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第4話

~王都グライムス~

私こと凌雨華はその雷鳴のような音が鳴った方向を見た。その方向は父さんが酒を吞んでいるあの冒険者会のある方向、私が向いているのと逆の方向でそれは起きた。

その大きな雷鳴の方向へと私はすぐさま足を、その父さんに鍛えてもらった自分の極速で足を運ぶ。その顔には私が普段するはずがない焦りが垣間見えていた。

凌雨華「(どうか助かって・・・私の父さんじゃないでいて!)」

その願望は更に足を速くする。すると窓から黒い煙が立ち込めるのが見えた。その冒険者会で、その父さんがいるところで。しかし、その願望とは逆を行く結果が待ち構えていた。目の前の冒険者会から火の手が立ち込める。その中から二人、人影が見える。

虫の息の二人が、目の前の燃え盛る店の中から、一人は抱え込まれていた。私の父さんである凌望が、半身焼かれながらその店の男を担いで、何とかおぼつかない足取りでその担いでいる。すると私の父さんは皆が見ている目の前で倒れた。私は其処に駆け寄り、跪く。

凌望「つたえ・・・ろ。マエハラ・・・狙われ・・・ている・・・!」

その父さんは死ぬ前の最後にそう言って、ぐったりと私の手の中で沈んでいく。その様子にもう、耐えられなくて、そして切なくて、そしてぽっかり心に穴が開く。まるであの時の武器、“ジュウ”で射られたかのように。

凌雨華「・・・あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

その彼女は燃え盛る王都で、自分が育った島から少し離れたグライムスで嘆きの声を挙げた。

~星の信者総本部~

その画面に収められた彼女の嘆く姿を見て、嗤う姿がある。そう、かつての彼女の同僚であり、そしてこれから前原悟と凌雨華にとっての共通の因縁となっていくABS553であった。

ABS553「・・・フっふふwww冷え冷え冷え冷え冷えwwwヒィ⁻wヒィwヒィwヒィwm9(^Д^)プギャーwwww」

引き笑いと吸い笑いを足して2で割ったかのような、いつぞやの動画で見た心の底から笑いたい人向けに出てきたレベル2とレベル5を合わせたかのようで、それを肴にご飯を掻き込むような、その蜜の味をパンにバターと小倉あんを塗って食べるが如く、そんな風に彼女の悲しむ姿を嘲笑った。

ABS553「さぁ、こんな世界を跡形もなく、微塵もなく破壊し尽くしましたが、結局のところどんなに力を使っても我が星には全くダメージが無いんです。なんという事でしょう。既に一回目の暗殺でご存知でありますが、連絡が全くない。つまりはすでに“殺された可能性”にあるという事なんですよ。こんなんじゃ流石にどうしようもないし・・・なんですかねぇこの胸騒ぎは。なんか内側から防がれているような・・・まあそんなことはどうでも良くて、結局まあ力をこっちが利用するか無力化すればいい話なんでね、ちょっと“お話合い”をしましょうか?あなたのいるその場所で。」

次第に彼はカメラが後ろに動くようにクローズダウンされていく。するとそれは10人や20人が銃やベストなどで武装した状態で、フードに頭を被りながらそのABS553の道を開けるようにして整列していた。そう、信者の内側にいる過激なる勢力が今その教団、世界ごと乗っ取らんと準備していた。そして彼は指をパッチンと鳴らして、

『合理的な支配は絶対的な物である』

皆心にそのイメージを以て、進軍のブーツを鳴らし始めた。

~アバドン生命の樹魔法学園・職員室~

カーン「それにしてもこの掲示板という魔法、何度見てもこの世界には二つとも無い貴重な代物ですねぇ。これが魔王を倒したとされる勇者の驚くべき魔法だとは・・・」

この学園の講師であるカーンが、右手にスープを入れたスプーンを持ちながら、目の前にアルファ掲示板のパネルを開きながら言った。

前原「出来るんだったらこっちも調べたいですよ。色々と」

「だけどよぉ、正直言うとこの学園が必要なくなるんじゃないか?もしこれが大陸中に出回ったら」

そう言うのは魔法学園の倫理科にいる偏屈な講師だった。

カーン「う~ん・・・まあ特に違う場所にいる人間と話す事が出来るというのがそもそもの驚きですが、それ以上に能力をこの・・・“ダウンロード”でしたっけ?それを使う事で自分の能力に使う事が出来るなんて意外な物ですよ?」

