあそんなことは置いておいて、多分積んでいるのかと言うと某おフランスの現在炎上中のシリーズじゃない、オープンワールドFPSゲームの4か6にある一定の部分から動かなくなるタイプか、撃たれているのに気づかないタイプ。まあ異世界転生系で言うんだったら全員親密度なりの変数がいきなりマックスになって、そして自然に主人公についてくる、恋という現象が発生するタイプのNPCだろう。つまるところ、その主人公やそれを見ているヤツが気持ちよくなるためにNPCという一定の動作をする仕組まれたキャラクターばっかりいるっていう話だ。
トントン
そんなこんなでなろう系の登場人物たちがバカになる原因をこのゲームの中だと仮定して考えていると、右の肩を後ろからトントンと叩かれた。それはそう、先ほどアルファ掲示板で今から向かうと言って来てくれた・・・
前原「ありがとう、道にまよっふぇ」
凌雨華だったのだが、彼女は罠をその肩に残していた。そう、振り返るといきなりほっぺがその彼女の人差し指によって凹んだのだ。見れば凌雨華はニヘッと“世界が平和になるあの娘のように笑った顔”をしている。そんなに面白いかこの野郎、人が迷って冒険者会に入ったものの、ステータスが弱いと思ったらなろう系みたいにいきなりチートレベルなスキル・・・じゃなくてステータスをいきなり手に入れたっていう、まぁもうここで終わってもいいんじゃないか、もうテンプレご都合主義の設定でマンネリ化しているんじゃないかと思われるような展開が今ここにあった。
凌雨華「へっへっへっへっwwwやっぱり後ろから攻撃するのが一番だねぇ~、まぁそんなマエハラはとりあえずこれを着な?」
まるで久しぶりの正月に帰省した従兄をいじるような彼女は、そのスタイルを隠すかのように上にポンチョみたいな布を着ている。どうしてなのかは分からなかったが、でも何か理由があるのだろう。すると僕にも同じようなツギハギの布で出来た物を渡す。
前原「これは?君が着ている奴と同じ奴?」
僕はまた聞いた。そして疑問は変に確信へと変わっていく。
凌雨華「そうだよ?大きな外套っていうよりかは貧乏人に見せる方がいいんだよ。しかもマエハラはさ、教祖として祀り上げられていたのでしょ?なら分かるよね?あの・・・星の信者っていうのはまあこの大陸で厄介者として知られているけど、でもそんな奴らがどのように厄介かは知らない。だってそれを知っている人は・・・」
しかし彼女は寸前の所で言葉を濁す。どうやらまぁその星の信者という名前を出した瞬間に破滅の呪文か何かを受けるヴォルデモート的な物のようだ。
前原「消されるとk「それ以上言わないで。聞かれているかもしれないから」
しかし彼女は僕がそれについて言及しようとした途端、人差し指を僕の唇に置いて忠告した。これ以上はさすがに体裁上やばいし、しかもカウンターにマスターと例の二人、そして遠くのテーブルに一人、この中の誰かがその末端であるかもしれないという可能性があるのだ。3分の一か、はたまた全員か・・・その真相は定かではない。とにかくここから去る方が良さそうな雰囲気だった。そんな僕は他力本願で彼女に子供のように手を引かれてその店を出る。