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第7話

そんな彼らが通る数時間前の事である。時は夕暮れに差し掛かり、辺りも暗くなりかけていた頃だった。人、魔族の通りが多いその始まりを告げるファンファーレは鳴った。

『8:40:57 魔族語は使うな』

四人、いやリザードマン、ゴブリン、フラワーエルフ、そしてオークの1小隊が、その町で編成される。しかし彼らは黒いローブを着ており、それらのお陰か自分達の“魔法道具”は隠れていた。

「いいか?魔族語は使うな」

一番長身のリザードマンは人間が使うような言葉で、その残りの三人に伝える。見ればその彼らの武器は槍や剣などの中世の武器ではなく、この世界に唯2人だけ、その存在を知っている現代の武器・・・彼らはその武器を路地裏から出ていく前に露わにする。

「それぞれ自分の武器に弾を込めろ。もうすぐだ」

そしてもう一つ、さきほどの何を言っているのか分からない事を言っていたリザードマンはそうやって指示をする。どうやら彼がこの分隊におけるリーダーのようである。

それらは黒一色に染められた筒の下に少し湾曲した箱、詰まるところマガジンを持つ銃であった。長身のリザードマンは前原悟の居た世界にあるライフル、丸太のようなハンドガードを持つM4A1カービンを持ち、真ん中にあるチャージングハンドルを引いて一発目を込める。そして一番体重が多くのしのしと歩くオークの手には軽機関銃のM240があり、その大きな背中には同じような黒いバックパック。そしてゴブリンはサブマシンガン、しかもまた前原悟の世界にある武器のドイツ製のMP5、いや異世界だから星の信者製のMP5と言っておこう。そして最後にフラワーエルフ、その愚連隊の中では最も幼く、そして女性であった。そんな彼女の持っていた武器は拳銃であるグロック17。ポリマーフレームの軽い素材で出来た扱いやすい物であった。

「まだだ~・・・まだ待てよ~?フフッ」

そんなフラワーエルフの彼女はどこか男勝りで、ホクホクとした笑顔を見せる。とてもこれから偽旗作戦をするような厳密さは無かった。

「そんなに嬉しいのか?同族に銃と言うあの星の信者からもらった新たなヘンテコ武器を向ける事が」

そんな様子にオークは声を低くして聞く。すると彼女は嬉しそうに叫んだ。

「当たり前よ!だってもう・・・

これまで散々こき使っていた奴に復讐が出来るのだからっ!!」

そんな彼女達は人通りの少ない路地裏からその人だらけで目に付いてしまう大通りへと向かった。その始まりを告げるファンファーレは

ドドドドドドドドドッ!

連続して鳴った。

しかし何か注目を引き寄せただけなのか、はたまた彼らの見たことが無い武器なのか周りに人がゾロリとやって来る。そんな注目に彼らはその武器を向けて、

パパパパパパパッ!

いきなり自分が守るべき同族たちに引き金を引いた。挙がる悲鳴と金切り声、そして機関銃、ライフル、サブマシンガン、ピストルの奏でる重い四重奏の音。何より残虐に彼らの周りに血が流れる様子が周囲を怯えさせて、そして蜘蛛の子を散らすように逃げさせた。しかしそんな逃げる後ろ姿にも容赦なくその銃を向ける。まるで狩りの様で、とても気持ちがいい。中でも歩いてる時に撃つ、推し戻される感覚が楽しくなってしまい、その引ききった指がさらに重くなって動かなくなる。そして一人ずつ弾切れになればその弾倉を抜き、そして新しい弾倉を身に着けていたチェストリグなりから抜いてもう一度本体に挿し、その虐殺は続く。するとその様子に気づいていない可愛い子どものゴブリンが一人、横で倒れている父親ゴブリンの体をゆさゆさと揺さぶっていた。するとその様子に気づいたリザードマンは、引き金を握っている右の指、いやグリップすらも手を離して、

「おい、グンソウ。いや、SGTE5。“アレ”をくれ」

老いた鱗を持つ右手を横に突き出す。するとその“グンソウ”と呼ばれていたSGTE5は自分のマシンガンを止め、バックパックからまたフラワーエルフの持っている同じようだけども少し小さい拳銃、これまた同じような名前のグロック19を渡した。そしてその拳銃のスライドをガチャリとひいては、その状況に気づいていない子どもに向ける。