僕はそのカーンさんの言っていることに耳を傾ける。いや疑うのだった。

前原「どんな感じに意外なんですかい?」

カーン「いや~これはほんとにねぇ・・・魔法界における革命なんですよ?いずれにせよこの魔法はこの世界を全てを変えますよ?かつて本や人の口伝いで長い時間をかけて伝承していった物を瞬きする内に一瞬で覚えられるし、しかもそれを簡単に使えてしまうんですよ!」

「だけどよぉ、それは確かに気を付けておいた方が良い、この学園への入学者は減るしもし反道徳的な事に使われたら責任は問えないぞ?」

カーン「まあ確かに言ってることは分かるんですけど、それだと逆に突出した能力を安全という名の杭で押さえつけてしまうような物ですよ?そのやり方だと我々の在り方とは反してしまうのですよ?」

その二人はどうやら何か、摩擦した所にあった。僕こと前原悟を挟んで。

前原「そうですか・・・ちなみにこれって誇ってもいいヤツですかね?」

僕はその業務用の多用途なデスクテーブルに座ってアルファ掲示板を観察するように見ながら、僕の言う事にゆっくりとうんうんと頷く。でもやっぱりどこか僕はそれにあやかって調子に乗ってしまうと、なんだかちょっと痛い目を見るのがずっと見えている。しかもここ、自分が作ったゲームの世界・・・に近くて遠いモノだし、そんな世界で調子に乗るなんてバカバカしいし、面白くも無い。だけどどうやらその世界にもこれは異世界にとって“バグ”のような、“異質”のような、“科学的特異点”のような感じがあるのだろう。

そう考えていた時、まるでスポンサー0社というオフ会0人レベル99のような会社が放送している某逃走するバラエティーでミッションを伝えるように、いきなり二人の元にメールがやって来る。それは“剣の初心者”というハンドルネームからだった。

前原「でもですねぇ・・・こんな能力なんか何も知らない限り何も使えない魔法だと思いますよ?だって最初セs・・・まあ“信者どもは貢ぐべし”さんが来た時、全部ひらがなでメッセージを送ってましたからね。だとすればこの学校の生徒どころか講師陣にもこの魔法自体は誰も・・・って、ん?凌望師範からなんか来たな・・・」

カーン「そうですね。マエハラさんはここ3年何もメッセージなどを残している事は無かったようですが、まだ覚えていますか?まあ私は・・・遠い昔に一回“だけ”会った事はありますけど」

前原「僕は記憶力に関して疎いのにはっきりと。あぁやだな~さっさと忘れたいなぁ~」

二人はそのメッセージに目を向ける。するとそれは余りにも僕達が考えていたのとは違う物だった。

~アルファ掲示板~

その文字と写真だけのメタバースでひり出された糞の掃きだめの下に、一つ新しいメッセージが新しく

剣の初心者“何者かに狙われている。雨華”

そんなメッセージの発信元は凌望師範ではなく、おまえがか雨華たそ。

マエハラサトル“うい、分かった”

剣の初心者“え、生きてるの?死んでないの?”

信者どもは貢ぐべし“やっと出た。どうしてくれるのこの惨状?私の家、なんか燃えてるんだけど。大きな音鳴った後にいきなり全壊したんだけど?まあ何とか脱出出来たから良いとして、どういう落とし前つける?それとも星の信者が仕組んだだとかでもいうつもり?”

勝手に僕に対してピきんな代行。

ABS553“まずいですね。さすがに一回集まって状況確認します?”

剣の初心者“父さんがやられた。凌望っていう私の父さんが”

