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第9章 管理者、その男勇者につき

第1話

「冒険者、ヴィト・ローズ。汝の魔王討伐を称えて王立名誉騎士勲章、そして領土と金貨100万枚の褒美を授ける!他の冒険者も同じく、冒険者アンナ・シュトレン。汝の魔王討伐における隠れながらの貢献、尊敬に値して金貨50万枚を授ける!並びに騎士団のミカラ、汝には追放された凌望という父親がいたな?」

そんな問いかけから凌雨華、ボディーラインがくっきりと出ている服を着ている彼女に迫る。

凌雨華「はい!居りますとも!」

「よかろう、汝の父親、凌望を此度の戦利より追放を解除する!即刻職に就き賜え!!」

凌雨華「・・・感謝の極みッ!!!」

彼女は目の前で拱手をして頭を下げた。

そんなファンファーレとドラムの音が鳴る中、その賞賛をして玉座に腰を掛ける国王の前で跪いていた。それは太った豚に赤い衣を上から被せたような、なんともカッコよいとは形容出来ない姿である中、彼女たちの目の前に4人の王国の聖職者、いや祭礼者がそれぞれトレーに勲章なり賞状なり金券なりを乗せながら。しかしその勲章を受け取った者はそんなもんいらんわ。さっさと私の好きだった人を返せと言わんばかりに死んだ目でその国王を睨んでいる。

~~~~~

あの日、その皆が恐れる魔王をマエハラさんが討伐した日、僕はなぜか魔王城の中で、高級そうな赤いカーペットが敷かれている中で目覚めた。するとその様子に気づいた二人、えっとマエハラさんの姉弟子とアンナが僕の様子に気づいていた。

アンナ「起きた!ヴィト!大丈夫!?」

するといきなりアンナが僕の両肩を揺らして、僕の意識を死にかけの所から起こす。そしてそれに釣られて自分の身体を起こそうとするものの、

ヴィト「うぅん・・・痛っ」

その体を起こした瞬間、お腹に痛みが走る。見ればその腹には包帯が巻かれていて、その上から手探りで自分のその腹を触ると、右側の少し下の所に豆ほどの小さな窪みがあった。そんな痛がっている様子からいきなりアンナが僕の肩を掴んで助けようとしてくるものの、僕はそんな事必要としていない。こう見えても丈夫な体だったから。

ヴィト「いや大丈夫だよ。アンナ」

そんな感じで彼女の助けを断ろうとした時、左にいるマエハラさんの姉弟子が言葉を発する。

凌雨華「やっと起きたか・・・」

冷静に淡々と告げる。しかしその姉弟子は、僕が起き上がったのに何も驚きも喜びもしていない。それどころかどこか悲しそうにしていた。僕を見ながら。

ヴィト「あの・・・マエハラさんは?」

僕は最愛の人、マエハラさんをその人の姉弟子に聞いてみる。すると彼女は何も言葉を発さず、ただ僕を見つめているだけだった。

ヴィト「え・・・?ねえ、マエハラさんは死んでないよね?生きてるんだよね?」

その問いかけにも関わらず、凌雨華は無視を続ける。

凌雨華「・・・」

その様子からか、ヴィトは前原悟が死んだという彼女にとっては信じられない程の事を信じざるを得なかった。そんな彼女は静かに、だけども涙は堪えきれなくなって瞼からほろりほろりと落ちていく。いやドラゴンの骸骨の瓦礫の中に埋まってるのかもしれない。そんな気持ちが僕を昂らせ、その骸骨を取り除き始める。

しかし、現実は見るも無残な結果が笑っていた。そこにはマエハラさんの死んだ体ではなく、持っていたであろう刀身の曲がった剣だけが取り残されていた。僕はそれを両手でつかみ取る。微かにマエハラさんの匂いがしたのはなぜだろうか。

ヴィト「うっ・・・!ぐすっ・・・マエハラさぁぁぁぁぁん!!!」

その瞬間、僕は思いっきり彼の名前を声に出して泣いた。本来騎士にとって泣くのはご法度だが、この時だけ僕は一人の王国に仕える騎士ではなく、ただ一人を愛する女の子として。その彼が魔王の凶弾に倒れて死んだことに彼女は悲しみに暮れる。しかし彼女は一つまだ、別の事を考えていた。

ヴィト「(違う・・・マエハラさんはどこかで必ず生きてる筈。死んでるんだったら魔王の

娘と同じように死体として、体だけが残ってでもいる筈。だからこれは、死んだのは嘘じゃない!)」

そんな彼女は苦し紛れの現実逃避を自分にかける。この辛い、一代の想い人の死から立ち直る為に。

そんな彼女はすくっと立ち上がり、立ち直るのを見せたのかと思うと、その逆であった。いきなり「マエハラさん…マエハラさん…」とボソボソ魔法のように唱えてはトボトボと歩いては、その野戦病院となっている玉座の間を後にしていった。

アンナ「ヴィト?どこに行くの?」

隣で金髪のエルフのアンナは僕を止めてくるものの、それは僕の耳には全く聞こえない。いや聞く耳を今の僕には持てない。その彼女が持つ長い耳とは違って。