グンソウ「おい、こどもはさすがに見逃して・・・」

そんな状況を静かに見ていられないグンソウがそれを止めに入ろうとしたが、そのリザードマンは子どもに向けるのではなく、いきなりその拳銃をクルリと回して、その子供が取れるようにしてしまった。その様子に気づいた泣いているゴブリンの子供は、その拳銃をゆっくりと握る。

「良いかい?あの魔族達は悪い事をした敵だ。狙って当たったら100点をおじさんからあげよう。よぉ~く狙って撃つんだ」

するとその少年は直ぐに本能で察知したのか、それをつかみ取って逃げる民衆に向ける。その横に彼は中腰となってその逃げていく先に指を指す。しかし、その子どもは震えてその弾を撃つことが出来ないかに思われたが、いとも簡単に引き金を引いてしまった。その弾かれた弾頭は回転しながら真っ直ぐにその逃げ遅れた一人に向かってパスっと簡単に当たる。

「お見事」

するとその様子に満足が行ったのか、少し笑顔でその男の子の背中をポンと叩いた。まるで初めての狩猟で獲物を挙げた子どもをなだめるように。そうやって彼らはそのままその男の子の元には二度と行かなかった。その自分達の武器とローブの中に見え隠れするチェストリグなりボディアーマーなりタクティカルベストなりと共に。ただそこに一人の少年兵を残して。

「動くな貴様ら!」

するとその少年兵の後ろからいきなりゴブリンの兵士、恐らくこの街の衛兵として徴用されている者達だろう。彼らは槍と剣と弓、それ以外にも色々と武器になりそうな物をかき集めてきた有象無象の集団であったが。

「数は?」

「目の前に30」

「全く、全然余裕だな。屁でもない」

そんな事を返し、彼らはその従うべき者達に反して銃をそれらに向け、

ドドドドッドドドドッ

パァンッパァンッ

パパパッパパパッ

パララララララッ!

と、特有でこの世界に二つとも無い乾いた音、そして地面にどんどん薬莢が落ちていく音が連続してそのフィリップの土地から響いた。その土地は、魔王軍領唯一の人類との交易があった街から凄惨なる土地へと一瞬で変わってしまったのだ。

「ABS553、終わりました」

フラワーエルフの一人が、黒いローブの中に隠してあるペンダントからまるでスパイ映画で隠し持っていた無線機を使うように報告する。すると、周りからいきなり同じような黒いローブを着けた連中がゾロゾロとやって来る。どうやら彼らはこの流れ弾を防ぐために全員路地裏や下水道、ドブネズミみてぇな薄暗ぇ汚ぇゴミのような分際にピッタリの場所から這い上がって出てきた。同じような武器と共に。彼らはそこに住んでいた魔族達を押し返し、皮肉にも星の信者達の街へと早変わりしたのだ。

~~~~~

その様子を4階のホテルから弓を構えて見ているのは一人のエルフだった。

「まずいわね。いきなり魔族達が逃げ出したかと思ったら今度は入れ替わりで黒いローブを着た・・・いや人間もいるわ、魔族だけじゃない。考えるとただの反乱ではないわね」

そんなことを言っていると、ソファで寝転がっているそのショートカットの元騎士は、ため息交じりに呟いた。まるで我関せずのように。

「どうせなんかのお祭りじゃない?ここ最近うるさかったんだから。あぁ・・・マエハラさんと僕の二人で一緒に回りたかったなぁ~・・・」

しかし、最中に銃声が聞こえるものの彼女は気にしない。そう、彼女は彼女自身の心を燃やしたあの一人の男の話にしか気を引かないのだ。

~~~~~

パァンッ!パァンッ!

