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第6話

彼女の脳裏には、昔見たその記憶が裏返ってその彼女が目の前の護衛、いや“部下”に向かって拳を使わせるのを辞めさせた。見ればカカリの顔は何処か腫れており、肝心のメガネは少し片方が割れていた。その直後すぐにまた魔王アルティノはそれに見合わない涙を見せてワンワンと泣いた。そう、彼女はよりにもよって自分が手をかけた祖父と同じように、絶対に自分が上になったら完全に全く負担のない、楽に暮らせる魔王軍領を作っていきたかったのに、これとは全く違う、いやそんなおじいちゃんが魔王だった時と同じ社会を作りかけていた。

アルティノ「そう・・・そうよね。やっぱり上が下に圧力をかけちゃ、ダメだものね・・・ごめんなさい、カカリ」

しかしその謝る先であるカカリはケロっとした態度でいた。やはり長年彼女の護衛としているからこそ、少女のアルティノとしてなんでも知っている。

カカリ「いえいえ、構いません。そう言って自暴自棄になる時もございます」

先ほどのご乱心と終わらぬ仕事でやつれた魔王は、そんな護衛であるカカリを見つめて、そしてまた大きく謝る。しかし彼女は自己不信で、その気持ちは全く救われない。

そんな最中、扉の叩く音がけたたましく鳴った。いつもならそれは優しい音で簡単に終わるはずなものの、それは急を要する物で違っていた。

アルティノ「入りなさい」

彼女はそれにもかかわらず先ほどとは違って冷静にそう促した。するとその扉が開かれると、一人のフラワーエルフの女性が息を切らして入ってきた。

「魔王様!大変です!




一部の魔族が反乱軍として決起いたしました!」

その彼女を追い詰める惨い情報が今その彼女の耳に響いた。これまで散々その領土に、民に尽くしてきたのに、されどその努力は民の目も暮れずそれどころか怒りを露わにしてこちらに楯を突くという物であった。そんな彼女はもう、その状況に落胆するものの魔王である務めとして彼女は、冷静にその戦況を訊く。

