目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第5話

~路上~

行き交う人だかりに身を任せ、そして凌雨華にも自分は身を任せている彼は、そんな彼女にどこかに連れられて行く。するとそこは牧草の藁の一本一本が地面に散乱している一つの小屋に行きついた。中には獣、いや動物のような臭い。そう、馬小屋であった。そんなところでその小屋の前に座っている老人はすぐさま後ろへと向かい、そしてあまり日の差さない暗闇の中から2頭の馬の手綱を掴んでやって来た。一つは黒い馬と、もう一つは・・・

凌雨華「どっちか選んで乗って」

彼女は何もリアクションはせず、ただ乗るように促す。しかし、その馬が勝手に動くことは無い。そりゃあまあ、手綱を握られているからね。

凌雨華「おぉ、いい馬を選んだね。“幸運”の毛の色をしている」

彼女は僕が乗る馬を指さしてそう言った。その馬の色は白馬のように白くなく、そして戦争の将軍が乗る馬のように黒くも無い。その馬は茶色で、そして額に流星と金色の鬣が靡いていた。

「ほう、お目が高いですミカラ様。本当に運がいい馬は前線にいる将軍が乗っているような物では無く、一番後ろにいる伝令が乗っている馬こそが最も称賛され、そして状況を遠くから分かる事でその戦況を脱するかを判断するチャンスがあるという事です。その運が何度も巡りあったという、そういった伝説がございますね。少なくともただの“伝説”でございますが」

そんな彼は皮肉交じりにそう言った。僕はと言うとまず左足をその鞍にかけ、その踏ん張りで昇っていく勢いで跨った。

前原「どう?なんかチョンリマ号みたいでしょ」

僕は某北の将軍の馬の名前を出すが、彼女は苦笑いする。まぁ勿論こっちのニッチな埒の明かないどっちもこっちも誰か分からない将軍の馬なんて当然分かるわけがない。

凌雨華「まぁ、チョンリマ号?が何か知らないけど名前としては良いんじゃない?」

それと言っては特にライトノベルのようにこちらをLOVEで見るというわけではなく、少し懐疑的な物で見ていた。まあせいぜい魔王よりは親交があると言っても二か月だ、別にこれと言って愛情なんて物は無い。

そして王都グライムスの街を二人は馬でその間を疾風の如く駆け抜けていく。その、石で舗装された道をパカラパカラと少しその音に間隔を持ちながら王都を駆け抜けていく。

凌雨華「このままさぁ!魔王城行く前にさぁ!ちょっと寄りたい所があるんだけどさぁ!いい?」

その最中彼女はいきなり叫ぶようにして僕に伝える。だけども僕はまだその馬に馴れていなくて、馬に乗る事ばかりに集中していたのと、その馬の速さで繰り出される風で一体何を言っているのかはわからなかった。だからそのために彼女に付いて行くしかなかったのであった。そんな彼女の先導するま間に向かった先はまさかのハーシェルであった。そこは僕がこの世界に初めて転生した場所、そして彼女にとっても騎士としてそこに詰めていた場所でもある。そんな二人にとって縁もゆかりもある場所に何が関係あるかは言うまでも無い。あきらかに関係がありすぎる、僕はあのABS553の件で、彼女はどのような用事で来たのかはさすがに知らなかったけど。

凌雨華「ちょっと待っていて。ね?」

彼女は馬から飛び降りて、すぐさまその詰所の中へと入っていく。しかしそれと入れ替わりでいきなり鎧を付けた一人の騎士が馬に乗っているこちらにやって来た。そう、草食系イケメン弓使いのアルスである。彼はすぐに馬に乗って目立っている僕の元へ駆け寄り、

アルス「ちょっとちょっと!ここは騎士の人以外入っちゃだm・・・ってマエハラさん!?まだここに居たの?」

そう忠告するものの僕の顔が下からフードの中に見えた事から、その若干メロンボールアイスのような色をしている髪を揺らしながら驚いていた。僕もその元へと向かうが如く、その高い馬身の馬から降りてフードを脱いでその顔を見る。