~~~~~

そのいなくなった君は魔族領の一番西側にある、西の海に面した崖に立っていた。やっと見つけた、僕はその喜びで待ちきれなくなり、見つけた途端にすぐさま両手を広げて彼に、僕よりも大きな体格の君に飛びかかるように走っていく。やっと見つけた、早く帰ろう?と促すように少し顔は困り眉にニヘッとしたような口角で居た。

するとその僕の愛しの人は僕の足音が近づくにつれてこちらに振り向いていた。そんな僕は知らなかったのだろう、彼が少し曇った顔をしているのを。そんな些細なことに気づかない僕はそのまま走っていく。

前原「・・・ね」

その彼の口が少し動いた瞬間、彼の体はどこか小さく、いやその崖の下に落ちていった。

ヴィト「え・・・?待ってダメダメダメダメダメッ!」

僕はもう動揺と焦りで落ち着かなくなり、その彼の元へと思いっきり手を伸ばして走る。その手を、僕の目の前でその命を絶やすわけにはいかない。だけどもその手は僕が崖っぷちの所で飛び込んでも後数シンティミーテル、その差は簡単に埋まらなくて、

ドボン!

そんな音を立てて、君は海の底で藻屑へとなっていく。

ヴィト「マエハラさぁーーーーんっ!」

僕はそんな悔しさを叫ぶ。だけども君はその海の中から戻ってこない。そして僕も生きてる意味も無い。その君の後を追いかける為に飛び込もうとした所、

ヴィト「ボクももういm「待て!早まるな!」

一人の女の子がその後追い自殺を止めた。その声の主はマエハラさんの姉弟子であり、彼女は思い切り強く崖とは反対の所に連れて行く。

ヴィト「HA☆NA☆SE☆HA☆NA☆SE☆」

凌雨華「早まるな!生きろ!マエハラの何かは知らないけどアイツの分まで生きるんだ!」

そんな中、崖に飛び降りそうなヴィトを止めるその姉弟子はどこか少し涙ぐんで、そして怒っていた。なぜなら彼女にとって、仙人である自分自身にとってもう、誰も簡単に失わせたくなかったからだ。

~~~~~

僕はあの時取ったマエハラさんの剣を右に納めて、そして自分のそのバラの剣を左に納めてその祝賀に臨む。

凌雨華「良かったね。勲章だってさ」

横にいる姉弟子さんはそうやって言うものの、僕はどこかその勲章なんて受け取ることは出来なかった。されども目の前にはその王国中の金をかき集めて作ったその称号の塊と、横に金貨として換える事の出来る紙が置かれている。こんな紙切れと、金の塊。

まるでマエハラさんが侮辱されているような感じで、そしてこれを授ける王国の上の人達はそんな魔王を直接倒した人の事なんて当然知らず、それどころかもはや最初からなかったモノにして、僕達にその代価としてそれ以下の褒美を与えている。そんな事がどこか僕の心に怒りと、何かくやしさと憎悪と、両親を亡くした以上の悲しみを覚えた。

ヴィト「これらをいとも簡単に渡すんだったら・・・」

「?どうされましたか?」

僕はそんなぎくしゃくした三つの感情が心で入り乱れる。それは涙として、大きな粒がその瞼から何個も外に出てきた。それだけではなく、

ヴィト「・・・・せ・・・」

涙ぐんで震えた声が嗚咽とともに出てくる。そんな様子を見ていた目の前のトレーは疑問符を浮き上がらせる。

「?」

一瞬その小さな言葉が、小さな衝撃が一つ起こり始める。

ヴィト「マエハラさんを返せっ!!!!!」

その瞬間、王の元にいきなり何かが飛んでいった。

~~~~~

ドガァァァン!!