アルティノ「状況は?」

しかし、次に発されるのは彼女が最も危機に瀕するもう一つの脅威が今そこにあった。

「その・・・数は少なくともこの魔王城への一本道で200。それと武器は・・・」

アルティノ「武器は?」

「いえ、それが黒色の変な・・・長い筒状の物で」

すると彼女はすぐさまその分からない物には目を伏せて、すぐさま魔王の職務としての態度として寂蒔としていた。

アルティノ「・・・すぐに兵士を城内で配備し、そこで防衛体制を築きなさい」

すると目の前のフラワーエルフとゴブリンのカカリは口が偶然合わさって、こう言った。

「「何が始まるんです(か)?」」

アルティノ「大惨事大戦よ!」

コマンドーネタは次のエピソードまでお預けにしようと思っていたが、アリアスが10万ドルPON☆とくれたのでとりあえず出すことにした。だけどな俺はコマンドーネタを出せと言われたら、タダでも喜んでやるぜ?

~~~~~

そんな魔王軍領に厳戒体制が敷かれる中、前原悟と凌雨華たちはその佳境に差し掛かっていた。そう、かつて彼が一度投獄された場所であり、そしてあのヤバいセシリアファンクラブのメンバーにリンチされた物だから、こっちはちょっと抵抗感があった。またあの叩く度に回復するドエム棒で殴られたらどうしよう、またもや投獄されてしまったらどうしよう。そんな疑心暗鬼が馬の上で、頭の上で揺らめいていた。しかしそんな頭で揺らめいていることも忘れてしまうほどに、自分が左手に持っているノートがあまりにも面白かった。中に書かれている内容があまりにも黒歴史すぎる、もはやABS553にとっての“デスノート”。まあ武士の恥だのなんだのは置いておいてまあ見てみよう。見れば日記帳になっているようだから。

“王国歴 1018年 いつか

もういやだ。助けてくれ。上官の命令にはどんな事であっても聞かなければならない。ある時には“お前の妹を私の側室で12人目の妻にしたい”だとか“俺はなんかパーティに行ってくるからこの事務仕事明日までにやってくれ”だとか下手に出てりゃずけずけと言いやがって。たかがお前王位継承5位のくせにどこか偉そうにしやがってクソったれが、ゴブリンのクソ以下の王族が。まじで革命起こすぞこの野郎。“

裏垢みたいだなこれ。多分ツイッターの鍵垢で流す奴だ。意外だったな、異世界の裏垢ってこんなんなんだな。なんだろう、この他人の呟いた汚物を好奇心で見たくなっている自分がいる。彼の手記には、自分がグレッグという名前ではなく“ABS553”という名前だと自称していたり、僕の存在を認識していたり、そして工学系の専門学校生として、そしてゲームクリエイターとして面白いと思った物は、制御工学という4文字。この大陸にとっては一見何の変哲もない物だが、僕はそれを知っているのだ。それともう一つ、ヤバい物が。

“我が星に害をなした神の庭園に復讐を。”

まさかのあの星の信者ブチ切れカムチャッカインフェルノ案件が知られていたのか・・・いやヤバいんじゃね?もしかして、僕が魔王を倒して新しい魔王になった時に、多分とは何だけど絶対にどこかで少なくともテロぐらいは起きるし、もしかしたらまあこの大陸が全部血の海になるわ。絶対に魔王にならんとこ。なったらなったでこいつらが調子に乗り始めていきなり大陸全体を掌握とか笑えない話だからね?

そんな彼の書かれた文字を、僕の目にとっては翻訳された形で見る。どうやら何か中二病チックと言うか、見えてはいけない物が見えてる系のイタイ人なのか。そんな文体というかここに描かれているコードが具現化されていった。要するにこいつは制御工学と言う名のグリッチというかチートを手に入れたようだ。

前原「あぁ~・・・制御工学ねぇ~・・・」

僕は少し相槌を打ちながら、そんな工業系の高専生にとって涎を垂らしながら書いた思い出のある状態遷移図を思い出す。制御工学、どっかの教授が言うには“この世界を意のままに操るための学問”と呼ばれているそのテンプレ魔王の望みを全部混ぜたみたいな学問、いやここでは魔法が、まさかの人物の手に渡っているとは思いもよらなかった。

凌雨華「知ってるの?」

僕がそんなことを呟いてるところを聞いていたのか、彼女は馬に乗っているにも関わらず前を見ずに僕の方へと向いていて、所々危ないと思ったがまあ凌雨華っていうあの剣術の師匠だから大丈夫だろうと高を括った。

前原「あぁ、知ってるも何もこっちは工学系の専門学校だったからねぇ。手に取るように分かるさ。大概物を操る事についての学問だよ」

すると隣の彼女は納得したのか、少し小刻みに縦に頷いた。しかしまたもう一度首を傾げていた。どうやら何か分からない所があるようだ、まあまあまあまあ当然だろう。だって異世界の知識なんだから当然分からないだろう。

凌雨華「ガクモンって?」

そっちかい。そこからかい、東大行け本当に。バカとぶs・・・いや全然きれいすぎるわ。ブスってさすがに言えない。

前原「まあ、言ったら~「魔法?」いや、そういうわけじゃ「魔法ってことだよね?」・・・うん、魔法だよ」

魔法と言う言葉は便利だなぁ。全部現実逃避出来るもん・・・って違う違う!そんなの明らかに魔法っていうより一つの分野なんだから、そんな魔法っていう言葉で簡単にまとめられるっていうのはちょっとね~・・・世間は許してなくとも何ともなぁ。

凌雨華「へぇ~!なるほどね?詰まるところコウガクっていう種類の魔法なんだね!初めて聞いたよ!」

彼女はそんな太陽みたいに好奇心に溢れた笑顔を見せた。思わず世間がその彼女の顔に免じて許してしまいそうなほどだった。しかしまあ彼女はそんな魔法を使わなくとも、知らなくともまあごり押しで勝てるだろう。なぜなら何にも魔法とかスキルとか使わずにそのまま自分の剣術、いや槍術で勝ちに行く人だから。

凌雨華「で、それをグレッグが持っていたと。まあ分からなくもないかなぁ~」

そんな彼女は今度は思い出しながらそんな事を言う。どうやら何かそのABS553について知っているようだ。

前原「え?なんでだい?」

そんな彼女の謎な態度に僕は訊く。

凌雨華「だってさ、あの冒険者会の店主が詰所に誰かを拘束しながらやってきて、『暴れてた人だ』って言ってすぐにうちの牢獄、ていうかまあ拘置所みたいな所にぶち込まれたけど、その後いきなりどこかへ消えたんだよ?しかもグレッグ・・・確かABS553っていう名前だっけ?同じくいなくなってたんだ。あの日からめっきり。しかも何でか分かんないんだけど、その拘置所の鉄格子がおかしいぐらい根本から断面綺麗に切れてたんだ。どんなに高精度な魔法を使ってもあんな風には切れないよ?一回か二回ぐらい王都の最高級魔術を見たけど」

明らかにそいつの事を殺したのかもしれない。だとすると日記に書かれていた“生贄として、供物としてその星に危害を加えた者を“誓い”“として集団でリンチしたって言うのと合点がいく。まあていうかそれより何か、どっかで見たような出来事だなぁ・・・もしかしてだけど聞いてみるか。

前原「え?その連れて行かれた人の名前は?」

僕はその知っているであろうその名前を聞く。

凌雨華「そうだね・・・確かアラン・ポーって「そいつ!僕に宗教家だのなんだの言ってきて挙句の果てには店主に殴りかかった奴だ!」・・・え?」

まさかの知っている奴だった。まあ知ってると言ってもこっちがなんでもカカリから貸してもらったステータススケスケメガネで見たからなんだけど。