アルス「さっきミカラが凄い勢いで走って来たけど、どうしたの?」

そんな髪を若干解いたような顔で、彼はそう尋ねるものの、僕にはその理由がなんなのか分からない。まぁなんやかんやで彼女の秘密だろうな、まあ詮索しようという心は全く無いし。

そして今度はこっちからアルスに色々と質問しようとした。なぜならまあ一回目にあんな目に遭った物だから今度はその対策にでもと思って色々と情報を聞き出そうと思って。本当なら掲示板でも使って色々とセシリア兼信者どもは貢ぐべしさんに訊こうと思ったものの、まぁあの人は上様だから全然信者と逆の回答が帰ってくると思うし、それともう一つ、アルファ掲示板の開きっぱなしはなんかバッテリーの・・・いや魔法の無駄になりそうだからまあ、極力使わないというかねぇ・・・まあ後でふんだんに使うから温存してる訳だけども。

前原「そういえば、一つ聞きたい事があったんですけど。神の庭園の事で」

僕は彼にとって命よりも大切と言えそうなことについて説明を乞う。どうしてかと言うともう二度と地下牢に入れられないようにするためだからだ。

アルス「うん!なんでも聞いていいよ?」

するとその甘いマスクは快く、そして笑った顔で認めてくれた。この時安堵したのは言うまでも無い。なぜならこの神の庭園と対を成す星の信者のナンバー2であるこの村の騎士のグレッグ、いやここではもうABS553と呼んでも問題ないだろうか。まあ挙句の果てにそいつに銃を何発も撃たれたのだから。

前原「あのさ、あそこに建っている、神の庭園の総本山があるじゃないですか?」

アルス「うん、総本山があるね」

僕は続けて彼に訊く。

前原「あそこの検問を通って魔王軍領をね?一度だけ行ったことあるんですけど、なんかその時に怪訝な対応をされちゃって・・・」

僕は建前を使わず本当に自分があった怖いことを何も誇張せず伝える事にした。まあ勇気が必要だった、なぜならその宗教の話だとかで彼を傷つけてしまいそうなタブー、いわば禁句であったからだ。

アルス「あぁ~、やっぱりかぁ~」

すると、彼はその額に手をやって“やれやれ”とした態度であった。そう言う事か、やっぱ厄介な人達っていう立ち位置なのか!神の庭園一般信者でも。

前原「あ!やっぱりやっぱり・・・ですか?」

アルス「うん。よく信者の中では有名だよ。新しく入った神の庭園の信者が目の前で信者じゃない人が痛めつけられてどこかに連れて行かれる様子を見た暁には、まあすぐに逃げてきた子が走って近くの冒険者会でお酒飲んで酔いつぶれていたね。まあ、マエハラさんはそういった感じの事が怖いのなら、これを持っていったらいいよ?」

するとその草食イケメンの彼は、彼が持っていたであろう神の庭園の、円盤の形をした物で、中にはフードを被った女が彫ってあるものであり、そしてペンダントのようにじゃらじゃらとビーズのような鎖が付いた物であった。なんとまあお優しい人間だろうか。そしてなんとまあやさしいせかい、そしてやさいせいかつなのだろうか。最初は偏見で色々と物事を見てごめんなさいね?アルスさんと心の中で、その感情は面に出さずに感謝した。

アルス「これを持ってこれに祈ればいいよ?マエハラさん」

彼はそれだけを言って、またもう一度入れ替わるように凌雨華が戻って来た。

凌雨華「ごめん!待った?」

デートの待ち合わせにもうすでに一人来ていたから、謝罪から来るというそんな感じがした。

前原「ぜぇ~んぜん待ってないよ?行こう?」

僕はその凌雨華が来ると同時に馬に乗った。しかし、その二人が乗っていく時に凌雨華がとある、一つの日記帳のような物を僕に手渡した。

~魔王城~

アルティノ「」ゴン!ゴン!