そんな突っ込む暇をも与えられない、たった8文字のその情報が部屋にいる二人を戦慄させる。あの師範が?あの凌望師範がだぞ?僕が認めた最強恩師だぞ?

~~~~~

カーン「まずいですね・・・まあでもここは霧で囲まれていますからとりあえず外敵は大丈夫ですけど、とりあえずまあゆっくりしt「カーン講師!今すぐに来てください!!」

二人でアルファ掲示板を見ていたその時、扉がバァンと大きな音を立てて誰かが入って来た。そう、僕達が共通で見覚えがある、つまりは僕達が教鞭をとっている授業に出ている生徒だった。その女生徒は息を切らしながら、彼を呼んでいる。

カーン「ん?どうしました~?入って良いですよ~?」

そんな彼はその女性とは裏腹に、少し状況を理解していないような、笑う能天気さが少しあった。しかしそんな能天気さでも一瞬で理解するほどの何発ものの雷砲がそれを告げる。そう、前原悟にとっては何処かなつかしさを感じるようなその音、そしてここでは一切聞くことが無かったはずの“銃声”だった。それを回折して聞いた瞬間、前原悟はすぐさまフードを被って立ち上がり、そして凌望と共に校内を爆走していく。その女子生徒の導くままに。

僕たちは目下に広がる中庭に繋がっている開放的な廊下を駆け抜ける。

その目の前にも何か大きな楕円形のもこもこした何かもその銃声のした方に向かっている。それは外見、が白く上に学士帽をかぶり、そして黒のローブを気休め程度に首に巻いている、そんな見た目の楕円形のケサランパサランの集合体もどきが走っていた。それとは逆な、妙に図太い声と一緒に。

「エッホエッホエッホエッホエッホエッホエッホエッホ、攻撃魔法には撃つ方向とは逆方向に同じ反動があるって伝えなきゃ。エッホエッホエッホエッホエッホエッホエッホエッホ、魔法を撃つときは想像を言葉に置き換えて滑り込ませて撃つ方が効率が良くて覚えやすいって伝えなきゃ。エッホエッホエッホエッホエッホエッホエッホエッホ」

その声で顔を見なくても分かる、メンフクロウだ。そのあまりにも遅いのを横目に、僕とカーンさんはその方向へと向かって曲がっていく。

「へへへっ、全部お前が悪いんだ・・・全部ボキの事をいじめたから悪いんだ。群れで戯れる事しかできないくせに・・・やれ集団で協力して貶めやがって・・・許さんぞ!一人だと・・・勝てないくせに・・・クキッ・・・・クヒュヒュヒュヒュヒュヒュ」

すると顔がお世辞にも良いとは言えない長髪の男が、手にはグロック17というモデルに近い拳銃、そして腰を抜かしている女子の元に突き付けていた。その周りには少し赤い髪の男がうつ伏せで蹲って倒れていたり、床に血溜りを作り出しながら壁に倒れている女子生徒がいた。間違いない、あのどこから持ってきたか一瞬で察する拳銃で周囲をいきなり撃ち始めたのだろう。

僕はすぐさまその銃を持っている男に飛びかかる。すると彼は引き金を握っていたのかその鉄の塊が腰を抜かしている娘に向かって発射される。だけどもそれは数ミリずれて大事には至らなかったが、その分それに対して恐怖させた。僕はその銃を掴んで撃てないようにし、そいつの体を地面に押し付けて取り押さえる。

前原「なにやってんだこのアホ!危ないだろうが!」

しかし前原悟は知らない、その脅威だけではないという事に。そうやって彼は自分の大きな体を圧し掛けて、プレスするようにしてその長髪の生徒の手を後ろに結んだ。すると、

「あぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」

いきなり奇声を上げ始め、その女子生徒の所を歯ぎしりを込めて憎き目を向け始めた。その男に力はないものの、その奇声のお陰でさらに怖がらせ、そして目の前の女の子は床を黄色い液体でびしょびしょにし始める。

カーン「マエハラさん!ダメですぞ!」

すると講師のカーンがすぐさまその男の顔をパチンと何かで殴る。するとその男はいきなり声を出すのをやめ、魂が抜けた様に体が軽くなった。

前原「カーン講師。何で叩いたんですか?」

カーン「私の雷の魔法を使って気絶させただけです。それより相手が魔法を出すかもしれなかったのに何でそのまま取り押さえるのですか!?あとちょっとであなたも同じように死んでたかもしれないんですよ!?」

講師は僕のやり方がよろしくないと憤慨していた。っていうか講師と言うより教授の方が妥当だろと思ったが、そんなことは事態が事態なので考える暇をも与えられなかった。

次第にその長髪ブスの力が弱まると、僕もそこから立ち上がって体をパンパンと払いながらその男を連れて行こうと拳銃と共に柱が右側にある中庭への廊下を歩いていく。すると、今度は横の所からいきなりパァン、パァンっとまた同じような音が鳴った。今度は拳銃のような音ではなく、ライフルに近い大きく重い音。いったんその長髪はカーンさんに任せて、それがする方向へ向かうと、生徒が野次馬で20人ほど同じように出てきた。

ミカ「なんか音鳴った?」

ルナ「ね、結構大きい音したけどなんかな?雷?」

ミカ「雨降る筈ないのにね。ここずっと暑いし、冬はカーン講師が雪を降らすのに」

ルナ「分かる、あれマジ寒いよね~。本当にテンションバリ下げバリ堅みたいな感じ~」

道行くJK魔法使いみたいな二人組をその場に行かせるのを止める。危ないからだ。この二人までもあの銃の被害者になってしまうのは魔法使いの未来を何のためらいもなく奪ってしまう。元々こっちが死のうとしてたのになんだって生徒達の命を狙ってんだこの野郎。

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