大きなものが魔法学園の壁を壊して当たる音がする。その周り、散らばった瓦礫は上に氷を纏っていて、そして壁はその大きな円がポッカリと空いていた。

「え・・・?」

その原因を撃った本人はと言うと、どこか理解できていない。今、魔法学園内は皆授業中、未来の魔法使いの卵たちが日々切磋琢磨している場所に、一つの大きな音が中央が端の所で鳴った。その壊れた壁の教室にいる卵たちは、皆一斉に驚き、驚嘆を挙げている。

「「すげえぇぇぇ!!!!」」

驚きが其処にいる45人の底から出てきた。しかし、その魔法を放った男は焦りと恐怖に包まれて右手を生徒たちから見た左の、壊れた壁に向けて伸ばし、片足を前に出したまま硬直していた。こんなことになったのは一つ経緯がある。それは数分前、欲を言えば数年前と行きたいところだがまたそれは後で。

~~~~~

「んで・・・それでこの世界では魔法の発動する三原則「発動する魔法の属性、その魔力の大きさ、魔力の方向ですよね?」あ~あったまいいねぇ。そうだよその三原則を、簡単に言うと工学と言うかそもそもの源流に当たる物理学ではベクトルっていう概念として、まあその魔法が図式化出来るって話なわけです」

魔法学園の第三講義室にて一人の講師のローブを頭まで被った一人の不審な男が目の前の黒板で魔法工学について、カッカッカッカッとチョークが削れる音を立てて、“ベクトル”と書いていく。そしてそのタイトルの下に生徒達から左の矢印を書き、そしてそれを対角線と見立てるようにして点線で三角形を作るようにする。これがただの矢印ではなくベクトルであるという誇張をするように。そしてある程度その概念について説明したのだが、どうにか皆腑に落ちない表情をしていた。そりゃあそうだろう、だって異世界の高(校数学、物理程)度な学問なんだから。

「まあね?こんな話じゃ皆は簡単に理解できてないだろうから実践に移るわけなんだけど・・・まあ簡単に見てもらった方が簡単だから見てもらおう」

そこで工学と言う名の魔法の教鞭をとる男は少し腕を回して、「よっしゃちょっと見せたるわ」という感じでその隠れたドヤ顔を静かに作る。だけどもそれは周りの魔法学園の生徒たちには分からない。しかし生徒たちは少しわくわくするようにザワザワと騒がしくなっていくのだった。そりゃあそうだ、だって理科の実験だとかは皆ドキドキワクワクするような物だろう。しかも先生が目の前でパフォーマンスするんだから余計に皆興味津々の筈だ。その男は自分の右手を前に突き出し、皆に分かるようにこう宣言する。

「じゃあ行きますよ~イクイク。・・・スゥ~・・・アイスボール!」

~~~~~

それで今に至る。

「すげえよ先生!あんだけでけえ魔法なんざ簡単に俺らじゃ撃てねえぜ!?」

周りにいきなり彼の生徒達がその魔法を撃った男を囲む。熱血そうな男がそう言うと、周りもうんうんと頷いて、

「すごぉ!先生、攻撃に特化した魔法も撃てるんですかぁ?」

それに伴って女子生徒の一人もそう聞いていた。

「・・・エイッス・・・アッス~・・・」

しかし、その先生と呼ばれるローブを被った男はどこか話が出来ない状況にあった。なぜならその目の前にある壁、つまるところ学校の設備を破壊したからだ。これからどんなお叱りが待っているか、それか何か懲戒処分になるのか、

「先生、もうこんな仕事辞めて冒険者とかになったらどうですか?もうそれはほんまに・・・女の子にモテてウハウハもんですよ!なんですか?ここで女の子選びに来たんですか笑」

そしてまた一人、そんな先生を仄めかすものの、彼の耳には全く聞こえていない。

「ウィッスウィッス」

その他にも「先生すげ~」だとか「先生TUEEEEE!」だとか皆そこでもてはやす。

あれ?なろう系ここで始まってね?今まで何だったんだ?あの~・・・もしかして魔王を倒すまでってが全部チュートリアルじゃね?よくある全クリまでがチュートリアルって意味じゃね?そんな考えが出てくるものの、それでも周りはその考えをかき消すようにして僕に称賛を挙げる。あぁ・・・これかぁ!そんな感じの少し心から湧き出るようなワクワクした、歓喜するような感じが出ていた。


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