——数日後、百合子の部屋にて……。
(ウィル様からの手紙がようやく届いたけど、今回のお返事……相当悩まれていたのかも……)
百合子は手紙を受け取ったものの、手が未だ震えている。
いや、身体ごと怯えているといった方が正しいのだろうか。
とにかく、強張っているのは間違いない。
そう思う根拠が、彼女自身に心当たりが当然ある。
原因を作った本人だから尚更だろう。
正確には、ジェフの提案に乗ってというのが正しいのかもしれないが。
——その訳を、少し時を遡ることとしよう……。
この日のお昼間、ジェフが「白鳥屋」へ来店した。
だが、何故かいつもと様子が違う。
「ジェフ様、いらっしゃ……」
「あ、百合子様……」
その表情はちょっと困った様子そのもの。
何かあったのかと百合子も心配するが、真相の中身を聞いてみるしかないと店の中へ通す。
「あの、ジェフ様。いつもより暗い顔をしていますが……?」
百合子は、いつものようにお茶とその茶菓子として琥珀糖を提供をする。
「申し訳ございません、見苦しい顔をお見せしてしまって。実はですね、坊ちゃんが……」
ジェフから聞いた話によると何故か様子がおかしく、ウィルの目にクマが出来ていたらしい。
オマケに、彼の仕事にも支障が出てきそうなこともあるのだとか。
主人はとにかくずっと無言を貫いていたと、ジェフから見ても彼の心情にかなり心配していた。
「えぇ! そうだったのですか」
百合子から提案した内容が、ウィルにとって想像以上のものだったのだろう。
「ジェフ様……あの、私」
「はい? どうかなさいました?」
少し泣きそうになるも、ここは正直に謝らないと思った百合子は正直にいうしかなかった。
「ご、ごめんなさい! 私のせいで、ウィル様を……」
「……百合子様、一旦落ち着きましょう」
ジェフに促され、落ち着かせる為に深呼吸をする。
「それで、何か心当たりでも?」
「あの……実は」
ウィルが寝不足になるくらい悩みを持ってしまった原因を、簡潔ながらジェフに話すことにした。
ジェフは顎を手に添えながら、彼女の書いた手紙の内容に納得して頷いている。
恐らく、ウィルの考えているあろうのことを推測しているのだろう。
「……ということなので、ジェフ様。私から無理難題を押しかけて申し訳ありませんとウィル様に……」
「なるほど、そういうことでしたか……。うーん、ひとまず事情はわかりました」
(とはいえ、これに関しては私も不覚でしたな……)
話し終えた百合子はジェフに伝言を頼む。
もう既に理解していたのか困惑していた百合子を諭す。
「えぇ、もちろん。百合子様からの伝言はお預かり致しますので安心してくださいませ。ただ今回の件は百合子様が悪くないと、最初っから坊ちゃんは仰ってますのでお気になさらず……」
「でも……」
「きっと、ウィル様も百合子様との距離を縮める方法を探しながら考えているのだと思いますよ」
お別れの時はジェフにそう言われても、百合子は気になってしまうのである。
(あぁ……。これは、私がウィル様に困らせてしまったから謝らなきゃいけないものだし……。本当、反省です……。いきなり難しい提案を押し過ぎたから)
この瞬間だけは何度行っても慣れていないひと時だが、お昼の出来事を振り返ったのもあった影響で尚更重く感じている。
だが、当然のことで開けないことには何も始まらない。
(何を書かれているんだろう……。うぅ……ウィル様、怒ってないといいのだけど)
封を開け、折り畳まれた白い便箋を目を瞑ってしまうも薄らと開けながら広げている。
その後は一息をつき、意を決して文を翻訳しながら一から読み進めていく。
拝啓 ユリコ様
手紙をくれてありがとう。
まさか、ユリコから提案をしてくれるなんて私は驚きだった。
ただ、私の正直なことお伝えする。
気分を悪くしたら、本当に申し訳ない。
上手く、私の気持ちが伝わればと良いのだが……。
(あぁ……やっぱり、ダメだったかしら……。だけど、まだ文は途切れていないし続きを読まないと)
落胆しそうな空気になるも、一度落ち着きを取り戻してから再度文を恐る恐る読み辿る。
私自身も……本来、苦手意識なければ距離をなるべく離さず、君の隣でちゃんと教えてあげたい。
これは本当の想いだ、信じてほしい。
言葉にするのは難しいが……教えるにしても、近くまで添って上手く話し伝えられるか自信がまだ無いんだ。
緊張もせずに、ちゃんと向かい合って話せるのかも不安なんだ。
それに加えて君との距離も、少しでも縮められるかどうかも……。
だから、もう数日だけその回答を待ってほしい。
必ず、ジェフに手紙を持たせて返事を返すことを約束する。
ウィル・エドワード
百合子からの瞳から少し涙が溢れそうになる。
かろうじて、また数日経ったら手紙をくれることに安堵が出たものの……。
(うーん……確かに今回はジェフ様の回答と似たような答えだったけど、やっぱり私……無茶を言ってしまったよね)
けれど、百合子は彼からの回答を受けてシュン……っと落ち込んでしまった。
ウィルの持っている女性苦手な性格は、完全に克服するまでまだまだ程遠いものだ。
百合子へ何か物を渡す際、距離が多少近くになる時でも、結局は彼の腕を伸ばした分だけ離れていく。
僅かでも縮め方を模索する二人だが……。
(とりあえず、ウィル様からの返事は数日掛かっちゃうけれど、この手紙の通り待つしかないわ……)
——百合子は心のしこりが残るも、ウィルからの再度なる返事を待つのであった……。