対して魔王城では一人待ちぼうけている魔王が手には仕事を持ちながらテーブルに頭を打ち付けていた。間隔を持ち、何も言わずしてその彼女の大事な頭をテーブルの平に音を立てる。その目は曇っており、そして下にはクマが大きく幅を利かせていた。そう、ここ数日彼女は寝ずに自分の元に出来た大量の業務を消化していたのだ。その彼女の隣にはメガネを光らせたカカリが立っており、彼女が自分で自分を殺したり、眠ったりするのを阻止するが如く彼女をそのメガネから見ている。

カカリ「ダメですよ魔王様。沈んでしまってはこの魔王軍領ごと沈んでしまいます」

むしろ彼女こそが彼女にとっての異世界、つまるところ前原悟の居た現代に異世界転生するのではないかというそんな危機に彼女は見舞われていた。

アルティノ「異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。異世界に転生したい。」

彼女はそんな事を頭一つ打ち付ける度に壊れたラジオのように『異世界に転生する』と、かつての勇者・・・いや候補である前原悟の逆を行くような事を言っている。

カカリ「転生だなんて・・・マエハラさんのように簡単には行きませんよ?皆死んだら転生するとかそんな物ありえないですからね。死んだらみんな平等に死ですから」

しかし、その隣にいるカカリはと言うと彼女をなだめるかのようにその彼女の言う文言を否定しにかかる。まるでそんな物はない、あきらめろと言うように。

アルティノ「ずるいわよ!マエハラだけずるい!!異世界転生なんかできてこっちで楽に生活できて!おまけになんか強くなってるしでもういやだわ!私も異世界転生して魔王の知識とかそう言うの使って楽になってやる!」

するとその言っていたカカリに殴りかかる。そして馬乗りになってメガネをかけた顔に拳で何度もポコポコと殴った。しかし、その次にやって来たのは拳ではなく、カカリの直上にやって来た涙であった。

アルティノ「魔王なんて・・・魔王だったおじいちゃんなんて“殺す”んじゃなかったわ・・・!」

そんな嗚咽交じりの声が彼の緑色の耳に聞こえてくる。そう、彼女は先代魔王、いわば彼女の祖父を自分の手で殺め、そして魔王の座に上がったのだった。しかし彼女にとっての仕事はその祖父を自分の手で殺す以上にも辛いことだったのだ。まだ何も知らない15歳の少女が、魔王として奉られ、そして頼られ、そして離反していった者達の仕事を押し付けられてしまっていたのだった。そしてまた、彼女はカカリに殴りかかろうとするが、すんでの所で彼女は止まる。

~5年前~

先代魔王「また失敗しやがって!お前らの種族は全員劣等か!?あぁ!?」

5年前、彼女はおじいちゃんの背中、先代の魔王である彼の背中を見ていた。そう、上司(魔王)が部下(魔族)に対してパワハラをしている所を度々見ていたのである。

「お前どれだけ残ってる?」

「いや、生きている総数は3020でございます」

すると彼は冷静ながらも切れながら、

「全く駄目じゃん」

「いや、申し訳ございません」

そう言った。

「全く」

「いや、申し訳ございません」

しかし今度は呆れたような態度で、その土下座している方、詰まるところ部下の魔族に向かって、

「なー!!」

「いや、あのう、本当、申し訳ございません」

「なにやってんだお前?」

「いや、ちゃんと増やしていきます」

「なー!!」

「いや、本当、申し訳ございません」

「よー!!」

「いや、魔王様、申し訳ございません、増やします」

「んだごらお前さっき2000だのほざいているんだろてめえら!!」

そんな土下座している魔族はゴブリンで、前線の村で大隊の指揮をしていた男であった。そんな話によると、人間族と戦争で大部分の兵士を毎回失い、そして過酷な訓練を課されてそれが達成できないと魔王に呼び出されて罵倒されていた。

「全然足りねえじゃん!」

「いや、申し訳ございません」

「全然足りねえじゃん!」

「いや、申し訳ございません」

しかもそのゴブリンは事前の説明も無く、遠隔地の戦場にまた飛ばされ出向が出来ない故に人類王国へ亡命せざるを得なくなったとして、次第に彼は後を濁さずして逃げて行った。

~~~~~


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?