その二発の乾いた音が連続してその彼らの先で鳴る。一人は馬の背中に顔をうずめ、もう一人はその音が鳴った方向へと振り向いていた。

凌雨華「マエハラ。何してるの?」

その様子を見て彼女はそう聞く。

前原「いや何してるも何も頭を低くしないと駄目だよ!?銃声銃声!」

しかし彼女は僕が何を言っているのか分からない。

凌雨華「ジュウセイ?まあそれがどんな物か知らないけど相手側から自分は敵ですって教えてくれるのだったら別にどうってことないわ」

そして変に怖気づいていないのも何か変だ。まあ知らないからという事もあるけどこんなに大音量なら本能で察知するはずだ。過度な自信も無理がありすぎる。

前原「なんでだい?」

僕はおそるおそる聞いた。

凌雨華「だってさ・・・今ここでその“ジュウセイ”とやらの魔法道具と私の槍、どっちが強いか比べられるんだからっ!!」

すると急に彼女の馬ごと方向を転換し、その町の中へと入っていく。

前原「だから行くなって危険だからあれほど!」

そんな彼女に引かれてフィリップ参り、というさほど上手くも無いことわざを述べるものの、彼らには聞かれもしなかった。

~~~~~

目の前から馬の蹄が鳴る音とそして男の叫ぶ声が聞こえる。一人の星の信者はすぐさま銃を肩に頬付けをするまではいかないが、少し警戒したようにその銃を斜めに向ける。するとその馬の蹄は次第に近く、大きくなってきた。そして、いきなり馬とその上に乗っている女性がその目の前に姿を現した。その銃を構えていた星の信者はいきなり警告も無しに発砲した。におにぎりのような三角のサイトを覗き、パンっパンと単発でその標的に向かって撃つ。だがしかし、その凌雨華が乗っている馬どころか、目立った頭すらも簡単に当たらない。

それどころか凌雨華はその馬の横から槍を突きだして、その馬のスピードに乗って全速力で目の前のM4A1を持った男に矛と共に死を迎えに来ている。

寸前の距離10メートルの所で何とか馬の首に当たったものの、されど彼女は推進力を利用して、

ザクッ

その男の心臓に一突き。男はその槍に貫かれ、武器を落とした。口からを血を吐いており、そして動かなくなる。

凌雨華「勝った・・・!」

彼女はやり切った感をだしていたもののそれは直ぐに終わる。なぜならそんな大騒動な物なのだからいきなりさっき一人殺した奴と同じような人が何人も出てくる。しかし、有象無象に人なりゴブリンなりがいるだけで何も彼女にとって苦ではない。そんな彼女を狙わんとその照準を数人は向けた瞬間、いきなり彼女の持っている大事な槍を壁にいきなりブスッとすごい勢いで刺した。そのおかげか、周りの持っていた銃が其処へ向かって突進して、勢いよくぶつかって壊れる。またもう一度引いた時、彼女はどこかの飛び台に乗りあがって彼らに攻撃する。しかしそれまで中心にいた残像を追っていた敵はもう遅い。まず腹に峰打ちされ、そして彼女にとっては最早鉄くずでしかない銃が空に舞い上がっている。それを見た凌雨華は、自分の華麗なる槍捌きでその槍自体をゴムのように柔らかくさせて空中でバラバラに崩してしまったのだ。しかしそれでも彼らの包囲網は解かれない、するともう一つ、もう一人の男が出していた拳銃をグニャリとその槍で曲げ、そしてトドメとして脛に一発、そして背中にドスッと一発と、また打撃を食らわした。

一方その頃、前原悟はと言うと彼女の先に行ってしまった道を辿っている。そして彼女、凌雨華の姿が見えるとすぐにえぐい角度で方向転換をして落とされそうになるものの、何とか踏ん張ってその馬にしがみつく。すると目の前の彼女は囲まれていた、星の信者に。しかも囲んでいる奴らが持っているのはそう、僕の世界にあった現代の武器である銃だったのだ。ピストルにライフルにサブマシンガン、様々というかもはやチーターかグリッチ、それかmodに近い何かを感じるそいつらは、自分たちの銃を向けながら彼女に近づいている。しかしそんな彼女が窮地に立たされているという風には見えなかった。無謀で負けず嫌いの凌雨華が、そもそも大量の銃持った奴相手に生身で立っているのが不思議だ。しかし彼女はそれにも関わらず、一発撃てば一瞬でその技術に秀でるも否も、そして誰が持っていようと関係なく殺せる武器を持っている相手にも屈しなかった。むしろその後ろ姿でこっちが勇者となる者なのに未だ学んでいるくらいだ。見れば彼女のその姿はいつの間にか土埃を立てて、周りがいきなり「グおっ!?」だの「あべしっ!!」だの悶える声が聞こえてきた。しかし彼女の声ではなかったのは分かっていた。その状況は何が起こっているのか分からなくなっており、下に降りてその様子を確認しようとした時、後ろでガチャリと音が鳴った。

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