~~~~~

まるでゲームのムービーパートをボタン一つで飛ばすようにして彼らはまたもう一度、いや今度は違う人と共にその神の庭園に踏み込んでいった。

すると、目の前にいたのはかつてのあの二人・・・ではなく金髪の巻き髪を持ち、そして白いネグリジェを着た女性がすらっとそこに立っていた。そう、この“厄介な”神の庭園の主、と言うよりは神の代行者であった。

前原「あ!セシリアさーん!」

僕は子どものように無邪気な笑顔で手を振った。すると彼女はどこか『静かにしろ』というようなジェスチャーで、少し怒っているようにムスッとしていたが、それでも少し可愛かった。僕はすぐさま自分の馬から降り、そのまま手綱を持ったまま彼女の元へと向かう。するとまあ馬の方が早いのか、そっちの方が先にその神の代行者の方について、いきなりペロペロとそのきれいな顔を舐め始めた。

なんたる失態というか、その馬はしきりに彼女の顔をペロペロと舐めている。するとそのなめられている方も、なぜか自然にほんわかとした顔になっており、まるでもっちりしているというか、どこかの饅頭を思い出すものであった。

セシリア「で?今日は違う女の人?前回は一緒に投獄された魔族だったわよね?」

彼女はいきなり勘違いされ兼ねない爆弾を投下してきた。その馬が舐めるほどの笑顔とは違った鬼、いや邪神の代行者が魔王より恐ろしい物に見えた。その瞬間、凌雨華の顔が笑っている、いや笑っているんじゃない。あれは怒りを堪えているんだ。そしてなぜか全然凌雨華さんはこっちに全く気が無いと思っていたのにあれはなんだ?完全に冤罪だこの野郎。

凌雨華「どういう事か・・・一から説明してもらおうか・・・ねぇセシリアさん?投獄したってどういう事?ていうか本当にやばいんだよ?星の信者にまあ・・・少なくともこの建物が破壊対象になるぐらい。」

しかしそれはこっちの方ではなく、まさかの神の代行者の方であった。

セシリア「えっ!?あの~その~・・・」

しかも神の代行者の方もどこか人差し指の先をチョンチョンとしながら曖昧に、そして冷や汗を掻きながら目は泳いでいた。

セシリア「ごっごめんなさい!これでお許しを!」

すると、彼女はいきなり掲示板を開いて、自分の能力をアップロードし始めた。どうやら何か隠したいことがあるのだろう、まあそんな事を隠すことはなるべく許す事が強さだと思って、あまり彼女の事は訊かなかった。そして僕はその・・・なんていうかまあ彼女のお気持ちとして添付されているアルファ掲示板をもう一度開く。

その新しいメッセージにあったのは“治癒の女神の加護”。何か神聖系みたいな魔法だっていう事がその字面だけで明らかに分かる。

前原「いや、あの~・・・良いの?」

僕は誰かに脅されているんじゃないか。目の前の凌雨華がガンを飛ばしているんじゃないかと思って彼女を見てもただ笑ったままだ。

セシリア「いえ!わ、私には必要のない物なのでっ!もうあげちゃって大丈夫でしゅ!それで魔王だろうが魔族でも倒してきちゃってください!・・・・あのね!?私すごい暇なの!!魔法使う必要あんまりないの!だからねぇ!別に使ってもらってかまわないから!」

彼女は少しオーバーにそう言った。そんなカミ神な彼女はどこか勘違いしていた。別に彼女の能力を奪うというわけではないのだこの能力自体は。だってデータの・・・何性だっけな?保存性?いや、持続性だ。

元あったデータ自体は奪われることも無く保存されるって言うのがアナログとは違う点なのだ。

前原「まあ・・・とりあえずありがとうございます。それではえっと~・・・なん、なんていえばいいんですか?あなたに神のお導きがあらんことを・・・」

セシリア「うん、それでいいもう。それで」

そんなこんなで彼らはかつての関門と名高かく、そして上はまともなものの下がヤバい組織を簡単に抜け出したが、彼らの関門はそこで終わりではなかった。

彼らが見えなくなった時、神の代行者であるセシリアは嫌な顔をしながら舌打ちをしていた。

セシリア「はぁ・・・チッ、うちの信者が監獄にぶち込んで・・・そもそもここ跨いで来なけりゃよかったのに。自分の能力で簡単に暮らせただろうに・・・」

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